第23話 エス

               レム


 ボクも子供の頃は他のすべての人間と同じように政治や人類の未来や社会などどうでも良いと思っていた、プログラミングの楽しさに、自分の理想の世界をプログラミングすることだけに熱中していた、ボクが社会の変革に興味を持つようになったのはエスのせいだ。


エスはもともと体が弱くて、他の子供たちがどこかに出かけるときも遊びに行くことができなかった、ソアラがいつもエスと一緒に留守番をすることになっていた。ソアラはすごく無口で、耳が聞こえてないのではないかと思うくらいほとんど喋らない子供だった。当然誰とも付き合いがなかったけれどソアラとエスは非常に気があったらしく、特別な関係のようだった。


ある時たまたま散歩していたら、エスが崖から飛び降りようとしていたので慌てて止めた。

レム「何してるんだ!?」 

エス「でも・・ワタシみたいなのがいたらみんなの迷惑になるだけだもの、ソアラも他のみんなと一緒に遊べないし、役立たずとか弱者はみんないなくなればいいってレムはそう思ってるでしょう」

レム「誰かそんなこと言ってたのか?・・・そうだな、役に立たないものを全部消してしまえばもっと効率的に進歩出来るだろうね、でもそれを繰り返したら、結局誰一人必要なくなってしまうよ、人間は効率悪い、アンドロイドのほうが使い捨て出来るから良いってボクも用済みとして捨てられる、捨てられる為に進歩してるんだな、誰かを助けるための進歩じゃなくて、誰かを見捨てるための進歩だ。

 でも今捨てられるのが怖いから、問題を先送りにしてるだけだ、進歩の先には破滅しかないわかってはいるけれど、止まれないんだ」

エス「そんなのってなんか・・悲しいね、レムにもどうしようもないの?」

レム「ボクを過大評価しすぎだな、ボクは神様じゃないんだぜ、競争は生物が生まれた何十億年も前から終わりがない、人間の意思などではどうにもならないことだ」

エス「なんで人間は生きなきゃいけないの?どういう意味があるの?それも神様にしかわからないの?」

レム「 人生に意味がもし本当にあったらそんな恐ろしいことないだろ、たとえば国の為に戦って国の為に死ぬのが生まれた意味だ。これが「本当」だとして、誰にも否定できない、完全な真理だったとしたら、絶対にそれ以外の行動は許されない、何も考えることも、しゃべることもできなくなる。神が人間に生きる意味や理由を与えてしまったら、人間には自由が全く無くなってしまうじゃないか。意味や理由を与えないことが神の慈悲だ、だから自由意志ってものが存在出来る、自分で何が正しいか、価値があるのか判断して行動を選ぶことが出来る」

エス「難しくてよくわかんない・・・なんでワタシを助けたの?」

レム「・・ソアラが悲しむよ」

エスを探してたであろうソアラがその時に近づいてきたので、事情を話したらソアラはエスをぶん殴った。

ソアラ「ふざけるな!他の誰かが、社会が、世界が!エスに生きていちゃだめだっていうなら、ワタシがそいつらを全員ぶっ殺す!

生きていていいかどうかは、誰かに決めてもらうんじゃない、自分で決めるんだ!エスはワタシのたった1人の本当の友達だから・・絶対に死んじゃダメだよ!」

 ソアラが怒ってるのを初めて見た、怒ってるのもそうだが、長いセリフをしゃべってるのを初めて見た、その時から、ボクは社会について本気で考えるようになった。


 ソアラとエスはその後島が沈んだ後一緒にエクスに移民となったが、エクスの移民排斥を訴える集団に、その移民船は沈められてしまい、全員が死んだ。エスの遺体は後々ボクが調べて確認をした。しかし、ソアラの遺体は見つからなかった。海に沈んだのだと思っていたが、ソアラはその数年後、なんと神聖騎士団のクーデタを率いるリーダーになっていた。



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