ダナ2 砂のお城
ダナの気配に、数人が顔を上げた。
(皆、疲れ切っている)
数か月ぶりの帰還だというのに、少しも嬉しい気持ちになれない。荷と甲冑を降ろしながら、ダナは軽く息を吐いた。自身の唯一の自慢である、腰まで届く砂色の三つ編みが揺れた。
「姫さま、水の用意ができています」
心得ている侍女の声に、ダナは頷き立ち上がった。
(先祖から受け継いだこの城を、どうやったら守れるのか)
両親も兄弟も、みないなくなってしまった。砂漠に埋もれつつあるこの城を、保ち続けることが果たして正しいのだろうか。
『――この城はミツウロコの誇りなのだよ、ダナ』
(とはいえ父様。今は、私が頭領なのですよ)
そろそろ潮時ではないか。薄々と、ずっと前から思っていた。
ダナはもう一度息を吐く。
小さな木桶に、すこしばかりたまった水。
味わうように手を浸し、掬いあげて顔にかけた。
叔父も叔母も、みなこの土地を大切に思っている。先祖代々の場所だ。ここ以外の土地を知らない。
しかし、大国に搾取され続けるのにも、限界がある。
脳裏に、数週間前にみた、都の様子が浮かんだ。
食べ物と、水に溢れた、笑い声の溢れる世界。
それに比べて、私たちは……。
一族にとって大切な鱗虫を育て、その鱗を僅かな金貨に替えて、生きている。
こんな生き方をするために生まれてきたのだろうか。
コクリと飲んだ水が、ゆっくりと身体に染み渡るのをダラは感じた。
「もっと、水が欲しい」
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