第21話 鹿狩り

 夜になり、鹿狩りを開始する。


 各自、畑に潜み、鹿がやってくるのを待つ。


 しばらくして糸を張った鳴子なるこがけたたましく鳴り、オレとミレアナで空に光の玉を放った。


 オレらは見守るだけなので、それ以上はしない。


 ピー!


 タジーが笛を一回鳴らして追い立て役が大声を出す。


 驚いた鹿が逃げ出し、またタジーが笛を鳴らして次の追い立て役に大声を出させる。


 タジーの笛に孤児院のガキどもはよく応えている。あれならすぐに終わるな。


 まあ、最初から早く終わることはわかっていたが、待ち伏せ役の冒険者たちが的確に弓矢で射ち殺し、取りこぼしを気配を殺していたタジーが全滅させた。


「タジー、強いが強いのはわかってたけど、予想以上に強いじゃないのよ。あれなら一軍を任せてもいいだわ」


 いつの間にかミレアナが近くにやってきてタジーの働きに驚いていた。


「そうだな。強くなったものだ」


 小さい頃からオレが教えたんだから当然である。とは心の中で思っておく。また足蹴りされたらたまったもんじゃないからな。


「弟子に欲しいわ」


「タジーの魔力では魔法使いは無理だぞ」


「それでも身体強化の魔法を使えているじゃない」


 同じ魔法使いだと誤魔化すこともできないから面倒だぜ。


「そうだな。だが、魔法使いとしてはダメだ」


 魔法使いにも向き不向きがある。タジーは不向きなのだ。


「あなたの基準がいまいちわからないわ」


「それはしょうがないさ。オレの中にある基準だからな」


 わかって欲しいとは思わない。オレがダメだと言うのだからタジーは魔法使いにはなれないんだよ。


「だから弓なの?」


「まーな」


 タジーは弓が得意だが、やろうと思えば剣も槍も人並み以上にはできる。そのせいで直感で動いてしまうのだ。


「直感がいいのは悪いことじゃない。戦士ならそれは武器となるだろう。けど、魔法使いは頭で考えてから動く。直感は足枷でしかない」


「魔法使いは理を持って使え、か」


「そうだ」


 これは魔法使いにしかわからないだろうな。


「ほんと、だからあなたが嫌いなのよ」


 蹴りがくると察してサッと避けた。


「直感がどうのこうの言って口はなんなのよ」


「お前の性格を鑑みての行動だ」


 まったく、すぐ足を出す女だよ。もっと落ち着きのある魔法使いになれってんだ。


 さらにくる蹴りを回避して、その場から逃げ出した。魔法使いは逃げ足の速さも要求されるのだ。


 荷車の上に逃げ、光の玉を空に追加した。


 タジーの指示の下、鹿から矢を抜き放ち、こちらへと運んでくる。


「メビアーヌ。中くらいのを異次元庫に入れてみろ」


 万が一のときに控えていたメビアーヌが戻ってきたので、異次元庫へ収納させてみる。


「わかりました。収納──」


 異次元庫収納はよく見ているので、当たり前のように鹿を収納させた。


「入っている感じはするか?」


「……はい。なんだか自分の中に入っているみたいで気持ち悪いです」


「最初のうちは違和感があるものだ。慣れれば気にならなくなるさ」


 異次元に入っているとは言え、意識と繋がっている。物体の感覚が意識に伝わってくるのだ。


「もう一匹入れて慣れさせろ」


「わかりました」


 同じくらいの鹿を収納。慣れるために瞑想を始めた。


 オレも十匹くらい収納しておくか。家うちへのとミドミのところ用にな。


「先生。おれたち森を見回ってきます。血に誘われて狼が集まってくるかもしれないので」


「わかった。気をつけろよ」


「はい、わかりました」


 ほんと、素直なヤツだよ。


「ミドロック様。鹿の血抜きをしたいのですが」


「了解」


 土魔法で吊るし台を作り出した。


「皆、素早くシメるぞ」


 年長者が指揮し、鹿の後ろ足に紐を結び、吊るし台へと吊るしていった。


「ミレアナ。何匹か異次元庫に入れておけ」


 異次元庫の容量は人それぞれだが、ミレアナなら鹿を数匹入れても余裕だろうよ。


「あまり死体とか入れたくないのよね」


 たまに意識が過敏すぎて入っているものを感じてしまうときがある。ミレアナはそう言うヤツだったけな。すっかり忘れてたわ。


「なら、異次元封印しておけ」


 魔法陣を描いてと手間ではあるが、長期保存には向いている。ただ、なにを封印していたか覚えてないといけないけどな。


 ……歳を取ると、なにを封印してたか忘れるんだよな……。


「それもそうね。異次元封印しておくわ」


 魔力で魔法陣を描き、鹿を四匹魔法陣の上に置いた。


「封印っと」


「鮮やかなもんだ。オレは苦手だな」


 魔法陣を一つ描けるだけで数年はかかる。そして、覚えておかなければならないんだから暗記力勝負の術である。


「その分、異次元庫の容量があるじゃない。いったいどのくらいの容量があるのよ?」


「ん~。どんくらいだろう? 千人分の補給物資を入れたことがあるから、ちょっとした倉庫くらいはあるんじゃないか?」


 広げすぎても中身がわからなくなるもの。今は把握できる量しか入れてない。


「お前ら。解体は明るくなってからだ。すべてを吊るしたら寝ろ。その間、オレとミレアナが見張りに立つから」


 夕方仮眠したとは言え、幼い子供に夜更かしは辛いだろう。解体なら明日でも充分だ。


「メビアーヌも違和感が消えたら寝ろ。明るくなったらオレらと交代だ」


「わかりました」


「ミレアナ。オレは周囲を探ってくる。ここは任せる」


 タジーたち出てれば問題はなかろうが、こちらはガキどもが多い。念には念をで見回っておくとしよう。


「了解。隠れてお酒を飲まないようにね」


「……お師匠様……」


 メビアーヌが冷たい目でオレを見てくる。


「し、しないよ! 見張りなんだから!」


 なにか言われる前にそそくさと見回りに出かけた。ちっくしょー!

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