第39話 土下座
そして隆幸は……団長の本気の土下座を見ることになった。
(これが男の土下座か……)
一筋の乱れも無い団長の土下座に恐れおののく隆幸。
先ほどまで酔っぱらいぶりが嘘のように整然とした土下座に彼は感動すら覚えた。
(これほどの土下座を見せられたらどうなるんだろう?)
そう思って土下座の相手を見る隆幸。
その相手は土下座を見てこう言った。
「ほんで?」
団長の奥様が静かな怒りを込めた目で自分の旦那を見据えていた。
あれから他の仲間も来て、『見本を見せるためにも俺はやるんだ~!』と叫んでいる団長を全員で止めていたら、団長の奥様が現れてしまい、問答無用で土下座タイムになってしまった。
団長の美しい土下座は全く効果が無く、奥様はスーパーサイヤ人の如く髪の毛を逆立たせて、腕組みしながら自分の旦那を睨み付ける。
「すんません。調子乗ってました。ごめんなさい」
情けない声で謝る団長。
副団長がパンパンと手を叩く。
「よし! お前ら帰るぞ」
副団長がそう言うと全員が散り散りに解散する。
隆幸だけが心配そうに聞いた。
「あの……団長は大丈夫ですかね?」
「……大丈夫や。いつものことやし」
「それもそうですね」
あっさりと隆幸も帰ろうとするのだが、副団長がその横へとつく。
一緒に帰り路を歩く二人。
「まあ……俺も色々話は聞いたけど、団長も心配しとってんぞ?」
「……団長がですか? 何かすいません……」
そう言って頭を下げる隆幸。
副団長が苦笑しながら言った。
「仲間と気まずくなって出ていく奴も結構いるからな。でも、大事なことが一つあるぞ?」
「なんですかね?」
「俺らはいつもあんな感じだけど、相談なら乗るぞ?」
「あ、はい……」
そう言って苦笑する隆幸。
他人の恋愛話なんて良いおもちゃにしかならない事を知ってるからだ。
そこを見透かされたのか、副団長は苦笑する。
「確かに半分はおもちゃにするけど……半分は真剣に答えてるんだぞ?」
「しっかりと半分はおもちゃにするんですね?」
「面白いからな」
そう言って笑う副団長。
「だが、子供の相談に乗るのも俺らの仕事だ。進路や恋愛も経験者に聞くのが一番早い」
「……そうっすね」
苦笑しながらも先ほどの団長の発言を思い出す隆幸。
「一人で抱え込むくらいなら笑われても相談した方が良いこともある。実際、笑われるってことは自分にとっては深刻でも他の人にとっては大したことの無いってことだ」
「それは他人ごとってことですか?」
「違う。経験者にとっては大したことないってことだ。お前よりも酷い失敗してる奴も多いんだぞ?」
「えっ……?」
唖然とする隆幸に副団長はにやりと笑う。
「悩みとか責任とか女は先輩に分けた方が良いんだぞ?」
「そうっすね……って! 最後おかしくなかったですか!?」
「バレたか」
そう言ってきししと笑う副団長は笑いながらこう言った。
「ま、頑張って告白だけはしといた方が良いってことだ。付き合いたかったと、大人になってから後悔しても遅い。そのためにも……祭り頑張ろうや。じゃあな!」
そう言って立ち去る副団長。
そんな副団長の背中を見ながら隆幸はポリポリと頭をかく。
「いつもアホなこと言うくせに、こういう時だけはかっこいいんだもんな……」
困った先輩たちに……まだまだかなわない人生の先達に苦笑する隆幸だった。
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