[ラブコメ]犬わん〜キモオタな僕と厨二病女王様。現実、アイドルのように上手くはいかないようです〜

せらぎ花雄

プロローグ

「みんなの彼女、『IWW5』でーす!」


 『キャー』、『わー』というおじさんのむさ苦しい低音ボイスと汗、曇ったステージが彼女たちを包み込む。僕、影丘響もそんなおじさんたちの一員だ。年齢はまだ17歳だが、周りのおじさんには負けないほどのIWW5への愛、そしてエロスを獲得していると確信している。何を隠そう、僕は年齢イコール独り身で、ここ数年IWW5以外の異性と交流をしていない。


 中学校3年生だった僕は、クラスに男子が5人しかいない高校をわざわざ選び、女の子に取り合いをされながらキラキラな学校生活が送れるものだと思っていた。

 しかし、現実はそんなに甘くなかった。35人女子、5人男子の状況で僕だけ彼女がいない。僕のクラスだけでも、男子は貴重な存在だ。それに加えて、女子のみの学部が多数存在する僕の学校で、余っている男子はほんの一部。

 理由はそれぞれで、僕のようにただモテないような人間もいれば、ヤンキー、喫煙者といった不良行動が原因の輩も稀にいるが、彼らは彼らなりにヤンキータイプ!という彼女と付き合っている……というよりかは、従えている。

 ムチで彼女を喜んで叩く彼氏、それを喜んで受け入れる彼女、なんとも異様な光景に僕は恋人という存在に恐怖を抱えていた。

 「彼女ができて、もし恐ろしい要求をしてきたらどうしよう」という無駄な悩みに頭を抱えていた。


 一方でIWW5のクラブハウスには僕と同じ種族の人間ばかりいる。IWW5のクラブハウスこそが、僕の唯一寛げる場所だった。特に僕が最推しているのは、清楚系美少女、片山マリルことマリリン!

 誰もが一眼で恋に落ちてしまう……そんなオーラというか、ボディーというか、大きなお胸……。ではなく、とにかく絵に描いたような少女で、僕とは正反対の世界に生きる人間だ。180°違った世界の人間を応援できるだけで、神様に感謝をしようと思う。


 そして、僕は正当応援隊である限り、マリリンを裏切るなんてことはあり得ない。

 正当応援隊とは、IWW5を『彼女』と呼んでやまないキモオタ集団の中でも、最もキモいとされている種族のことだ。

 「正当」と聞くとなんとなくポジティブな印象を受ける人がほとんどだろう。でも、世間はそんなにも簡単ではない。「正当応援隊」といかにも社会的秩序を守っているような集団が実はまじキモ集団だったりするのだ。僕含め彼らはIWW5のグッズ、握手券、CDなどを全て回収し、全て自分たちのものにする!と日々大量のグッズ、CDを購入している集団だ。

 正当応援隊の存在はIWW5の事務所にも名が知れ渡るほど有名な存在だった。事務所的には大量にグッズ、CDを購入してくれる正当応援隊の存在は大切な乞食だった。そのため、「CD握手券の倍率〇〇倍!」といった話をもてかけては、IWW5の存続の危機を保っていたーー。


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