第49話 月下美人
当然ながら隆幸は家に帰らずに山裏の空き地へと向かう。
山裏の空き地とはちょっとした子供同士の場所のあだ名で要は山際にある空き地である。
子供達の遊び場の一つでいつもなら子供が遊んでいる空き地も夜は道路際の電灯だけでさみしい。
掘っ立て小屋が一個あるだけの空き地に着物姿の女の子が居た。
遥華だった。
遥華は少しだけ苛立たし気に待っていた。
ただ立っているだけなの電灯に照らされる彼女の姿を見てため息を漏らす隆幸。
(……やっぱ綺麗だよな……)
獅子舞の三味線を担当していた遥華は黄八丈の着物を着て電灯の下に佇んでおり、それが非常に絵になっていた。
そんな遥華を一瞬見とれてしまい、呆然と佇む隆幸。
すると、遥華の方も気付いたようだ。
「何してんの?」
「……あ、いや、何でもない……」
そう言って遥華の元へと向かう隆幸はポリポリと頭をかくと少しだけ困り顔で言った。
「振られたかと思った……」
すると不思議そうに遥華は尋ねた。
「だって公民館裏なんてバレバレでしょ? あっちを囮にするんだと思ってたけど?」
「あ、いや、うん。そうなんだけど……」
無理矢理話を合わせようとする隆幸と『こいつ絶対に素で間違えやがったな』と思っている遥華。
遥華はあきれ顔で言った。
「タカはいつも詰めが甘いのよ。その癖、変にかっこつけたがるんだから」
「むぅ……」
言われっぱなしで黙り込む隆幸。
仏頂面のまま遥華は尋ねた。
「それで? 用は何?」
ドクン♪
心臓が思いっきり高鳴る隆幸。
(い、言わなきゃ……)
もはや後は無くなった。
やるべきことをやる為に……言うべきことを言う為に……全ての決着をつける為に……
隆幸は一度だけ深呼吸をした。
(よし!)
意を決した隆幸は遥華に告白しようと息を吸い込む!
「遥華!」
「な、なに?」
予想外に大きな声に驚く遥華。
「俺は! お前のことが!」
大きな声で告白しようとしたその時だった。
ブォンブォン! ブォンブォン!
暴走族が目の前の道路を通り過ぎた!
あまりのうるささに告白のタイミングが消える。
そして暴走族が通り過ぎた後に隆幸と遥華が見たのは……
「あっ……」
掘っ立て小屋の裏で隠れていたツギオと羅護の二人だった。
「「「「……………………」」」」
4人が同時に黙り込んで互いを見やる。
隆幸と遥華がジト目でツギオと羅護を睨む。
「「……………………(ジト目)」」
「「……………………(よそ見)」」
必死で視線を合わせないようにするツギオと羅護。
最後に深いため息を吐いた隆幸がぼやくように言った。
「また今度な」
「そだね」
告白なんて要らないんじゃね?って感じの息の合わせ方をする二人だった。
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