閑話 悪夢+ノイズ=記憶≠現実
酷い耳鳴りがする。ユートは暗闇の空っぽな空間に浮かんでいる。昏いせいで良く判らないが、何もないように見えて、何かが浮かんでいるようにも見える。目を凝らすと、
虚空、と言うには色々なものが浮かんでいて情報量が多すぎるし、虚無、と呼ぶには耳鳴りが
鏡にユートが映る。衝撃、後悔、悲愴、恐怖、孤独感、
そんな、嫌だ、思い出したくない、考えたくない、勝手に踏み入られたくない。思考が交錯する。言葉が頭の中を駆け巡る。いや、声と言うよりもノイズだこんなの。現実と理想が混ざり合う。辺りの有象無象が浮かんでは消え、また浮かんではまた消えていく。真の偽の隔たりが曖昧になっていく。何もかもが混沌で、曖昧な、
まるで「
——鏡に映ったユートには、「色」が無かった。
頭の中のあの日の記憶がフラッシュバックしてきたと思うと、目の前にはあの時の世界が広がっていた。綺麗な砂浜に二人だけ、ユートと
彼女がゆっくりと振り向いていく。何故か、彼女の顔を見たくないと思った。漠然とそう思った。しかし、彼女は振り向くとユートに向かい合った。
彼女の顔には黒い靄がかっていた。クレヨンで適当に描いたような靄が、彼女の目を覆っている。そしてこの後に、彼女は言った。
「███。██と█っと████よ———」
彼女の言葉はただのノイズとしか聞き取れなかった。何を言っているのか、何を思っているのかが分からない。記憶の中でも、最も大切な言葉だったはずだ。それなのに、分からない。ユートは彼女に近づいていく。あと少しで手が届くといった所で、彼女の口が僅かに動く。
"ありがとう” それだけは聞こえた。あの日と何も変わらない、優しい声だった。
彼女の体が崩れ去る。
「あっ!」
必死に取り戻そうとしても何も戻ってはこない。ユートの口からは自然と声が出た。
「どうして……こんなの、何も変わっていないじゃないか………」
世界から色が消えていく。鮮やかさが、彩が消えていく。時間も逆行しているようで、潮が引いていくのが見えた。ユートの口からはもう、慟哭しか出てこなかった。
——僕は
ここにはもう誰もいない。崩壊する世界に独りだけ、彼は涙を零して叫び続けた。
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