第38話 本当の悩みと答え

「何やってるんですか……」


 酔っぱらった団長が地面の寝ていたので、肩を貸して歩かせる隆幸。

 すると、団長が肩を借りながらも陽気な声を上げた。


「タカ君は何を悩んでいるんでふか?」

「えーと……」


 どう言おうか隆幸が悩んでいると、団長が陽気に大声で叫んだ。


「当てまほう! 恋の悩みでふね!」

「えっ? なんでわかったんですか?」


 ドキリとする隆幸だが、団長はにやりと笑って言った。


「にへへへ……実は先ほどの話を全部聞いてました!」

「……………………」


 思わず顔が赤くなる隆幸。

 だが、団長は大声で言った。


「君は変なプライドを持ち過ぎでふ! そんなプライドは要らないのでふ!」

「……変ですかね?」


 団長の言葉に困り顔で言う隆幸。

 団長は続けて言った。


「チミと遥華ちゃんのことは羅護君から聞きました!」

「あのおしゃべりめ……」

「みんなで大いに笑わせて頂きました!」

「殴って良いっすか?」


 流石に拳を握りしめる隆幸だが、団長はにへへと笑う。


「でもそんなことは無視して遥華ちゃんを追いかければ良いんです!」

「いや……でも……」

「高校生の時は女の子の尻をひたすら追いかけて土下座してやらせてくれと頼むくらいで丁度良いんでふ!」

「絶対違うと思いますけど!」


 団長のあんまりな言い分に流石に反論する隆幸。

 すると団長は神妙な声で言った。


「良いんでふ! それぐらい女の子のこと考えるぐらいで丁度良いんでふ!」

「いや、でも土下座は流石に……」


 酔っぱらいの言うことに律儀に言い返す隆幸。

 すると団長は突然言った。


「そもそも! 男が土下座していいのは! どういった時かわかりまふか!?」

「少なくともそこでは無いかと……って絶対に聞いてないですね?」

「やらせてくれと頼む時と……」

「頼むときと?」

「それがバレて嫁に謝る時だけでふ!」

「あんた何やってんだ!?」


 流石に呆れかえる隆幸だが、団長が絡み始めた。


「でもおかしくないでふか? 僕は確かにやらせてくれと土下座して頼みました! でも女の子はやらせてくれなかったんでふよ? それでも嫁から土下座を強要されまふた! 酷くないでふか?」

「酷いと言うよりは痛い気がします」


 そう苦笑する隆幸だが、団長がにやりと笑った。


「チミの失敗と僕の失敗のどっちが痛いでふか?」

「えーと……大差が無いような……」


 苦笑いが止まらない隆幸に団長は言った。


「だからチミがやった失敗なんて些細なもんでふよ?」

「……えっ?」


 隆幸が一瞬にして凍り付く。


「恋の失敗は痛いものなのでふ! 痛くない恋の失敗なんて無いんでふ!」

「そりゃ確かにそうですけど……」


 思春期の失敗はどれも痛いものだ。


「そんなものは大人になれば全部笑い話になりまふ!」

「そう……なるんですかね?」


 団長の言葉が妙に心に刺さる隆幸だが、団長が尚も言い続ける。


「そもそも! 女の子の期待に応えてあげるのが男というものです!」

「そうなんですけど……俺、その期待に応えてあげられなかったんです……」


 俯きながら合格番号無かった時の悔しさを思い出す隆幸に団長は言った。


「それは過去のことでふ! 今の遥華ちゃんの期待は! 君と付き合うことなんでふ!」

「あ……う……」


 痛い所を突かれて呻く隆幸だが、団長の口は止まらない!


「一つ聞きまほう! 君は彼女が欲しいでふか!?」

「えっ? そりゃまあ……」


 言われてドキリとする隆幸。


「か・り・にでふよ? 遥華ちゃん以外の可愛い女の子に告白されたら付き合いまふか?」

「えっ?……そりゃまぁ……」


 正直に答える隆幸だが、団長がにやりと笑う。


「遥華ちゃんも同じです! 普通にカッコいい人から告白されれば付き合ってしまいます!」

「あっ……」


 自分が気付いて無かった事実に気付かされる隆幸に尚も団長は叫ぶ。


「確かに! 君は受験に失敗したせいで! 遥華ちゃんの一番好きな男から転落したのは事実でふ!」

「……………………」


 言い返せずに押し黙る隆幸。


「二番、三番……………………十番くらいかな? になってまふ!」

「……………………」


 訂正したい気持ちとツッコミたい気持ちをぐっとこらえて団長の言葉を待つ隆幸。


「でも! 上に! だーれも居なかったら! 一番に! 繰り上がるんでふ!」

「!!!!」


 団長の指摘に思わず目を見開く隆幸。

 団長は尚も指摘する。


「チミがそんなことをやってたら! 遥華ちゃんは! 十一番、十二番の男が告白しても付き合ってしまうんでふ! チミに! それが! 許せまふか!」

「……許せないっすね」

「よろしい!」


 隆幸の心に少しだけ燃えるものが生まれた。


「公民館裏の木に相合傘をしてるほどの君たちです! きっとうまくいくことでしょう!」

「いや、それは小学校の話で……」

「ちゃんと現在の年齢を書き足しておきました!」

「何がやりたいんですか?」


 団長の謎の行動に隆幸が不思議そうな顔をする。


「もうちょっとボケたかったんですが、いいボケを思いつかなかったので……思いついたらそれも足しときまほう!」

「それやる意味あります!?」


隆幸のツッコミに団長がにへへと笑う。


「それでは! この祭りが終わったら! ちゃんと告白しまほう!」

「…………………………えっ?」


 いきなりの提案に凍り付く隆幸。

 団長は尚も言い続ける。


「恋に結果をつけないから! ウジウジ悩んでしまうんでふ! 結果を出せば良いじゃありまへんか!」

「……………………」

 

 何故か関西弁になった団長の言葉に凍り付いたままの隆幸。


「上手く行けば良し! 上手く行かなかったなら! 次の恋を探せばいいんでふ!」

「ええっと……」

「わかりましたか? ちゃんと公民館裏に呼んで告白するんでふよ?」

「えっと……」

「わかりましたか!!!!」

「は、はい!」

「宜しい! ではちゃんと告白するんでふよ!」


 そう言うと隆幸の肩を振りほどいてふらふらと歩いていく団長。

 そして背中越しに振り返り、にやりと笑う。


「では! タカ君の為におじさんが見本を見せてあげましょう!」

「見本って……何をするんですか?」

「今からもう一回女の子にやらせてくれと土下座してきます!」

「誰か団長止めてくれ~! 青年団の人呼んできてぇ~!」


 隆幸は必死で団長を止めながら、助けを求めた。


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