雪国 と【BUSHIDO】

 ヘッドギアのお返しに手料理を振る舞ったヨミは岩山の割れ目の中にいた。


 割れ目といっても大人が並べるほど広く、ヨミにとっては細い道と変わりない。


『おぉ…、これが【試練の】の扉ね』


 目の前のゴツゴツとした岩の壁に埋め込まれた10メートル級の扉(何で出来てるかは分からない)がある。


『(重そう……)【神気解放】した方がいいかな?』


 そう言いながら、大扉にヨミは手をれる。


ぴこん♪


≪【】を認めました≫


ーーー次の街に行くために、この【試練の間】で試練をクリアしないといけないみたい。

 そのためには、東西南北のフィールドボスを倒すことで【資格】をないといけないけど、全てのフィールドボスを倒している私は【資格】を認められたようね。


『あっ、開く』

『……ファンタジーしてるぅ~』


 扉が開くと同時に、ヨミの身体が光の粒子になって外からでは見えない内部へと吸い込まれた。


 扉の向こうに着いたヨミを、ボスモンスターと表示された骨の巨人の火の玉が浮かぶ目が見下ろしていた。


 まぁ、たいていのモンスターはヨミより大きいので仕方ないが、このモンスターはヨミが見た中の、どのモンスターよりも大きかった。


【がしゃどくろ】Lv.15


 弱っ


『普通はそんなものかぁ』


『ガシャシャ!シャシャシャ!』


 図体ずうたいだけは、デカイからの試運転に使うのも、ありよりのありね! 


『シャッ』


 下半身は無く、上半身だけの【がしゃどくろ】がヨミに腕を伸ばし、ヨミの全身を両手で包む。


『ジャシャ♪『【ウェッポン・チェンジ】!』シャ?』


 【がしゃどくろ】が手に力を入れてつぶす前に、その両手の隙間から光が漏れる。

 そして、謎の衝撃音と共に手から腕までがバラバラに砕けた!


 それは、ヨミが拘束する骨を斧で断ち切ったが、勢い余って地面に斧が刺さった音である。


『へぇ…、HPは減らないし修復するのか』


『ジャ、ガシャシャシャッ!!』


『ふんっ!』


 【がしゃどくろ】は自分の腕を砕いたヨミに、まだ直りきってない腕で殴りかかるが、ヨミは【神斧パラシュ】でむかえ撃つ!

  

バキャッッッ!


 先程とは違い、思いっきり振った斧にふれたために、今度は【がしゃどくろ】の肩から胸までが砕けることになった。


『シャシャ!?』


 【がしゃどくろ】は自身の身体の惨状ざんじょうを見て、驚愕きょうがくに固まってしまう。


 まだ戦いは続いているのにヨミの前で動きを止めることは自殺行為だ。


『【神斧一閃 : 絶】!!』


 【神斧パラシュ】が光のオーラをまといつつ、一瞬で巨大な斧を形成けいせいする!


『おりゃあっ!』


 ヨミは巨大な斧を【がしゃどくろ】の頭が真っ二つになるように縦に振るうと、何の抵抗も無く【がしゃどくろ】の骨の身体を通り切った。


『ジ…ャ?シャァァ……』



ぴこん♪


≪【試練】をクリアしました≫



 ボスモンスター相手に楽勝で勝ったヨミの目の前の壁に現れた。


 大扉に触れると、今度は粒子になることはなく、扉が音を立てて勝手に開いたため、開き切るのを待ってから歩く。


『次の街へ、いざかん!』


………………

…………

……


『…………!寒い!』

 

 扉が開き、岩場の割れ目を歩いていくと、出口に近づくにつれて雪がちらほらと見え始めた。


 そして、今は雪原を歩いている。


『山の向こう側だって、こんなに変わるのっ!?』

『そういう設定なのっ!?』


 【マップ】に見ながら数キロ先の街へ向かって歩いている。


 さいわい、雪に足がはまることはないので歩くこと自体は難しくない。

 ……が、所々ところどころでデコボコになっていたり、氷が張って滑ったり、時々、雪が吹雪ふぶいて視界が防がれたりするのがわずらわしい!


 とっても、リアルだね…!クソッ!


『プギィー!』


 向こうからモンスターが私がいる方向に突進してくるのが分かる。


『今はそれどころじゃないのよ!』


 ヨミが防具として装備している【天使の抱擁ほうよう】は、軽い、薄い、通気性抜群なため、ヨミは寒さをじかに喰らっていた。


 普通のプレイヤーなら【試練の間】をクリアした後に、極寒の地に進む場合、それなりの服装や耐寒アイテムを用意するのだが、【試練の間】の戦闘では特に苦もなく、消耗しょうもうもなく、戦闘時間も一瞬だったから、


『ちょっと行けば、ぐに着くし。いいか』


……寒さを舐めた自分を殴りたくなるヨミであるが、下手に我慢して進んで来ているので今さら引きたくはない……という現状である。



 氷の牙を口から出した白いイノシシを、【神斧パラシュ】を持ったまま、片手で牙をつかみ、遠くの林に向けて


 ここのモンスターの平均レベルは【マルクりょう】周辺のモンスターより、最大で5上がったくらいね。

 たまにレベルが低い奴もいるけど、そっちの方が遠距離持ちや特殊攻撃持ちだから厄介。


 まっ、私にはこの斧があるから楽勝だけどね。


『グゴアアアアッッッ!!』


『な、何!?』


 突然、目の前の森からモンスターの叫び声がっ!

 ぱらぱらと降ってる雪のせいで姿は見えないけど、【マップ】を見ると、私に向かって青点(モンスター)が接近しているわね。

ーーーその後を反応あり。


『……速い』


 私は斧をかまえて待つと、しげみから暗い青色の毛皮をもつ大きなクマが現れ『そいつは、私のだっ!』……ポリゴンになっちゃった。


『えー……』


 戦闘態勢になっていたので、気合いが空振りしてしまって呆然ぼうぜんとした。

 すると、クマを斬り倒した武士風の甲冑かっちゅう姿の女性プレイヤーが話かけてくる。


『すまない。

 あのモンスターはクエストで追いかけていた奴なんだ』

『せっかく、この雪の中から見つけたのに、遠くから降ってきたイノシシのせいでこっちに向かって走り出したから、追いかけてきたんだ』

『……横取りした形になってしまい、申し訳ない』


 女性に頭を下げられる。


ーーーあ~…それ、私のせいですね。


『いえ、お気になさらず!』

 

『いや…、それはダメだろう』

『クエストはクリアした。モンスターのドロップ品は君に返そう』


 いや、私のせいなので……


『いえいえ、本当にお気になさらずに!』


『………、【女神】から獲物をかすめ取ったとなるとからの報復ほうふくが怖いからなぁ』


 ん?【女神】って言ったよね?


 いや、それはいいとして信者?達?報復?


『【信者】とは』


『えっ?……知らない?』

『このゲームのゲーム内掲示板けいじばんで君のファンが【信者】を名乗ってつのっているのだが?』

『何でも、良くないことを言ったプレイヤーを特定して街の外でPKするという噂があるよ』


 知らない!


 私、攻略は見るけど!掲示板は見ないし!


『だから…ってわけじゃないけど、これは君に』


ーーー目の前のプレイヤー、【カグラ】からアイテムの譲渡申請じょうとしんせいが送られる。


 えぇ…『貰ってくれ』……【Yes】を押す。


『でも…これじゃあ、私がかつあげしたような感じになるし、だから、私からも何かあげる!』


 第一、同性のプレイヤーとの出会いが残念な形になるのは嫌だからね!


『ふむ』


 カグラは考え込むように目を閉じる。


『……なら、私と【】してくれないか?』


『【対戦】?』


『私は次のイベント後にクラン【BUSHIDO】のリーダーになる予定だ』

『そこで、敵対戦力ライバルの実力を今の内に確かめてみたくてね』


『え~。いいけど……まぁ、いいか』


 こうして、クラン【BUSHIDO】のリーダーになるカグラとの【対戦】が始まった!




ーーーそして今、斧と刀の剣戟けんげきが繰り広げられていた。


『なるほど……凄まじいな、ヨミは』


『いやいや、カグラさん強すぎでしょ!』


『カグラでいいよ、ヨミ!』


 2人は笑っていた。


 一見いっけんしてみると、ヨミの猛攻にカグラが防戦一方に見えるが、カグラは避けるでもなく、いなすでもなく、


 ただ防いでいた。


  ヨミの攻撃をスキルも無く防いでいるのである。


『【神速】【スラッシュ】』


『【縮地】【つばぜり合い】』


 私が目の前から瞬間移動のように死角に回ったのに、位置が分かっているのか、カグラは完全に振り向かなくても、刀は合わせてくる。

 パワーを活かして斧を強く当てても衝撃は下の地面に伝わり、雪が弾けるだけになる。


『少し、本気を出そうか!』



 【見る】



『【百本武芸】!』

『刀【ほむら】!スキル【炎刀】!』


 カグラの手に持っていた刀が違う刀に変わり、刀身に炎をまとわせた刀がヨミに斬りかかる!


『【ぎ払い】!』


『【見切り】、刀【とどろき】、スキル【雷光閃】!』


『【ぶっ飛ばし】、【回し蹴り】!』


 カグラの、私ののどを狙った刀の腹を殴る!私の蹴りは、カグラは刀を離して避けられた!


『刀に拳って、凄いなっ!』

『刀【虎鉄】』


 どちらも至近しきん距離で斬り合う!


 ……いや、ヨミは拳も使っているため、ハルバードの大振りによる風を斬る音と刃同士がぶつかる時に出る火花に混じって、ゴンッ、ガンッといったにぶい音も響いていた。


 アハハッ、楽しぃ~♪

 

 次の一手を考えるとか、緊張しながら頭を使うのは、実力が同じ相手じゃないとできないからね!!!


『『【刺突】!』』


ーーー同時に同じスキルを使った結果……カグラの刀が


『(今、)【神斧一閃 : 絶】』


『【白刃取り】』


 いろいろな刀を装備するカグラが武器を持っていないのを好機こうきと見て斧を振り下ろすがカグラの両手によって止められたーーー今だっ!


 カグラの腕を引き寄せて、


『【背負い投げ】!』


バンッッ!!


 地面に叩きつけてから、即座にカグラのひたいにまで拳を降りおろした。


『……』


『……どうして、

 まだ、いけたでしょ』


 カグラにたずねる。


 実力が均衡きんこうした戦いこそ、戦闘時間をどう短くするかなやむものだが、わざと長くするのは違う。

 ましてや、勝てる可能性がある者が手を抜くのは失礼だとヨミは考えていた。


 【ウェッポン・チェンジ】の派生はせい系を持っているなら、まだ武器を持っていてもおかしくないはず……なのに?


『武器は有限だからな』

『ネームド装備と違って耐久が減って壊れるのは、今するべきことじゃないさ』


 は。


『【降参こうさん】』


≪【対戦】を終了します≫


 次が楽しみね。


………………

…………

……


『次のイベントでは私のクラン【BUSHIDO】のメンバーで君に挑むことになるよ』


『私も仲間を連れてくるよ!』


 戦いの中で気が合うと感じ、両方が力を認めたヨミとカグラは仲良く話し合いながら、次の街である【グラーフ】に向かうのだった。

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