第34話 死神
クードリオン
クードリオン「・・・まったく馬鹿げているとしか言いようがない、こんなものが支持を集めるわけがない」
ミネルヴァ「まったくそうというわけでもないみたいですよ、インペリア各地でもSaint側について行動する人間が増えてます。なんにせよSaintの狙いはハッキリした。彼らには「正義」、がある。彼らは本気で人類を破滅から救おうとしてるみたいです、正義、ってのは人間を狂わせる。ありとあらゆる愚行が「正義」という名の基に行われてきた、にもかかわらず、正義、はどこにも無い、それがワタシ達の社会ですからね」
クードリオン「ワシに説教するつもりか」
ミネルヴァ「まさか、正義ってのは矛盾してるものです、正義ってのは弱者を救おうとするでしょう、弱きものを助ける、それが正義だっていう。それは全体から見れば全員を心中に巻き込んでるのと同じです
弱者を救うのはたくさんのコストがかかる、そのコストを強者に回せば?健康で才能ある人間にリソースを注ぎ込んだら?社会の生産性が上がる、生産性が上がれば、もっとたくさんの強者を育てることができる、より多くの人間を幸せにできて、より多くの命を救うことができる。でも正義の味方ってのはそれを阻止する、弱者を見捨てるな!ってね。
正義ってのは贅沢で自己中な自己満足です。自分の救いたいものだけ救ってその結果、社会や国家、人類が破綻して絶滅しようとも、自分の救いたいものだけ救えればそれでいいのだっていう考え方。
正義、が存在する限り戦争は終わらないし、正義と名乗る連中を合理的手段で常に打ち砕いてきたのわクードリオン家の栄光歴史です」
クードリオン「そのとおりだ、この身体に慣れておかなくては、裏切り者ども抹殺する」
ミネルヴァ「Saintシンパは白い服を着るっていうルールがあるからわかりやすいですよ」
ミネルヴァの言う通り、都市には羽虫のような無人機が無数に飛び回って、都市を破壊していた。
クードリオン「失せろ羽虫ども!」
素晴らしい、馴染む、どんどん身体に馴染む。人類の歴史はここから始まるのだ。そこへ小さな女が現れた、金髪のお下げ髪で緑色のフードを目深にかぶり、巨大なチェーンソーのようなものを持っている、どう見ても、普通の人間ではない、Saintの木偶の坊だ。
クードリオン「貴様ワシが誰なのか知っているのか?」
ユミ「もちろん、インペリアの皇帝様でしょう」
クードリオン「ならば死ね!」
ユミ「ご機嫌だねじいさん、ちょっと待って、あなたみたいにじぃさんに聞いてみたいことがあったのだ、あんたらは何を目的に生きてるわけ?まだ未だにカワイコちゃんとファックしまくりたいっていうことのためだけに生きてるわけじゃないでしょ?あんたら老いぼれは権力にしがみつくだけで何の役にも立たないし、みんなからとっとと死ねって思われてるのもわかってるでしょう、それでも生き続ける理由は何なの?」
クードリオン「誇りのためだ、クードリオン家の獅子の誇りのためだ」
ユミ「なるほど、誇りか、クン・ハもそうだったし、あなた達の世代は誇りを持ってる最後の世代なんだね。そりゃあれだね、お父さんとかおじいさんが戦争で死んだ世代だからだよね。
昔ワタシもワタシなりに虚無感の原因ってのを考えてみた。このスカスカな感じは一体なんだろうってさ。たぶんそれって誇り、ってのを失ったからなんだよね。
誇り、とかプライド、なんてのは要らないものの代表格、かっこ悪かろうが、あくどかろうが勝てばいいのだ、そんな1円にもならないものよりもカネが大事だ、といってかなぐり捨てるように誇りってものを捨てちゃった。
でも1円にもならないということは、それは裏を返せば、カネで買えないってことだ、一回捨てたらもう二度と手に入らない。
誇りってのは自分の旗だ、誇りを捨てるってことは、いきなり自分の旗をぶっこ抜いて降参してるのと同じだ、自分を裏切るってことだ、たしかに自分を裏切ったって、誰も仕返しには来ない。
結局カネが大事だっていうやつに、そのカネで一体何をするの?何が目的なの?と聞くと、大抵何もかえってこない、南の島でゆっくり余生を過ごすとか、色んな場所に旅行に行って、美味しいものを食べるとか。
クソすぎるだろ、そんなことの為に生きてるの?でも当然クソみたいな願いしか残ってないのだ。最初に誇りを捨ててしまったから、目的、を最初に捨てたから。何も目的を持たないで、何も考えない、たしかにそれじゃあ苦しいことなんてなにも無いけどそれは悟ったようなこと言って、ただ虚無に飲まれてるんだ、死ぬほど面白くねぇ、生きていても。ただおカネを稼ぐために生きてるって悲しすぎない?
自分を裏切るってのは自分にしかわからないことだ、汚く勝とうが、どんなに最低のことをしても、ボロボロになって野垂れ死にしても誇りがあれば、自分を救える、笑えるよ。
誇りは、捨てちゃいけなかったんだよ、どんなことがあっても絶対に手放しちゃいけないものだった・・・」
クードリオン「何が言いたいのだ小娘、ぶつぶつとしゃべりおって」
ユミ「誇りってものを大事に生きてきた最後の化石へのはなむけのコトバ。安らかに眠ってください」
小娘はつっかかってきた、侍の居合斬りってやつなのだろう、そんな単調な攻撃など!相手の腕をつかもうとすると、居合斬りはフェイントだった、人間ではありえない動きをする、腰が360度回って旋回し、さらに右足を膝から回転させて蹴り入れられた・・・とおもいきやコレもフェイント、完全に見失った、さらに何重にもフェイントを入れられたようだが、それには気づくことも出来ず、最後には背後から真っ二つにされた。
たった数秒の出来事、勝負は一瞬でついた。これはおちょくられたのではなくて、ワシが弱いと見ても、本気で最高の攻撃をしてきてくれたのだと気づいた。
ユミ「ちなみに、最初からこうやって斬ろうって決めてたわけではないよ、相手の防御を見てからのオプションだ、だからあなたが防御の選択をミスったのじゃない、運が悪くて負けたのじゃない、何万回挑んでもあなたはワタシには勝てない、安心して死んでください」
この小娘め、若いのに決闘の作法を心得ておるわ・・・なるほど、ワシも笑って死ぬことにしよう、クードリオンは獅子の一族、決して誇りを捨てない。これでいい、前のめりに倒れるのが自由を求める者の死に方だ、ベッドで仰向けになって死ぬのは奴隷だ・・・自由に生きるか、死か、だ・・・
ミネルヴァ
やっぱり駄目だったか、死神が本気を出したら即席の付け焼き刃なんかではお話にならない。性格や言動が軽いから誤解しやすいけど、死神はまったく普通の人間じゃない、その決断の速さ、創造力、独創性、文字通り世界チャンプなんだ、基本的スペックが常人とはまるで違う。
本当に死神の言うとおり、お祖父様、Rest in Peace. 最後まであなたは獅子のように戦いました。
ローグは壊滅、第三帝国のエクスも滅び、第四帝国のインペリアも滅んだ。ヴェインランドなんてもともと国家なんて呼べるものじゃない、ローランも時間の問題だろう。騎士団家はこれですべて滅びた。
Saintの言う通り、この星から次々と国家が消えていく。けれどまだ世界の浄化は始まったばかり、溜まりに溜まった膿を出し尽くさないとね・・・
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