触手 と 魔女っ娘 ヨミ

触手しょくしゅ

・およそ100センチくらいの長さ。

・テカり、ぬめり無し。

・和風装備に合う朱色しゅいろの触手。

・マーベルで、トニーにカスタムされたクモ男のように副腕ふくわんとして触手をあつかっている。

・腕より速く動かせるらしく、再生能力とアーツの発動も可能みたい。



『ふむふむ』


 割とピンチな状況だけど、


 割と大丈夫な私、


 【誘惑】と【蠱惑こわくの魔眼】を同時発動しながら暴れているから、泥人形達のヘイトがメラに移らずに私へ集まってる状況。


 そんな私は、この先でライバルになるメラとメラの触手を観察しながら、次から次に襲いかかる【泥人形】をなぐり倒しまくっていた。




 乙女おとめなのに触手への嫌悪けんお感を感じないのか?



 慣れって怖いよね。



『最近のゲームって、レトロゲーム以外は3DでVRなのが定番』

『RPGの親玉とかだと、リアルな触手なんて当たり前だし』

『それに触手ものの漫画とか、いくらでもあるもんね』


 オタクの私には 少女 × 触手 を通り越して、褐色ロリ + 触手 すらも受け入れるほどの器が出来上がっていた。世の中は怖いものだわ。


 触手のクオリティーに感心して腕を組ながらうんうんっと首を振っているくらい耐性ができている私だけど、普通の対戦相手だと男女わずに生理的せいりてきに嫌でしょうね。


『……そんなことより、この無限きの泥人形達の対処法だよ!』


 頭(粉砕ふんさい)、鳩尾みぞおち(貫通)、足(切断)、


 母親から武術をならっているヨミが、母直伝の殺人術を披露ひろうする。水上で。


 実際に水面に立っている訳ではなく、動くたびに水面に触れる手足を中心に【アイギス】を展開しており、常に片足、または、片手を動かさず、この数を相手にしているのだ。


 【光翼】を使って飛んでもいいのだが、女神に単独戦闘タイマンいどんでいるメラにヘイトが移る可能性があるために使えない。


『もう、こんなに減ってる』


 ある程度の大きさを必要とし、つねに【アイギス】を展開しているヨミのMPの消費量は激しい。


 しかも、泥人形は再生するから普段ふだんみたいに自然回復任せのMPの無駄遣むだづかいができないでいる。


ヨミ Lv.55

種族【神族】

職業【女神 : 戦乙女】Lv.55

HP 5700/5700

MP 25010/38805(19900↑)(995↓)

《解放中》《戦乙女》

攻撃 1207(995↑)(102↑)《解放中》

防御 408(102↓)

魔攻 870(90↑)

魔防 360(90↓)

速さ 400



『ちょっときびしい~』


 敵にたばで襲われても、文字通りに一蹴いっしゅうできる力はある。


 だけど、約3分間の戦闘でMPが全体の30%も減っているから、このままだと10分もたずに戦力外せんりょくがいになってしまう計算になる。


 これも、私の【神斧パラシュ】が無いせい。


『クールタイムのある【神気解放】、MPもサイズも使う【アイギス】、あと、初級魔法も連続で使ってるとMPが切れちゃうね』

『それ以前いぜんに【光翼】が切れちゃうんだ』


 足場にしている【魔の海域かいいき】では謎浮力なぞふりょくで私のくるぶしまでは浮き上がっている。水面上に薄いまくってある感じかな。


 メラさんを見た限り《かぎ》では、泉の黄金化も【魔の海域】内では効果が失くなるみたい。


 だけど…、

 

『不安定な足場はスライム・ダンジョンでりてるから飛んでいたいんだよね…』

 

 私が頑張って身体一つで【魔の海域】まで前線を押し上げた結果、

 泥人形達は私の拳で1度沈んでから、もぐら叩きのように浮上するようになっていた。


『女の子のスカートの下は鉄壁てっぺき!』


 【神剛体】!【神威かむい】!【神速】!


 足下あしもとからあらわれる泥人形を、泥人形が装備している(盾にでもなりそうな)大斧ごとかかと落としで粉砕したヨミ。

 さらに、両側から現れた泥人形の攻撃に対して、素早く開脚し、その顔のない頭部をいた。


 

 あれ?



?』

『斧が泥人形の核は…斧?』


 もしかしたら……再生能力を持つスライムの弱点が核のように、泥人形の弱点は斧なのかもしれない。


 武器破壊を狙うのは私の攻撃力を持ってしてもむずかしいし、普段は人体の急所をねらっていることもあって、意図いとしてやる機会きかいが少なかったから気づくのが遅れてたわ。


『ぁ』


ちゃぽんっ!(あっ、【光翼】が切れた!)

 

 【魔の海域】の下では、ヨミに迎撃され、泉に落とされた泥人形が上下左右ななめ360°に存在しており、落ちたヨミをぼんやりと光る目(?)で一斉にとらえていた。


 【魔の海域】で暗くなってるから余計よけいに怖いっ。


『ごぶっ…』

『ごぼぼぼぼ……』


 (もう時間をかけたくないし、ためしてみるか!)


 少しけに出たヨミは肺の中の空気をくと、小さな身体は沈む。



ぴこん♪


≪【酸欠】になりました≫


………………

…………

……



 【刃嵐】!



 水底みなぞこで発動したのは回転するごとに風圧と風の刃が増えるアーツ【刃嵐】。


 【酸欠】状態にみずかおちいってテンションが爆上がりになる中、

 泉の中で自分の身体を台風のように旋回せんかいさせると、【魔の海域】に見事な鳴門なるとが出来上がった。


『ぷはーっ♪』


 ヨミがこれをすると、ヨミの周囲にある水は壁となり、まさに嵐のようにヨミのいる場所が開けてくる。


『はぁはぁ……ふふっ…【避雷針ひらいしん】!』


 便利そうだったので、一号さんから入手方法を教えてもらったスキル【避雷針】は、指定した自分の所有物に雷属性の魔法を誘導ゆうどうできる!


 私はアイテムボックスから、昨日きのう、街でレッドプレーヤーの商人から買った槍を真上に投げた!


ーーー更新されたアップデートでは、装備のしていない武器はアイテム扱いとなっている。。


 投げた槍の性能は反映はんえいされないけど、鉄製の物が欲しいだけだからいい!


『【さばきの千雷】』

 

 稲光いなびかりが走る黒曇こくうんが一気に広がり、ぐに落雷が落ちる。


『どんとこいっ!』


 すべてのいかずちが【避雷針】によって槍に集まり、ーーー真下にいるヨミへと落ちた。


 そのヨミの左手に魔法を発動していた。


『【崩雷ほうらい】』


 槍を通って一点に集まった雷が手元で集約され、小さな手のひらににぎつぶされる。

  

 球状にまとまる【裁きの千雷】はギチギチッと音を立てて今にも暴発しそうであるが、ゆっくりと、しかし、瞬時しゅんじに両手が合わさることによって、左手の小さな雷にーーー混ぜられた。


 その瞬間、


 不運にも【神気解放】の制限時間が切れてしまい、いちじるしく弱体化した腕力によって均衡きんこうたもっていた雷は全方位にらばってしまう。


『完成』


 全集中。


 通常はゲームの痛感制限と言っても少しだけ痛みをともなうのだが、ヨミは自分の身体を暴発と共に貫通する雷に対して【黒金剛ブラック・ダイヤモンド】や【アイギス】などで防ごうとはしなかった。



 



 泥人形と共に流れる斧の場所をとらえるために雷に貫かれながらも目を閉じ、痛みを忘れるほど集中力を増していく……………次にヨミが瞳を開いた時には、嵐のように流されているすべての斧の位置を


『はああああああああああ』


 HPが低いヨミは自己蘇生状態に入りながらも、気合いとともに雷によって斧を一気に破壊する!


 力を任せに作った強力な水流では、数発の雷をはずさせてしまうが、

 雷のけたちがいは、泥人形があらがうことを否定ひていし、泉ごと斧を美しく爆散させた!!



ーーーこの技は、


 私達のクラン【黄泉よみ送り】のクランハウスの防衛ぼうえいシステムである静電気発生装置・正式名称めいしょう【ヴァンデグラフ】を参考さんこうにしたものよ。


 (何気なにげに私が最近で一番苦戦した場面だったことと、【ボルト】の威力が弱いことと、【裁きの千雷】がヒットしなかった場合の対策で出来た技よ!)


『はああああああああ!』


 【圧壊あっかい】と腕力の合わせ技により、2つのスキルを強引に混ぜる【圧縮合成】は、


 属性が違うもの同士を混ぜると、インパクト……【被弾ひだん時の威力いりょくす】。(反発力が高まるためだと、考察中)


 逆に、


 同じ属性のもの同士を混ぜると、違う属性より、【暴発までの時間が少しだけ高くなる】という性質があった。


『ァ……』


 同じ属性を混ぜた時、【合成したスキルの威力が高い方にされ、威力は高い方に依存いぞんする】というデメリットがある。


 さらに、


 合成したスキルは、【威力に差がありすぎると均衡している時間が短くなる】というデメリットがあり、相性あいしょうは悪いと言えた。

 

 だが、


 全雷魔法の中で底辺の威力を持つ【ボルト】を合成すると必ず【ボルト】が吸収されることと、


 【同じ属性のスキルを合成した場合、スキルの効果は少しだけ受けぐ】という隠し効果によって、


ーーー【裁きの千雷】は【ボルト】を合成することによって、ホーミング効果を持った。


『アハッ…』

『アハハハ…』

『アハハハハハハハハ♪』


 自己蘇生中の無敵状態の中で、くるくる、くるくる、両腕をいっぱいに広げて、えがいて回る少女のひとみうつる泉のあざやかな光景。見事な達成感。


 短距離誘導ができるようになった千の雷は、ハイテンションなヨミのスーパーな頭脳によって、死の雷となって斧を駆逐くちくしていく。


『綺麗』


 斧を粉砕した時に出るスパークや、斧を追って泉をめぐる雷、飛び散る水飛沫みずしぶきが、鳴門の中心で踊るように回る少女の笑顔と非現実的な美しさを際立きわだたせていた。


 少女のテンションは最高潮さいこうちょうまで上がっており、その笑顔は狂気を思わせるほどかがやいていた。


………………

…………

……


『魔女っ ヨミ!全破壊!』


 人為的じんいてきに起こされた雷の嵐が止んだ後に【泥人形】が増える気配は無かった。

 魔女っ娘と名乗ったヨミが放った凶悪な魔法により、イベント用に用意された斧(泥人形)があますことなく破壊されたからである。


………………

…………

……


 勢いのままポーズを完璧に決めたヨミには雷の嵐にえれなかった泉の水が大量に押しせて襲いかかり、ヨミの身体は簡単に洗い流されていた。





ぷかぁ…



 私の軽い身体は自然に水面へ浮かび上がった。


 そして、私の頭と戦いの熱は冷えている。


 だけど、


 戦闘中で行動したやってしまったすべての行動奇行は鮮明に残っており、冷静になってくると顔周りが熱くなるのが分かった。





『とても恥ずかしい』


 (このまま浮かんでいたい。)……私は、そう願った。

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