第9話 青年団
そして一時間後……
隆幸とツギオは二人で古屋形町の路地を歩いていた……
「何で案内しないといけないんだよ……」
「いやぁ楽しみだなぁ!」
頭を抱える隆幸だが、これは仕方が無かった。
そのまま案内しようとする父が、母に耳引っ張られて正座させられたので、なし崩し的に隆幸がやることになった。
(一度出るとそのまま出ることになるから嫌なんだよなぁ……)
お祭りの中心となるのは青年団……町の若者が主体になる。
青年団は常に人手不足なので無理矢理手伝わされる空気になってしまうのだ。
隆幸がどうしようか困っていても考える暇も無く、そのまま祭りの準備をする公園に到着する。
公園には既に10人ほど青年団が集まっていた。
「おりゃぁ!」
「もっと腰を落とせ!」
練習する中高生と指導するお兄さんたち。
「これはこんな感じで行く?」
「いや、ここ通った方がいいやろ?」
お祭りを取り仕切る団長たちが打ち合わせをする。
「うわぁ……良いなあ……」
ツギオもこれを見てさらに目を輝かせている。
その様子を見てしばしの間考えてしまう隆幸。
(やっぱ良いよなぁ……)
このお祭りする前の独特の空気はこの時期にしか出てこない。
祭りへと徐々にテンションが上がっていく空気に思わず気持ちが昂る隆幸。
(いかんいかん! 今年は出ないと決めたんだ!)
そう考えて改めて輪の中に入る隆幸。
「おっ? タカも来たか!」
嬉しそうに笑うメタルファッションの耳にピアスの少年が隆幸に声を掛ける。
隆幸も苦笑して答える。
「ごめん羅護。今日はちょっと用事があってきただけなんだ」
「なんだよ……」
残念そうな顔になる羅護だが、すぐに隣に居るツギオを見つけて尋ねる。
「その子は?」
「ツギオって言います! 棒振りを学びたいのでお願いに来ました!」
「おっ? 新たな青年団員か!」
嬉しそうに笑う羅護だが、隆幸は訝しく感じる。
(変だな……こういった場に慣れて無いか? 祭りを復活させたいなら、経験が無いはずだが?)
ツギオの行動に違和感を感じる隆幸だが、特に何も言わずに羅護に尋ねる。
「そんでこの子の事お願いしたいんだけど、今年の団長って誰なん?」
「
「了解」
言われてそのまま団長の元へと向かう隆幸。
そして団長に挨拶する。
「お疲れ様っす」
「おーお疲れ! お前も来たか!」
嬉しそうな顔の楢樫団長に微妙な顔の隆幸。
「今年は出るのか?」
「いやぁ……まあ……ちょっと考え中です」
そう言って言葉を濁す隆幸だが、そのまま話を変えようと慌ててツギオを前に出す。
「すんません。実はこの子は親戚の子なんすけど、棒振りを学びたいってお願いに来たんですよ」
「外国の子か? えーと……どんな子なん?」
言われて思わず考え込んでしまう隆幸だが、そのまま答えることにした。
「えーと……やる気だけはあります。それと身元は親父が保証します」
「ツギオ=ハヤタカと言います! よろしくお願いします!」
そう言ってぺこりと頭を下げるツギオ。
すると、団長もにっこりと笑う。
「おーいい子じゃないか。博隆さんの紹介なら大丈夫だし、とりあえず様子見るか! おい! 誰か太刀教えてやってくれ!」
そう言って人を呼ぼうとするのだが……
「団長。今日は大滝さんいないっすよ」
「あ、そうか。そしたら……」
しばしの間考える団長だが……すぐにぽんっと手を打つ。
「タカは太刀が上手かったな」
「……えっ?」
一瞬で凍り付く隆幸。
「今日の所はタカに教えてもらってくれ!」
「ぼ、ぼくっすか?」
意外な展開に驚く隆幸。
そんな隆幸の肩をぽんっと叩く団長。
「頼んだぞ?」
にっこりわらう団長にしてやられた感を感じる隆幸であった。
そして数分後……
「そこはこうやって握って……」
「こうか!」
「ああ、そうだ。そこをしっかり握る」
結局、教えることになった隆幸は棒振りを教えている。
棒振りとは加賀方面に伝わる獅子舞の一種で、その昔に加賀百万石で幕府に警戒されていた前田の殿様が隠しながら武道を奨励するために生まれた剣舞だ。
そのため、加賀だけは獅子と侍が戦う様子を表している。
色んな得物があり、棒をはじめとして、薙刀、一本太刀、両太刀、鎖鎌など、色んな武器を使い、また各町で色んな流派がある。
とは言え、今の世の中ではただの剣舞でしかなく、伝統行事として細々として伝えている。
そんな剣舞をやっているのだが……
ひゅん……ひゅん……
「おっ? 良い感じやん!」
「筋が良いな」
意外に筋が良いツギオにみんなが色めき立つ。
羅護が近寄って輪に加わった。
「結構いい感じやん?」
「そうだな」
隆幸が微妙な顔で相槌を打つ。
すると羅護はこう言った。
「お前は練習せんでいいの?」
「俺は……」
少しだけ言いよどむ隆幸だが、羅護が言った。
「見本見せてやれって」
「いや、ちょっと俺も練習せんと……」
「じゃあ、練習しようぜ? はいこれ」
「……………………」
そう言って木で出来た模造一本太刀を渡されて仕方なく持つ隆幸。
「じゃあ、一回だけ」
そう言って隆幸は一本太刀を地面に置いた。
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