第2章8話 時空のおっさん

「—きろー。起きろー。おーい。おーい。……おい、起きろ」


「キレんの早いな!?」


 ……あれ、目の前に拳がある。紙一重。


「お腹すいたー。早く帰ってなんか食べよ」


 こっちの世界に来てから飲まず食わずでいたので喉はカラカラ、お腹はペコペコ。もうなんか一生何も食べずに生きていけそう。


「空腹が限界突破して顔が虚無ってる君、ゲート開くよ?」


 さては祐希、新出単語自重するつもりないな?


 祐希は昨日と同じ様に十字路のネックレスを取り出し、祈る様に目を閉じる。明るい早朝であるにもかかわらず、仄かに光を帯びる彼女は、思わず見惚れてしまうほどに美しい。黙っていれば綺麗。もっともこんな台詞、二重の意味で本人には言えないが。


 と、ゲートが開いた。いわゆる時空の裂け目だ。


「これ、転移したところを他人ひとに見られたりしない?」


「それは調停者の《神託者》が認識阻害してくれるから大丈夫だよ」


 へえ、よくできてるもんだ。くぐったゲートを祐希が閉じる。そこにーー


「おい!ここは立ち入り禁止だぞ!」


「時空のおっさん!?」


 殺害現場に出くわした。この悪運、もしや俺名探偵だったかな?(錯乱)

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