第3章 再来の異世界

第3章1話 異世界旅行の目的地

「ほら、いつまでいじけてるの?そろそろ出発するよ」



 夕食を済ませてから、ホテルをチェックアウトして歩き出す。空は既に暗く、晴れた空にはまばらに星が瞬いている。

 なんでも、ゲートはどこでも開けるわけではないらしい。祐希によると、ゲートを開けるポイントは希少で、さらに人の家に重なっていたりと使えない場合が多いとのことだ。異世界の目的地に一番近いポイントは、ホテルから歩いて10分ほどの距離にある公園。


「その公園ってもしかして、丘があったりする?」


「うん、あるよ。試練にでも出てきた?」


 ニヤリと笑って付け足す。試練のことは話していないのに、完璧に察している。祐希の勘がいいからというよりこの場合、試練は彼女の心にもトラウマとして刻まれているのかもしれない。






「東京にもこんな星の綺麗な場所あるんだな」

 街頭の設置されていない丘の上は、都会の真ん中だとは思えない程に真っ暗で、街中からはほとんど見えなかった星が満天に煌めいている。

 星というのは不思議なもので、普段景色に無頓着な俺でさえ魅入られる。



「愛の告白?」


「どんだけ曲解したらそうなるんだよ」


 ……そんな時いつだって雰囲気を真っ正面からぶっ壊しにくるのが祐希である。


 祐希は楽しそうに笑って、さっさとゲートを開き始める。

 真っ暗な夜の中、アクセサリーから溢れる光を受けた銀髪が風に揺れる。


 一瞬の後、祐希の目の前に”ゲート”が現れた。空間が切り取られたような違和感の先は、何処からか漏れ出す仄明かりに照らされている。


 魔獣の気配が無いことを確認してから、今度こそ自分の足で、2度目の転移を遂げる。



 異世界転移はやはり不思議な感覚で、この先いくら繰り返しても慣れる気がしない。再び空を仰げば、星の数は更に多くなっている。星座も、また違うのだろうか。


「やっぱり異世界、なんだよな」


 背後で祐希がゲートを閉じる気配がする。


「うん。——私たちにとって、もう一つの現実世界だよ」



 背後から祐希の声がかかる。

「ここが私の暮らす屋敷だよ。もっとも、任務中はあんまり帰ってこられないけどね」


 ……屋敷?そりゃまたゴージャスな表現——

「——マジモンの屋敷じゃねぇかぁぁぁ!?」


 振り返れば、西洋風の、如何にも貴族の住んでいそうな屋敷が鎮座していた。



 祐希の素性、謎が深まる一方なんだよなぁ……

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