第20話 ローラン HuntDown経過

               シンカ


 目が覚めるとどうやら船の中だった、ゆらゆら揺れている・・ここは・・どこ!?

 ぱっと飛び起きる、肌の違和感、真っ白な手術着のようなものを着てる、一体どういうこと?外に出ようとドアを開けようとすると当然だけど鍵がかかってた。じんわりと記憶が蘇ってくる、国防省の地下でアンドロイドに襲われて・・・、手術台、ライト、断片的な記憶だけが蘇る・・・


バルトロメオ「起きましたか?」

ドアの外から声が聞こえた

シンカ「誰!?」

ロメオ「バルトロメオってものです、Saintの人間です。安心してください、今ローランに戻ってる途中です」

シンカ「途中?」

ロメオ「詳しくは端末から確認してください」

ローテーブルの上に小さな端末が置かれていた。ReadMeファイルが自動で開く。


ファイル内容

「ごきげんよう、体の加減はいかが?全身麻酔の後遺症が出たら病院に行ってくださいね。すぐに激しい運動は控えること。

 勝手ながら、麻酔と自白剤を用いて、ローランの機密情報をしゃべってもらいました、もう用済みなのでローランに送り返してるというわけです。身体に危害を加えるようなことはしてないので安心してください。

 あなたが眠っている間に結構色々なことがありました、要約を添付しましたのでご確認ください。

 ローランは現在パニックで暴動が各地で拡がってるようです、公安情報分析科エースの実力を見せてくださいね

                      Saint社 CEO レーゼ」


 添付ファイルには、とんでもない事が要約されて載っていた。SDD作戦により世界中の発電所が襲撃されて世界の主要都市ほぼすべてが停電状態に陥りパニックを起こしているということ、ローグの核ミサイルが発射されたこと、事故でミサイルがいくつか爆破したこと。ランジェ・システムが空を覆っていること。ローグがインペリア侵攻を開始したこと。

 HUNT DOWNという政府関係の人間などに賞金をかけた暗殺をSaintが奨励して、世界管理機構への権力の移行を進めていること。

 情報を集めて処理をするのがワタシの仕事で、それだけは誰にも負けない自信があったのだけれど、これにはまいった。脳が熱くて爆発するかと思った。その時初めて同じ部屋にもう二人人間がいたことに気づいた、端末でゲームをしている。まだ高校生くらいの男女のカップルだ。


シンカ「あなたたち一体いつからそこにいたの?」

男「ずっといましたよ、公安のお姉さん」

女「公安の人間ってワタシ実物初めて見た、あれってフィクションじゃなかったんだね」

シンカ「あなたたち何者なの?」

男「何者だ?って一体どういう質問?これだから警察はヤだね。あなた誰?っていう質問は一体何を聞いてるの?職業?年齢?社会的地位?なんでそんなことを教えないといけないんだよ、自分で考えろカスって感じ」

女「いやめっちゃ言うじゃんw」

男「だってもう国家ってものは無いんだよ、警察にビビる必要なんて無いじゃん」

若い子たちのこういう新しい状況への適応力ってのは恐れ入る。

シンカ「ごめんね、まだパニクってて偉そうになっちゃったの」

男「おっ、素直に謝れる大人じゃん、やるなぁ、やっぱ公安に採用されるだけあって基本的スペックは高いようだ」

女「年下にちゃんと謝れる大人マジリスペ」

シンカ「この船ってどこに向かってるの?この部屋から出れないの?」

男「端末のマニュアルちゃんと読んでください、質問はそのあとで」

シンカ「ローランに向かってて、それまで出れないんでしょ?実際にそうなのか?ってこと」

男「嘘を言う必要どこにあるのです?Saint社は嘘とかつかないですよ、政府とかメディアと違って。まず全員嘘つきである、っていう認識を改めないといけないですよ、自分が嘘つきだからって、自分を基準にして考えないように。

 Saint社は嘘つかないんです、それだけで他の組織とはまったく異なる組織だ」

シンカ「・・・あなた達はなんでローランに行くの?」

女「それ聞く?別にローランに戻りたくなんてないよ、でもランク落ちしちゃったから強制送還、トップランク100以内じゃないと南極基地から外されちゃうのよね。ランク争いまぢやべーから」

男「運が悪かったよ、ヴェインランドまずポイント自体がすくねーんだもん」

シンカ「なんでワタシが公安の人間だって知ってるの?」

男の子が端末をコンコンと叩いた。HuntDownのリストを見ろってこと・・・

 

 いた、政府のいわゆるタカ派、保守派、第三セクター、旧財閥などがリストアップされてるなかにワタシもいた。


シンカ・クロラル 元国防省 公安部情報分析官 優先度 最低  5p


女「HuntDownリストに載ってる人は端末のカメラでスキャンするだけでデータ出てくるよ、だからお姉さんやばいんじゃない、ローランに戻ったらすぐに殺られるかもよ」

シンカ「あなた達に?」

男「いやいや、たかが5Pとりにいかねーでしょ、ちゃんと説明読んだ?高ポイントだけを倒したほうがポイント高くなるんだよ、雑魚を倒すとむしろデメリット」


船が減速しだした、ローランに到着したみたいだ。

バルトロメオ「着きました、ここからの行動は自由です」

男「さて、まずプリンタで銃を作らないとなー」

女「食料と水の確保で・・」

パン!パン!

船から降りたカップルの頭が爆発した。爆発したんじゃない、狙撃されたんだ。嘘でしょ・・・


拡声器「両手を上げておとなしく出てこい、完全に包囲している」

あんな子どもたちを殺すなんて、吐きそうなくらい腹が立った。臆病者の典型的な行動だ、それまで平和ボケしていて綺麗事ばかり言っていたのに、ちょっとでも動揺すると掌返し、残虐性に歯止めが効かなくなる。自分は公安の人間だって名乗り出たほうがいいんだろうけど、むかつきすぎて声が出なかった・・・

 船がごぉって揺れてキラっとあの人形が飛び出した、ワタシが国防省で見たのとは少し違うタイプだ。あれは人型の無人戦闘機なんだ、そんなことぐらいすぐわかれよって自分の愚かさに驚く。

 パパパパ!と乾いた音が響く、無理だ、当たるわけない。速すぎるし、小さすぎる、それにたぶん普通のアサルトライフルなんかではすぐにぶっ壊せないんだろう。

拡声器「撃てうっ!うっうえ!ぎゃあああああああ!!!」

 拡声器の電源をオフにする暇もなく、人間がミンチにされる音が響きわたった。なんだこれは・・・、こんなセカイになってしまったの?ワタシ達が暮らしてた日常はあっけなく、非常に脆く、バラバラにぶっ壊れてしまった。

 国家なんてものはもう無い、あの男の子は言ってた。若い子はこんな激烈な変化をすんなり受け入れられるらしい、大人には無理だ、国家、が無いセカイなんて、どうやって生きていったらいいのかわからない。自分の無力さに涙がこぼれた、知っていたけどそれが初めて現実になって現れた、ワタシは無力だ、なんにも出来ない・・・



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