怪物たちの共演

 魔法発動時にける感覚は、人にとって未知の感覚であり、あるしゅ快感かいかんを覚えるプレイヤーが存在する。


 その快感をより強く受けるヨミは、強力な魔法を放った後ではくるうように笑うことが多いが、元からのテンションなのか、魔法の発動後なのかは、本人にも分からない。


『オラァッッ!!!』


 ここにも、1人。

 戦闘開始からフルスロットルで殴り続け、くるったように心身をたかぶらせながら戦う少女がいた。

 いや、本当に狂っているのかもしれない。



ホォォオオオオオオ…!『チッ』



[装備]

海神わだつみ闘衣とうい】≪???装備中≫

 はるかに深い海の加護かごを受けた民族衣装。

 

 【海の加護】により、自身の身体がれても影響は出ない。


【攻撃】+140

【防御】+30

【魔防】+30

【速さ】+100

HP +3000


[装備スキル]

触腕しょくわん解放】

 自身の背中からタコの触手をやして操作する。

 触手はダメージを受けると損傷そんしょうするが、MP/HPで再生可能。



[スキル]

①【ーーーーー】

②【魔の海域】

③【ーーーーー】



 褐色かっしょくの両腕と、大胆だいたんに肌面積をさら法被はっぴから伸びた4本のしゅの触手を使い、メラは息をもつかせぬ勢いで怪物とした女神メルルに拳をび続ける。


『ハッ、まったく手応てごたえがねぇな!【水流操ーーーっ!』


 女神の攻撃は当たるのにたいし、メラの拳と触手での攻撃は水をはじいた音と共にくうを切っていた。


 そして、


 暖簾のれんに腕押しした後に待っている高水圧の水のレーザービーム。

 戦闘中に飛び散る水滴も…そうだが、この水のレーザービームも肌に触れると身体が金になることが分かるため、じかに触れることはできず、メラはヨミとは違って満足に暴れられないでいた。


『返すぜっ』


 水のレーザービームにグローブを装備した手のひらがれた瞬間に【水流操作】が発動。


 【水流操作】によって水の軌道がメラの身体を半回転し、そのまま返した水のレーザービームも返す……だが、それさえも効いた様子ようすはなさそうだ。


『チッ』


 アレが使えればいいんだが……【魔の海域】の外だと、使えねぇからなぁ。 


『【蓮太鼓れんだいこ】!【流星】!』



ホォォオオオオオオ…(※水が溜められる音)




ーーーーーーーブ…チ゛ィッーーーーーーー




 初期種族【魚人ぎょじん : タコ族】は触覚しょっかくすぐれており、メラ自身のスペックと合わさることで、レアスキルである【超感覚】と同じ精度せいどを叩き出す。


ガシィィッッッ!!


 おのれの触覚が感じ取った情報から推測すると、

 女神をの表面には水がおおわれており、内側には女神の実体が存在しているが、この水に触れた場合、女神の位置とメラの攻撃がずらされている。

 そして、大きなすきが生まされていた。


『ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛『ぷきゅっ!?』あ゛あ゛あ゛』


 はすのような連続打撃の【蓮太鼓】、遠距離打撃の【流星】を適当に撃ってみたが、すべての拳はすりけるように当たらず、水のレーザービームがメラに襲いかかる。


 ムカつく。


『くきゅきゅゅ…きゅ!?』『【凶星】…!』


 メラは唯一ゆいいつの足場にしていた赤い色の風船をたいレーザービームの盾として投げつけ、さらに、即座そくざに空中でみつけて足場にした。


 大きくジャンプし、


 アーツの火力だけで言えば、【星砕ほしくだき】より強いであろう【凶星きょうせい】を発動して、風船もろともなぐりつけ『危ない!』……られなかった。


………………

…………

……


 【光翼こうよく】&【風神の拳】&【神速】を駆使くしして颯爽さっそうと登場したヨミ。


 両翼から光る粒子りゅうしが1本道となるほどの速度でりを放ちながら目の前に登場したヨミを見て、面食めんくらったメラはり上げていた拳をろして落下した。


『……危ねぇだろうがっ!』


 ヨミが合流したことで、黄金化の泉に【魔の海域かいいき】を発動しているので水に触れても大丈夫であった。


『そっちこそ、危ないじゃないっ!』


『ぷきゅ!ぷきゅ!』


ちゃんは危なかったねぇー♪』


『きゅ~っ』


 ヨミの柔肌やわはだの中で暴れ回り、メラ主人を探す赤い風船……まぁ、タコだが……ヨミの腕の拘束こうそくをするりっ……ぬるりっと……抜け出して、メラの顔にり付いた。


『は、な、れ、ろ』


 メラは鬱陶うっとうしがり、引き剥がしたタコを泉に投げ捨てた。


可哀想かわいそう!』


 テイムモンスターや、マーサとしゅがーのようにテイム以外でらしているモンスターには、プレーヤーと同じで感情値……もとい、好感度が存在する。


 あまりに好感度が低いと、本来のパフォーマンスをしなくなるケースがあるのだが、メラはタコをぞんざいににあつかえているのがヨミには不思議に思えた。


『あぁ?』『きゅ?』


『う?』


 メラは、このタコが自分の働いている職場のわがままな上司にているので適当に扱うことに決定している。


 タコは、メラの攻撃で自分が死ぬことは無いとめているので適切な関係と言える(?)ということをヨミは知らない。


『それよりも、ヨミの攻撃が何で女神アレに通るんだ…?』


ーーー【斧クエスト】では、

 泉に落とした斧の持ち主が主役であるからであり、泉(本来は非戦闘エリア)に他のプレイヤーがおとずれ、戦闘イベントが起きることを考えていなかった運営のミスである。


 (また、【OTW】は実験もねており、イベント権限を重要度が高いNPCや女神などの高位の存在に与えてるため、運営が予期せぬタイミングでイベントが起きるのである。)


 プレーヤーにおそいかかる【泥人形】が装備している斧をうばって、女神を守護する水の守護をやぶるのが正攻法せいこうほうではあるのだが……


『何でって、攻撃が通るんだから通るんだけど…?』


 防御スキルを破壊する効果の【星砕き】だが、どちらかと言えば、【回避】に近い水の守護は破壊できない。


『これのおかげかも?』


ーーー更新こうしんされたアップデート内容には、【】の所持しょじがあった。


 装備し直す必要があるが、

 サブ武器専用の装備ホルダーなどでアイテムボックスから出しながらも、ちがう武器を携帯けいたいすることができるようになったのだ。


 装備するのが直接的なためにアバターの動きにかかる負荷ふかはアイテムボックスに入れていた時より大きいが、スキル【ウェッポン・チェンジ】などを覚えていないプレイヤーや2つ以上の武器を扱うプレイヤーには大変嬉うれしい内容である。


 (ちょっと、お高かったけど…)


 特注価格を思い出すと、ヨミはしょんぼりする。


 【神斧パナシュ】のような大きさの武器を出すと戦闘中の動きやすさに支障ししょうが出ると思い、ヨミは、小さくて片手でも装備できる【蜻蛉返とんぼがえり】をサブ武器に登録していた。

 この斧の性能から考えても、それがベストであることが分かる。


 ヨミは【蜻蛉返り】をブーメランのように投げることで、【魔の海域】の外側、つまり、ヨミの雷の範囲外におり、水面に現れた【泥人形】の残党をほとんど動かずにり尽くしていた。


『…』

『…』

『なら、仕方しかたねぇか』


 (それは、斧なのか?)


 メラは、女神との戦闘中にヨミが【蜻蛉返り】を投げているところを見たが、投げられた斧の軌道きどう異様いように曲がっており、泥人形も、ヨミから投げられた【蜻蛉返り】を斧でガードしているところを見ていたが、【蜻蛉返り】は斧ごと泥人形を端微塵みじんにした、【蜻蛉返り】が泉に落下すると特大の水柱が上がっていた。


 疑問はあったが、


 会話中のメラとヨミに向かって斧が大きく振り回されている戦闘中なので、メラは深く考えないことにして、その平たい胸に些細ささいな疑問を押し込んだ。



『【氷界】!!!』


『つめてぇっ!いきなり凍らすな!』


『斧を止められたでしょっ!』



 メラの足ごと、女神をこおらせたヨミは発展途上はってんとじょうの胸を、ふふんっ!と張り上げていた。



報連相ほうれんそうしろ!』


『ホウレンソウ!?(野菜?)』



ーーーそれはさておき、メラは背中の触手で足下の氷を砕くと、凍った女神をにらむようで獰猛どうもうな笑顔で見ていた。


『凍ってるなら、俺の拳が届く』


 極寒ごっかんの冷気が、さらに巨大化した【神斧パラシュ】を振り下ろそうとしていた女神を結界ごと凍らせているが、薄氷はくひょうした結界では止まらず、降り下ろされる斧が加速していくーーー『【深き海の巨怪クラーケン】!!!』ーーー拳がとど範囲はんいは、すべて彼女の領域りょういきである。


 

 【魔の海域】を再発動したメラは、

 特殊職であり、である【拳聖】の【闘気】を鷲掴わしづかみにしたタコに流した。


 メラによって肩から放り投げられたタコの【闘気】を受けた身体は赤黒く巨大化していき、メラとヨミを包み込むと、弾力性がある頭部は襲いかかる巨大な斧から2人を守った。


『わぁお♪』『働けタコ!』


『ぎゅぴぃいいいいいいいい!!』


 【クラーケンJrジュニア】の【ジュニア】は、お返しとばかりに女神の斧を持つ手に触手をからめると、その動きを完全にふうじる。


『そのまま押さえてろよ!』


 圧倒的な質量がある身体であるが、その身と触手をもって拘束こうそくするのがこのタコの役目である。


『奥義【拳聖掌握しょうあく】、【凶星】』


 しかし、


 巻き付いたタコの触手は女神が腕を少し動かすと同時に容易たやすくズタズタに切りかれてしまった。


『チッ』


 メラはせまってきた女神の斧の面を触手で叩いて大きく回避し、触手と両腕の計6本の腕に流していた【闘気】を触手の一本に集めると、凍っていた腹部に限界まで伸ばした触手で奥義を放つ。


 メラの奥義を喰らった女神は弾かれるように大きくり、背中から泉に倒れた。


け物の腕にかよ…、人型ひとがたたもってねぇ』


 奥義を放った触手は、女神に生えた斧の刃と【氷界】の氷と共に砕け散ったが、HPを消費することで再生した。


『……威力が削れた』


 水面が盛り上がり、再び現れた女神の腹部から砕けた刃が泉に落ちていき、新たに刃が生成せいせいされていく。


『痛そう』


 これまで破壊していた【泥人形】のいろんな形の斧の刃が肌のいたるところにき出しに出ている。


 ぞくに言う【ぱんく】ってやつ?


ーーー単独で戦っていたメラだが、拳は当たらずとも、拳に宿やどした【闘気】から与えられるダメージが数百撃の間に女神に蓄積ちくせきされ、イベントは第2フェーズまで進んでいた。



ーーー【泥人形】が殲滅され、


ーーー水のヴェールが、ヨミとメラによって破られ、


ーーーそして、メラの奥義によってフェーズは最終段階までいたった。



ほろびろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』



『『ことわる!』』



 泉全体に響く重低音の叫びの中で、

 女神の左手へ集まる泥が斧の形になり、2つになった【神斧パラシュ】の刃を女神が二人に呪いとも思える殺気と共に向ける。


 それを、


 二人はおのれの殺気で迎え撃ち、なんなら、殺気が混じる状況を楽しんでいるように見えた。


ーーー女神が闇にかたむいて見えるが、対峙たいじする2人も闇には見えるだろう。


 どちらも黒く、闇がぶつかり合う空間はゆがんでるように見える。


『奥義【拳聖昇華しょうか】【禍星まがつぼし】』


『【破壊神降臨こうりん : リリス】【亡者もうじゃの国】』



 リリス、【あらぶる神】よろしく。



ーーーはぁ~…い↓↓↓



 何で、そんなにテンション低いの?



 【アイギス】を解除したことで回復し始めたMPで大量の【スケルトン】を作り、クラーケンのとなりに【スケルトン】の集合体で骨の怪物を構築こうちくする。


 骨の怪物の頭となる部分まで【光翼】で飛んだヨミが乗り、クラーケンの頭にメラが立つ。


 化け物と化け物と化け物、

 

 それにつかえる異形いぎょうの怪物の共闘は女神戦のラストをかざる!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


≪リリス≫


ーーーえ?

ーーーヨミぃぃい!?

ーーーここで、私を呼ぶの!?

ーーー嫌ぁぁぁ~っ!

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