第三十六話 バニーでメイドなオレたちなのよん
「うわぁ、見て見て! お姉さんキレーイ!」
「ホントぉ、お化粧したらすごく色っぽいね」
「そう? あ・り・が・と」
シクヨロは口元に指を当て、軽い流し目で応えた。この店にはめずらしいオトナの魅力に、悲鳴を上げる
「ねえお姉さん、この
バニーメイド服を受け取ったシクヨロは、トイレに行って着替えることにした。女性化したというものの、身長や体格は男のままだったので、いちばん大きいサイズでもバストやヒップがかなりキツキツである。また、下着もいま身につけている男性用のものしかないので、これは脱いでしまうしかない。ノーパンノーブラというのは、いささか心もとないが。
「なあこれ、おかしくないかい……かしら? 胸がちょっとキツいんだけど」
着替え終わって、控室へと戻ってきたシクヨロ。
「キャー! ホントにステキー、お姉さん!」
「スタイルも最高よね! マジすっごぉい!」
いままで、見た目でほめられた経験などほとんど覚えがないシクヨロは、生まれてはじめての女装に言いようのない高揚感を味わっていた。
「こりゃあ、女の姿も悪くねえな。いやー、美人でよかった!」
そう独り言をつぶやくシクヨロに、となりの控室からべつの
「ねえねえ、こっちの
「やだよぼく、もう……」
彼女がムリヤリに引っ張ってきたのは、おなじくこの喫茶店の制服に着替えさせられたマルタンであった。ドアの前に立っているのは、いつもの
「いいじゃんいいじゃん! よく似合ってるぜえマルタン!」
「あーんもう、やめてよぉ!」
耳まで真っ赤になって、手のひらで顔を覆うマルタン。
「
だがイヤイヤ言ってるわりに、ウサ耳からハイヒールまで完全装備しているところを見ると、案外心の底では気に入っているのかもしれない。
「ていうか、この衣装さあ……。前はエプロンがあるからいいんだけど」
そう言いながら、マルタンはその場で百八十度ターンした。
「後ろこれ、おしり丸見えじゃない?」
マルタンは、網タイツで覆われた後姿を
「大丈夫だマルタン。そういうのはあんまり気にしねえで、今日一日をぶじに乗り切ろう!」
「うう……」
「さあ、みんな準備はいい? そろそろ開店するわよ!」
手を叩きながら、
バニーメイド
客層は、言うまでもなくほぼ男。しかし、なかには女性客の姿もちらほら見受けられる。バニーメイドたちのキュートで華やかな衣装は、この街で広く万人に支持されていると言えそうだ。
「あらぁ、お帰りなさいませ、ご主人さまぁ♥」
あらかじめ、店の女の子たちからかんたんな接客のレクチャーを受けていたシクヨロは、さっそく初仕事としてホールに立った。はち切れんばかりの胸元を、むしろ強調するような姿勢の大胆なお辞儀。さらにとびきりの
「ど、ども。お姉さん、し、新人のかたですか?」
その気弱そうな若い男性客は、少々つっかえながらシクヨロにたずねた。だがシクヨロは、彼の視線が自分の胸の谷間に釘付けになっていることを見逃さなかった。
「そうなの。体験入店でね、今日だけって約束でオーナーのカミィラさんに頼まれちゃってぇ」
「あ、そ、そうなんですか。今日だけ……」
「でもぉ、ご主人さまにご
そう言いながら、人差し指をその男性客の唇に当てるシクヨロ。そしてその指を、そのまま自分の口元に添えてニコッと微笑んだ。その言葉を聞いたとたん、目の色を変えてメニューにかじりつきはじめた彼に、シクヨロは軽く会釈をしてテーブルを離れた。
「やっべえ、バニーメイドすっげえ楽しいんだが」
迷宮の冒険のことも「
「ねえお嬢ちゃん、お名前は?」
「あのぅ……マ、マルタンです」
「マルたん? かわいいねえ!」
でっぷりと太った客からからまれ、ではなく声をかけられたマルタン。あまりの恥ずかしさに、手に持った
「で、マルたんはいくつなの?」
「ぼ、ぼくは……十二歳、です」
上目遣いで答えるマルタンに、その男のボルテージは最高潮に登りつめた。
「じゅうに歳! ボクっ
すると、その声に合わせるかのように、周りにいた男性客たちからも一斉に拍手と歓声が沸き上がった。
「マルたん! マルたん! マルたん! マルたん!」
「マルたん! マルたん! マルたん! マルたん!」
それをそばで見ていた
「オーナー、どうします?」
「レフェリーストップ。いますぐ助けなさい。
あまりの興奮と熱気に、気を失いかけていたマルタンを、
「やばいわね。ポテンシャル高すぎだわ、あの子」
もしかして、とんでもない
続く
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