【勤勉なる怠惰】と【耐え忍ぶ嫉妬】

『はぁはぁはぁ』


 息を荒くしながら親友の安全を確かめるために森を走っていた。


 バカを相手に対人練習をして、脳筋箱入り娘をこてんぱんに負かしたから気分が良いけど、自分が勝つまであいつにつき合わされていたから疲労ひろうまってで身体が重い。


 あの、アホ吸血鬼。


ーーー結果は10勝1敗。

 泣きながら殺しに来るから油断しただけだから負けてはないわ。


『こっちは疲れてんのっ』


『はぁ…はぁ…、とおとい!尊い!』


 バカの次もバカの相手をするはめになるなんて!助けて、ヨミ!


鬱陶うっとうしい!』


 スズの後ろ姿をめ回すように見つめてほお紅潮こうちょうさせている猫耳をやした獣人の女の子(男)は、テテであった。


 ヨミの元へ急ぐ道中でテテに遭遇そうぐうし、後ろから追われていた。


友愛ゆうあいにゃ!そう!それは、百合愛にゃ!』

『ボスの情報を流して、し×推しのてぇてぇをマッチメイキングしたかいがあったにゃ……もぅ尊死…。スズにゃんなら絶対にけつけてくれると信じてたにゃっ』


『キモっ』


『ありがとうございます♪♪』


 【YFC】幹部は実力派レッドプレイヤーとして有名である。


 その1人、【業運ごううん開花】テテはとあるレアスキルを所持していることから素顔を現さないため、ほとんどのプレイヤーに知られていない影の存在。

 極度きょくどの百合好きとしかうわささない彼女だが、その素顔はヨミが出会った時と同じで同じ姿であった。


 性別年齢わず、多種多様な顔と身体を使い分けているが、ヨミと最推さいおしのスズ、幹部の前でしか見せないレアな姿である。


『キモいし速いな』


 スズが認可していない【YFC】でララシャに認められたその信仰しんこう度は、スズ×ヨミのポスターやフィギュアを製作してかざるほど。


 割り合いはヨミが4、スズが6。


『どんな会話から初め……いやいや、ここは一旦、予測して…』


 類は友を呼ぶということわざがあるのはご存知だろうか?


 (今だ)『『【俊足】!』』


『チッ』


 後ろり付きながら自分と同じ速度で走るストーカー女(男)をキモいと思うスズだが、ほんの少し噂を流しただけでするどい嗅覚でヨミへと辿たどり着く……『距離を置いてお互いに強くなろう!』っと宣言したが、実際のところはプライベートでも学校でもべったりで、ヨミの過剰摂取を本能的に察知さっちしただけ。


 ちょくちょくと、ゲーム内でも現実でもストーキングをしており、


 まぁ…人の事は言えなかった。


 百合の手前、友情と恋愛の狭間はざまと……ひとり言をれ流しながら走るテテと同類である。


『私とヨミはそんなんじゃないから!!!』

『あ♡』

『ヨミ~♡』


『ーーースズ?』『ぁ?』


 急にヨミがり返る方向にメラが目を向けるとヨミとスズがハグをしていた。 


 いや、スズが一方的に抱きついていて、そのいきおいにヨミが少しバランスをくずしていた。


『お疲れにゃ、ボス♪』


 目の前の光景を脳内フォルダに送りつつ、視線を変えずにテテがボスに歩みる。


 テテか?


『んー、ボス。僕の顔忘れたのかにゃぁ~?』


 よく分からない反応だにゃ。


『いや、みょうにイキイキしてるじゃん。お前』

『別人だと思った』


『あぁ、仲睦なかまじく尊い!』


 聞いてねぇし。


 『それより、これ、どうするんだ?』っと、いちゃいちゃムーブをしている中を空気を読まずにヨミに話しかけるメラに、スズはヨミの意識がうつったことへ避難ひなん眼差まなざしを向けるが、そんなスズは無視して2人は話し始めた。


………………

…………

……


 40分前。少女たちの拳で女神がたおれた頃。


 最初のワールドアナウンスから遅れて、次の文がワールドアナウンスとして全プレイヤーのログに



ぴこん♪


≪ワールドアナウンス:女神メルルの管理していた一部エリアのモンスターが強くなります。

 また、使徒しとの出現率が上がりました≫






『やばっ』


 メラさんは戦利品を回収しに泉の奥へもぐって行ったけど、【潜水】のスキルを持っていない私は地上で休んでいた。


 ……このアナウンスの内容。


 ワールドアナウンスは他のログとちがって、読んでなくても脳内に送られて読んでしまうから全プレイヤーがログインしているだけで知ってしまったわ。


ぴこん♪


『あぁぁぁ…まだ続くのね…』


 ヨミは頭をかかえた。



≪【】の予兆よちょうを確認しました≫



『【魔物の氾濫スタンピード】?』

『アニメとかのあれ?』

 


ぴこん♪


≪【イノセクト・キング】の討伐とうばつにより、【魔物の氾濫】の進行度が2に上がります≫


ぴこん♪


≪【ダイヤモンド・ドルフィン】の討伐により、【魔物の氾濫】の進行度が3に上がります≫


ぴこん♪


≪【クラーケン】の討伐により、【魔物の氾濫】の進行度が4に上がります≫


ぴこん♪


≪【アリス】の討伐により、【魔物の氾濫】の進行度が5に上がります≫



 これまでプレイヤー達が倒してきたネームドの名前が流れていき、


 遂に……ぴこん♪



≪【ヴァナルガンド】の討伐により、【魔物の氾濫】が始まりました≫

 


 運営からのメッセージが送られてくると、すぐに開くと同時に内容を確認したのは良い内容であって欲しかったからだ。


 メッセージに書かれていた内容は、


 【魔物の氾濫】の日付と場所、開始時間、凶悪化するモンスター、一定数撃破後に現れるボス・モンスターの強さと種類である。


『ちっくしょう!』


 赤く広がった円が【魔物の氾濫】が起きるエリアで、中心に【×】と書かれていて、2日後の(現実の)午後12時から始まります……と書かれている。


 ヨミは、ただゲームを楽しくプレイしていただけなのに、重要なイベントが開催かいさいされたことにふたたび頭を抱えた。


ぷくっぷくっぷくっ


『ーーーわっ、皆やる気だね』


 最近になって追加されたオープンチャット機能では『うおおおおお!』やら、『ってました!』などの文字が表示されているのにおどろいたわ。


 少しは気が晴れけど、

 ゲームとはいえ、街に被害ひがいが出る可能性があるイベントに罪悪感が出てしまうよ~。


『この3つはネームドを討伐した場所だから、ほかもそうかな

?』

『だとすると、ちょうど街の近くに1つずつあるね』


 アーサーやカグラには、ネームド装備を作れるエリア【始まりの大地】を教えるのと引きえに、討伐したネームドの簡単な情報を共有きょうゆうしていた。


 2人が討伐した【ヴァナルガンド】と【アリス】は雪国【グラーフ】に近い。



ドドドドドドドドドドドドッッ!!!!!



『うおおおおおわあああああああ……』


『!、メラあぁぁぁ…ぁあ!?』


 突如とつじょ


 何ヵ所も水柱みずばしらが飛び出す目の前の現象におどろいたけど、水柱の中から顔だけを出して一瞬で上空に打ち上げられたメラに、さらに驚いた。


『助けないとっ!【天翼】』


 スキルのレベルアップと同時に【天女てんにょ羽衣はごろも】が【光輪】と【光翼】を吸収し、


 【光翼】→【天翼】(飛行時間は同じ)に、


 【光輪】→【天輪てんりん】に、


 なった。




 あっ、一回り細い翼が2枚増えてる。


『メラ、大丈夫?』


『あぁ~、流石にビビった』

『って、』


『ん?』


『おい。あれ見ろよ』


 ……の柱?


 メラをお嬢様抱っこした状態で下に目を向けると、水柱の水がにごりり初めてた。

 嫌な予感がするけど、逃げることはできないと感じるのが不気味ぶきみ




《ヨミ》《そして、》《メラ》




 絶対的圧力を2人の少女は全身で感じ取っていた。



 

《怖がる必要はありません》




 いつの間にか、大量の水飛沫みずしぶきから作り出された霧雨きりさめに巨大な影が生まれてる。何かいる。


『これは…!』


 神聖なオーラは隠されているが、

 女神だと判断したヨミの脳内では、そのシルエットから記憶の中の女神像を探し出し始める。


 何故なぜか、何故か、脳内で映し出されたいくつかの女神像はぼやけているように画質が悪いからリリスをたよろうとーーー応答おうとうがない。逃げたな。


 もう一度、見てみよう。


 巨大な……巨大な…きょ……大な、とにかく大きなだけが水をはじいて霧から飛び出た状態がひとみうつる。


 世の中は、不平等だ。


 最大限に放たれた殺気はメラをビクッつかせ、うっすらと見える女神の表情にも苦笑いを浮かばせた。


………………

…………

……


 シルエットと胸だけが見える状態で女神ルフネは泥をあやつり、表彰ひょうしょう式なるものの会場を作り出したのが今の現状げんじょうである。


『メラは落ち着いてるなぁ。

 (全く関係ない話しだけど、背景で、今も吹き出ている泥の柱で泉が濁っていないのが気になるよ)』



《メラ。

 あなたには、【神殺し】の称号とそのタコに神の祝福しゅくふくを》

《あと、タコを返します》


『いいねぇ!こいつはいらねぇけどな』


『きゅぴぃ!?』


 内容は聞こえない。


 でも、メラはよろこんでいるから良い結果が出たみたいだし、私も期待きたいできる。



《ヨミには、【神罰】の称号と試練しれんを》



『えっ』


 え?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?ーーーえ?


 混乱のループに落ちた。



称号

【神殺し】

 神を倒した者に対して与えられる称号。

 神の存在を感じることができ、神に関するものに対して特攻を得る。


【神罰】

 神に直接与えられるの称号。

 スキル【浄化】では

 神の存在を感じ取れることができ、神に関するものに対して特攻を得る。また、自身じしんが【神族】であった場合は、使

 特定のスキルに影響が出ます。


≪神の試練≫

 神に認められた者が【神族】になるための試練。または、【神罰】を解除するための試練。

 

『と、特別な、の、呪いとは?』


《ごめんなさいね?あなたは悪くないのよ》

《悪いのは考えなしに神の座席を与えた……いもうとなの》

《ねぇ?リリス?》


《ピッ》


 腕を伸ばすと、何もない空間から後ろえりつかまえられた姿で引っり出されたリリスは青い顔をしていた。


『あっ』


 女神メルルが4女で、女神ルフネは長女!


 一番、胸が大きい……いや、信仰を集めている女神だったから覚えてる。


 リリスが破壊(闇)と再生(光)の女神ならルフネは空間(光)と創造(光)の女神だったはず。


《とりあえず、この空間にしばりましょうか》


《い痛ぃいたたた!?》

《もっと優しくしてよ~!》


 リリスは空間の鎖?かな?表現しづらいなにかに拘束こうそくされた。


 言い伝えでは、闇の使徒達が集団でおそってきた時に空間ごと各地に使徒を封印したのが女神ルフネ。


 最強の女神。


 今の私だと、勝てない相手。


《た、助け《あらあら(笑)》……ヨミぃ~》


《この子が迷惑をかけてないですか?》

《迷惑なら連れて帰りますが、『リリスは私の友達!必要です!』……へぇ?》


 その笑顔の意味は分からないけど、悪い感じは感じないから返答は間違ってなかったと思う。……思うだけ。


 リリスが連れてかれたら、ちょっぴり悲しいかも…だし。


『なぁ?

 そろそろ再戦したいんだが?』


『メラはぁ…(マイペースだな…)』


 少しだまってて…って言いたい。

 だけど、迷惑行為以外でのゲームプレイには口出しできないのが【OTW】の良いところだしぃー。


 でも、今は…


『あのさ、あのモンスターに勝ったのにコインがドロップしないだが?』


 女神さんを前に女神をモンスター呼ばわりしたらダメでしょっ!


 でも、確かにどんな時でもモンスターを倒したらコインくらいは手に入ってたのに何でだろう?


《素直な子なのですね》

本来ほんらいならメルルの仕事ですが、復活には時間がかかりますから、私がやりましょう》


『……復活する?』


《えぇ》

《我々は、今まで数々の英雄に倒されいます》


『ええええええぇーっ!!!』


《うふふふ》

《この話しは信徒しんとに聞いてくださいね?》


 むぅ。教会に聞くしかないみたい。


《では、神殺しの偉業いぎょうたたえ、とみを与えましょう♪》


 ルフネが両手を泥の柱に突っ込み、腕を戻した時には、ルフネの手のひらに大量のが乗っていた。


 えっ!?えっ!?


『泥がコインに!?』『おもしれぇーー♪』


《与えられる数は両腕にかかえられるほどとします》


 そう言って、ルフネの気配が消えてくと同時に泥の柱の勢いが落ち着き初める。


 あ、泥が消えちゃう!お金!



『【触腕しょくわん解放】【パンクアップ】』


『【亡者もうじゃの両腕】』 



『ズルい』ぞっ!ヨミ!』よっ!メラ!』


 メラとヨミは泥だらけになるのも覚悟で、いきおいをつけて泥の柱に突っ込んでいく。

 

 ちなみに、リリスはルフネが完全に消えてから解放されたが、拘束はかれず、泉にしずんでいった。


………………

…………

……


≪今日の戦利品≫

・腕いっぱいのコイン(20万コインくらい)


 骨の腕だと隙間すきまにコインが流れてしまって、なかなか上手くすくえなかった…。



・泉の水(30キロ)


 イベント前には無かったけど、MP回復効果があるみたい。

 

 【風船】の余りを持っていて良かったわ。



・神聖なる泥(10キロ)


 メラが水底に潜った時に見つけた光る泥。

 半分も分けてくれた。嬉しい♪



・女神がれたと思われる斧の欠片


 ゴミだと思う。


 鉄として使えるから【鍛冶かじ】スキルを持っているしゅがーちゃんにあげようかな。


………………

…………

……


 そういえば、リリス。


《なぁに?》


 言葉がしゃべれるようになったんだね?


《ヨミの新しい称号のおかげかも》


 【神罰】のおかげ?


《アレって、神々同士の争いを無くすための措置そちだったんだけど、私がお姉さま達に内緒ないしょでヨミを【女神】にしたからめずらしいケースなんだよ~》


 内緒にって、(そりゃあ怒られるよ)


《他にも変わっているスキルがあったでしょ?》


『本当だ』

『あっ!リリス!』


《なぁに?》


 ……なんか、姉女神から解放されてから、べたべたしてくるな。まぁいい。


 ここを女神メルルが管理?していたなら、ここもネームド装備が作れる場所?


《正解!》


 【7つの試練】も…?


《それはぁー、できる……みたいだね?》


『なら、【勤勉きんべんなる怠惰たいだ】と【しの嫉妬しっと】をお願い』


 私に《2つも大丈夫なの?》ってリリスが言うけど、ただでさえギリギリのスケジュールだったのよ?

 

 それが、


 【魔物の氾濫】のせいで、この場所はイベントに使用されるから挑戦することができない。

 そうなると、第2回イベント前に全種コンプリート計画が破綻はたんしてしまうのよね。


 【破壊神降臨】を使っちゃったから、バッドステータスとして強化されたステータスが0になるまで減少していってしまうし、次に使用可能になるまで待ってらんないっ!


………………

…………

……


ーーーそんなヨミが挑戦して、30分経過けいか


≪対【勤勉なる怠惰】戦≫


 目の前に立つのは、うつろな眼差まなざしをヨミに向けるしゅがーに似た少女と巨大化したサラマンダー。


 そして、大量のチョコレート。


『つ、強い……眠気が…z……』



 幸せな感覚を侵食しんしょくさせる睡魔すいまがヨミを襲い、ついに眠りにちてしまったヨミへ向かって特大の炎が放たれた。



ーーー2時間経過。


≪対【耐え忍ぶ嫉妬】戦≫


 くれないとは違い、漆黒しっこくだが見知った全身鎧の姿は【黄泉送り】の副リーダーを任せたマーサである。


『このままじゃ勝てないな』



 身体が悲鳴を上げる音が響く。ついには斧が落ちた。

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