はじまり島の囚われ人
いいの すけこ
すべての始まり
はじまり島の魔女伝説 ~ヴェルレステ建国史~
海はどこまでも広く、果てがなかった。
人々は海を渡る術を知らず、その雄大さの前にどこまでも無力。海の向こうに、世界の果てに思いを馳せ、憧れるだけの時代が長きにわたり続いた。
けれど人間は進歩する生き物だ。知恵をつけ、知識を得て、技術を磨き。文明の針を進めた人々はやがて大海原に漕ぎ出した。
海には終わりはなかったが、陸地はあった。世界は船が旅立ったその土地だけではなかったのだ。
後に『はじまり島』と呼ばれる小さなその島に初めて辿り着いた人々は、ヴェルレステ国王の始祖と言われている。けれど最初に島に住んでいたのは、その者たちではないという。
まだ人々が海を征する術を知らなかった頃から、島には魔性の者が棲んでいたのだ。
島にはひとりの魔女が暮らしていた。
海が未開だった頃から、ずっと島で生きているという先住者。
手つかずの島に命からがらたどり着いた人々は、食料を得るにも、土地を開墾するにも寝場所を確保するにも、血の滲むような――いや、命を落とすような――苦労を強いられた。
けれど魔女は、ある時は鳥のように木の枝の上で。ある時は蝶のように花畑の傍らで。またある時は、水辺で、大岩の上で、草むらの中で。
全くの労働もなく苦も無く、人間らしい営みとは無縁に平然と島で暮らしていたと伝えられているのだから。その者は、間違いなく魔の者だったのだろう。
いずれ人々の生活は軌道に乗り、島は人間の文明の地となった。
神話の色が濃い伝承では、島の魔女と契約を結び、神秘の力を持って繁栄を得たと記されているし。
より現実味を持って綴られた史書では、人間の統治者と民の苦難と栄光の道のりが語られていた。
幾世代を経て島は栄え、人々は島を足掛かりに更に新天地を求める。
魔女がお気に入りの人間を『はじまり島』に閉じ込めようとするから、逃れようとした人々が新しい陸地へと渡って行ったのだ、などという伝承は、果たして真実かはわからない。
けれど人間の生きる力と探求心をもってすれば、どちらにせよ新しい陸地を求めただろう。
人々は周囲に一つ、また一つと現れる無人の小島に渡っては、己たちの住処とした。
そしてやがてたどり着いた地に。
海上に輝きし繁栄国、ヴェルレステを築くのであった。
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