幕間-6 走れなんとやら
——問題がある。
俺は記憶喪失だ。《デミゴッド》などというものは知らない。
タイムリミットまで30分。探す時間などない。
このメッセージを読む限り、犯人の標的は俺と《デミゴッド》やらだ。潮崎ではない。
俺は、無関係の人間を巻き込んでしまったのだ。
自分の正体がわからない。どうして犯罪の標的になどなっているのか。
それは俺の記憶喪失と関係があるのだろうか。
わからないことが多すぎるのだ。事態に記憶喪失や自らの『死』などという理解できない要素が絡んでいる以上、推測は穴の空いた粗悪品にしかならない。
問題だらけだ。それでも、俺は走りながら頭を回す。記憶も何も無い俺にできることなど、これしか無いのだ。考えることだけは、絶対に止めてはならない。思考の停止は即ち、諦めと敗北に繋がるのだから。
そんな風に頭を回しても、とれた行動はただ、相手の言う通りの場所に赴くというだけだ。
《デミゴッド》は見つからない。さしたる策があるわけでも無い。このままでは潮崎は確実に殺される。そんな焦燥だけが理由だ。
時間を伸ばすよう要求するとか。《デミゴッド》の所在を知らないと説明し、せめて俺の身を差し出すとか。或いは相手が1人なら戦うこともできるかもしれないなんて。そんな漠然とした考え。そのどれもが状況を悪化させるだけだと気付いていながら。
それ以外に、どうすることもできなかった。
何かしたい。何もできなくても、何かをしたという事実が欲しい。
それがどれだけ醜い感情か、自己嫌悪さえも燃料にして、ひたすらに走り続けた。
体力の限界を迎えた体を引きずって。
必死に、必死に走り続けた。
行き着いた先には、誰もいなかったけれど。
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