田中くんの相棒は弱い✖️〜最強だった僕の相棒はVR内では,最弱のようです〜
せらぎ花雄
第1話 妖精会
ピピーッ
「おぉぉぉぉぉお田中選手、圧倒的大差で大会5連勝!
年間最多勝利数を8年ぶりに更新だぁ!!」
試合決着のホイッスルとともに拍喝采、たくさんの黄色い声援が僕、田中千早を囲んだ。
今年18歳になり賞金がドコドコ稼げるようになった僕は、大量の課金に人生を賭けていた。
僕の依存しているゲーム『SFファイターズ』は、いわゆる課金ゲーで、お金をより多く費やした選手が勝つ。
僕の相棒『シャイニードラゴン』は、現状況で圧倒的強さを誇る。しかし、『シャイニードラゴン』を手に入れるためには大量課金かつ長時間プレーが不可欠だ。一日1万円以上の課金、一日10時間以上プレーが最低条件だ。そんな条件をクリアして、ようやく『シャイニードラゴン』を手に入れることができる。
18歳になるまでは年齢制限で一ヶ月に1万円しか課金できなく、毎日イライラを壁にぶつけていた僕のようなクズが、1日1万円課金することでこのように大会5連続優勝ができる。
なんて腐ったゲームだ。と世間は評価するが、僕には周りの評価なんてどうでもいい。課金へ回すお金がなく、僕が羨ましいのだろうなと哀れな批評家を嘆く。
もちろん、両親はこのことを知らない。知ったらどれほど激怒する事だろうか。
大学教授の父と大学副教授の母をもつ僕は昔からたくさんの人、親戚に期待を寄せられていた。『最強の遺伝子が誕生したな』と近所では評判になったものだ。
しかし、僕たち家族の幸せはそう長くは続かなかった。僕がまだ5歳の時、両親は家を出て行った。別に離婚や家族トラブルで出て行ったのではなく、ただ勤める大学が変わり転勤が決まった。そう、専攻が全く違う父と母が出会ったこと自体が奇跡だったのだ。本来会うはずのなかった二人が出会い、生まれ、取り残されたのが僕だった。
お金はある。愛はないが、僕には毎月両親から送られてくる大金がある。『親に愛されないのなら、別の人に愛されればいい』そう思いながら、僕は一生懸命ゲームに没頭し、気づいた頃には誰もが羨み、愛されるプロゲーマーになっていた。
「田中選手、優勝インタビューをお願いします」
「そうですね、僕はたくさんの人から愛されるプレイヤーでありたい。『SF ファイターズ』には賛否両論、たくさんの意見があります。しかし、僕はこのゲームを愛しています。『シャイニードラゴン』を愛しています。今回、優勝できたことは一生僕の誇りです。ありがとう」
パチパチパチパチパチーー。
「ブラボー!」「さすが!かっこいい」と僕のファンはいつも最高の言葉を投げかけてくれる。今の僕には愛してくれるファンがいる。そう思うと、安心できた。
「優勝賞金30万円と、特別モデルのVRです」
そう言って渡されたVRの側面には、僕の最強の相棒『シャイニードラゴン』が綺麗に描かれていた。
『これを待っていた』と言うかのように僕はVRを空高く掲げた。
「どうです?ファンの皆さんの前でお披露目しますか?」
「はい!もちろんです」
そう言って僕はVRを装着し、ヘッドフォンをした。
「では、画面つけますよ!」
ヘッドホンをしている僕は周りの観衆の声は聞こえなかったものの、大いに盛り上がっているのだろうなと思い、顔をニヤつかせた。
ぱっ僕の目を開けた先には、草原と青空が広がっている。
「うわぁ……。これがVRか……。」
少し感動したのち、無駄に歩いて壇上から落ちては大事故になってしまうと感じた僕はVRを外そうとした。
「あれ……ない……」
それまで装着していたと思われるVRとヘッドフォンが僕の目元と耳元にないのだ。焦って僕は壇上から落ちないようにと気にかけながら、膝をかがめ、足元を確認した。
僕の手に触れたのは生き生きとした草々だった。
「ダンジョン、反社会共和国へようこそんっ」
VRとヘッドフォンがないことに頭がこんがらがった。硬い壇上にいるはずの僕の足元には異様な草々生い茂っており、何が起きているのかパニック状態に陥っていた時だった。
誰かから声をかけられ、僕の脳は停止した。
目がチカチカする蛍光黄色の髪の毛をポニーテールをしたいかにも、『妖精です』という人物が浮いている。妖精自体は僕の顔ほどで、僕の好きなアニメと比べるとビックサイズだった。そして、その妖精の手には長い魔法の棒があった。
夢にまで見たダンジョンの世界を生で感じ、僕は興奮気味に質問した。
「僕は、一体誰なんだい?」
きっと僕は脳が停止して、見えてはいけないものが見えているのだなと思い、とっさに存在確認をした。リアル『僕は誰』状態に少し笑えてきた。
「え〜?田中千早くんでしょ〜」
ほいっっと妖精らしき彼女は僕に『処分書』と書かれた名簿を見せた。そこには大量の名前と、年齢、罪が書かれていた。僕の罪の欄には、「裏切り」と書かれていた。
「う、裏切りって僕、何を裏切ったんですか?覚えがありません。それに、罪ってなんですか。」
「あら。『裏切り』って言葉も知らないの?さすがね、中卒なだけあるわっ」
馬鹿にしたように彼女は僕を鼻で笑った。
「説明しまーす」
そう言って小さな手を挙げると、彼女の周りには同じような妖精(?)が集まってきた。ダンジョン的展開に僕はさらに胸の高まりを感じた。
「ではまず、この世界について番号311番、説明してくれたまえ」
「はい。この世界は『ダンジョン反社会共和国』と言います。このダンジョンの世界に連れてこられたものは皆、何かしらの犯罪を犯した者ばかりです。しかしこのダンジョンでは、田中様のような犯罪者が人間の生きる世界で生き生きと生きていけるようにサポートすることを目的とし、我ら『精霊会』が全力でサポートいたします」
「わかったかね?田中千早」
やってやったぞ感を出しながら、妖精は腕を組んでみせた。
「要するに、僕が……」
「では321番、我ら『妖精会』の仕組みを教えてあげたまえ」
彼女にとって、僕の話はどうでもいいらしい。僕の話を一瞬で跳ね除け、次の説明をしだした。
「はい!まず、『妖精会』のメンバーは皆番号で区切られております。番号は300番から400番まで存在すると言われていますが、我々のような底辺の妖精には詳しいことはわかりません。10人ずつ役職が区議られており、先ほど説明した311番の妖精は、このダンジョンで犯罪者様をサポートするお役職の方々です。そして、321番の私は妖精会の秩序を守るため、配置された者です。簡単に言えば、裁判官のような役職ですね。その他にも『犯罪者を見守り係』『相棒飼育係』『教育係』など、さまざまな役職があるのですが……。貴方様がこのダンジョンで生きている間にどれほどの妖精とお会いする機会があるかわかりませんので……説明はここまでにしておきます。もし、新しい妖精と出会うことがありましたら、我々『妖精会330番』がお伺いに参ります。長々と失礼しました」
長い長い321番の話が終わり、ダンジョンのことについて少し理解の幅が広がった一方で、僕にはたくさんの疑問が生じていた。
まず、犯罪者についてだ。僕、田中千早の罪『裏切り』はなぜ犯罪と化したのか。『〇〇係』と名付けられた人々は何者なのか。その前に、100匹の妖精でこの広いダンジョンをやりくりするのは不可能なはずだ……。
このダンジョンは地球のように綺麗な草々の先には水平線が存在し、空は遠柄に丸まっている。おそらく、地球のように丸く、膨大な土地で形成されているのだろうと、中卒田中千早は推理した。
「では331番、処罰について教えてやっておくれ。この部分が一番大切だろう。よく聞いておけ」
「はい、メイさま」
これまでのキャピキャピ妖精とは一見違った見た目の清楚系妖精が僕の目をじっくりと見た。
そして、偉そうな妖精はメイというのか……と知り、やっとこのダンジョンの不気味さに気づいた。
今までメイは「311番」「321番」「331番」と呼んでいた。メイが普通の役職の人間でないことのみが僕の小さな脳みそで理解できた。
「初めまして、田中さま。私は331番、つまり処罰を計画し、実行する係のものです。」
「待って。なんで、君はこの妖精のことを『メイ様』と呼んだのだ。彼女は皆、周りの妖精を番号で呼んでいたのに」
「黙りなさい。」
メイが怖い顔をして千早を怒鳴りつけた。
「あなたが触れていい部分ではありません。立場を弁えなさい。これからは私のことは『妖精さま』とお呼びなさい」
そう言うと、口を滑らせた『331番』を大きな目で睨みつけた。
「続けてちょうだい」
「は、は、はい……。申し訳ありません。」
震えた声、手。涙目を見ていると中学校の時にいじめられていた僕の幼馴染の蓮のことを思い出した。
僕と仲が良かった彼はいつもいじめられていた。綺麗な顔に、すらりとした容姿。いかにもモデル顔、モデル体型だった彼は誰もがから羨まれ、妬まれていた。『神様の御加護だ』『神は二物を与えないんだぜ』と言って彼からは蓮から教科書を奪ったり、持ち物に絵をかき、時には燃やした。
そんな蓮を見ていられなかった僕は気づいた時には蓮をいじめていた。止めようと交渉した際に僕はビビって、彼らの手先になってしまった。そんな臆病な自分が大嫌いだった。
なのにも関わらず僕はまた同じことを高校でも繰り返した。少し背が小さく、手足が短かった彼女はいじるのにうってつけだった。僕はそんな彼女のメンタルを口論でめちゃくちゃにした。蓮のことは先生にもバレなかったが、高校の件に関しては一発アウト。そして僕は中卒となった。
「あの……。聞いてました?」
蓮との思い出を改装していて、重要なことを何一つ聞いていなかったが、もう一度言い直してもらうのを申し訳なく感じ、僕は
「はい、わかりました」
と答えてしまった。
「じゃあ、331番。相棒を紹介してあげてくれないかい?」
(相……棒……)
聴き慣れた言葉に僕はようやくVR感を感じ始めたシャイニードラゴンと出会える!胸の高まりは最高超に達した。
「どうぞ!」
「ん?」
チュンッ
「……。」
シャイニードラゴンはこんなに可愛い容姿をしていない……。こんなに弱っちくない……。
(ん?)
予想が180°外れた僕は大きな打撲をくらった。可愛い声で鳴いたのは小さなツバメだった。
「楽しい生活を!」
少し離れた丘の先で妖精軍団がとびきりのスマイルで手を振っている。僕もとびきりのスマイルで返したくなったが挙げそうになった手を下ろし、妖精軍団を追いかけた。
「おいっ。待てよ!」
僕の叫んだ頃にはもう妖精たちは誰もいなかった。
追いかけた先の崖からは見たことのない、町が広がっていた。
「なんだ……ここ」
田中くんの相棒は弱い✖️〜最強だった僕の相棒はVR内では,最弱のようです〜 せらぎ花雄 @Flower1149
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