第3章16話 こんな青春だって

「ふべしっ!?」


 最近絶叫さんが節度を見失ってる気がするな、俺。


「っ、ごめんなさい!寸止めのつもりだったんですけど……っ!」


 鞭術訓練中に起きた、不慮の事故。潤が振り回す鞭を掻い潜って迫るピトスが、潤に拳を届かせるのが先か、潤の鞭がピトスに命中するのが先か。……昨日の訓練と酷似している。潤の鞭の扱いが、コントロール重視か、速度重視か、その違い。

 それと、ピトスは祐希と違って寸止めで済ませてくれるのが俺にとっては大きな救い。

 それが、まあ、今回は。


「本当に寸止めするつもりだった……?」


 突き刺すような軌道でパンチが顔面に直撃。拳振り抜いてない?ピトス。振り抜いてるよね?振り抜いてるじゃん、殺意満々じゃん。


 と、心の声が騒がしい俺は、奇跡的に軽傷。


「変に避けようとするから、手元が狂っちゃったじゃないですかー」


「謝った直後にそれ言うの!?俺のせいなの!?」


 はははー、と笑い合って訓練再開。は、はははー。




 鞭ぶん回し訓練がひと段落ついたところで、少しの休憩を挟む。

 1時間ほども続けていただろうか。付け焼き刃だが、いくらかコツを掴んできた。しばらくの間ノンストップで鞭を振り続けられるようになってきたし、ピトスにも、訓練の間で数回は命中させることが出来た。


 訓練とはいえ……というか寧ろ訓練で、女の子を鞭で打つというのはどうかと思うが、ピトスは避けきれない時でも鞭を上手くいなして、威力を逃している。

 そのあたり、やっぱりピトスも頭がおかし——もとい、常人じゃない。先人との実力差を見せつけられて、目指す場所の遠さを思い知らされる。



「疲れたぁ……」


 体が動かない程の疲労感を自覚して、芝生の上に倒れ込む。



「今日はこのくらいで切り上げますか?」


「いや、ちょっと休んだらまた続ける」


 試すようなピトスの物言いに、萎れかけていたプライドが再び燃え上がる。


「もっと強くならなくちゃいけないんだ。存分に胸を借りさせてもらうよ」


「胸を借りるだなんて、そんな……」


「いや、ほんと強いよ、ピトスは」


「……えっち」


「言葉の綾だったわ!?」




   .                 ❇︎                 .




 ピトスが持ってきてくれた冷たい水を口に含む。隣にゆっくりと座り込んだピトスと共に、いくつかの言葉を交わして。



 ——そして、再び立ち上がる。ピトスや祐希にも恥じないだけの力をつけるために。修行の再開だ。

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