第15話 転職

「……お前、隊商やってみるか?」


 オレに商才はないが、社会情勢はちゃんと見えている。


 このガイハの町は、軍事行動を起こすとすぐに食料不足に陥ってしまう。


 いくつもの隊商が行き来はしているが、軍事行動は不規則だ。魔物がいつ活発になるか誰にもわからないのだから計画も立てられない。


 今回のように早期警戒でわかったとしてもすぐに対応できる隊商なんていない。だから、すぐ食料不足に陥ってしまうのだ。


「隊商、ですか?」


「ああ。隊商は大手に握られているが、隙間はある。ミドミのような小さな店と契約して荷を運ぶんだ。もちろん、利益は少ないが、店が潰れなければ定期的に収入はある」


「少ないと家族を養うのに厳しいのでは?」


「魔法使いを雇い、冷凍荷車にするんだよ」


 王が言っていた。冷凍荷車があれば保存も利くし、海の魚も内陸でも食べられると。


 まあ、冷凍させる技術が上手くいかず、計画倒れだが、オレならできるし、冷気を得意した魔法使いを見つけたらいい。魔法使いの働く場所を用意してやらんとならいと思ってたところだしな。


「金は貯めてるな?」


 後ろ盾がないタジーには金を貯めておけと教えてある。金があれば有力者に助けを求めることもできるし、逃げるときにも必要となる。金は人間が生み出したものの中でもっとも優れた道具だ、と王が言ってました。


「はい。報酬の二割は貯めてます」


 オレの言いつけをよく守ってる子だよ。


 弟子と言うより息子的な目で見てしまうので、よく育っていることに嬉しく感じてしまうぜ。


「なら、オレも出資するから馬車を一台買え。まずは練習がてらバンブルトの街までいってみるか。鹿肉を持っていけば損にはならんだろう」


 タジーの腕があれば鹿を狩るなど造作もない。


「あ、バルバリアの村で鹿の被害が多いって聞きました」


 バルバリアの村はここから一時ほど歩いた場所にある村で、葡萄畑が広がっているところだ。


「蟻に追われてきたのかもな?」


 そう言う話を聞いた記憶があったりなかったり。まあ、それはいい情報だな。


「んじゃ、鹿狩りが先か。孤児院のガキどもに手伝わせれば安く済むだろうよ」


 グラデオ孤児院のヤツらと仲良くしててよかった。あいつらなら喜んで引き受けてくれるだろう。


「明日、冒険所にいって話を通してこい。オレの名前を出していいからよ」


 オレの昔を知る者は多いし、それなりに力もある。冒険所も無碍にはしないだろう。なぜかオレは無碍に扱われているけどな!


「はい。わかりました」


 細かい打ち合わせをし、二人で飲み交わしてからそれぞれの家うちに帰った。


「ただいま~。メビアーヌ、土産だ~」


 途中の焼き鳥屋で買った串焼きを渡した。ポロポロ鳥の肉だから旨いぞ~。


「まったく、フラフラするまで飲んで。帰り道でなにかあったらどうするんですか?」


「アハハ。オレはなにがあっても無事に帰ってくる魔法使いだぞ~。それより水をくれ。喉がカラカラだ」


「はい、水です」


 用意してくれてたのか、すぐに水を出してくれる優しい弟子。可愛いヤツよ。


「──プハァー! もう一杯!」


 酒を飲んだあとの冷たい水の旨いことよ。また酒が飲みたくなるぜ。


「ミドロックはいつもこうなのか?」


 ん? あ、メイナ姫、いたんだっけ。すっかり忘れてたわ。


「ああ、姫様。冒険者になれましたか?」


 椅子に座り、水を飲んだら少し酔いが冷めた。やはり麦酒や葡萄酒じゃ深くは酔わないぜ。


「ああ。何人かにはわたしの素性が知られてしまったがな」


 飛び出してきたとは言え、一国の姫がいなくなってなにもしないわけがない。王のことだから関係各所には通達しているだろうよ。


「それが姫、王女としての立場であり存在ですよ」


 物語じゃないんだ。王女を自由気ままにさせたりはしない。王が許可しているからメイナ姫は自由にやれているのだ。


 ……任さられるこちらはたまったもんじゃないがな……。


「面倒だな」


「面倒なんですよ。それを十二分に理解してから動かないと周りに迷惑をかけて信用や信頼を失うんです。一度失ったら姫様の立場はなくなりますからね」


 傍若無人な王族は排除される。信用と法で統治しろ。王がよく言っていたものだ。


「メビアーヌ。近いうちタジーの手伝いでバルバリアの村に鹿を狩りにいくから用意しておけ。なんなら、弟子仲間に声をかけてもいいぞ」


 弟子には弟子の付き合いがある。女弟子の中ではメビアーヌが代表的な立場らしいよ。よくは知らんが。


「鹿狩りですか? また急ですね?」


「ああ。タジーに隊商をやらせようと思ってな。バンブルトにいくときの商品とするんだよ」


「また突拍子もないことを提案しましたね」


 タジーの悩みを聞いてたのか、メビアーヌに驚きはなかった。もしかして、オレだけがタジーの悩みに気づいてなかったのか?


「タジーが隊商を営んでくれたら酒も運んでくれるしな」


「自分都合ですか?」


「そうだよ。自分の都合ならやる気も出るしな」


 それならタジーも気に病むこともない。どちらも得になるウィンウィンな関係がいい関係、と王も言っていた。未だにウィンウィンがなんなのかわからんけどよ。


「わたしも一緒でよいか? もちろん、冒険者として」


「構いませんよ」


 離れたところでなにをされるかわからないのなら、近くにいてもらったほうがいい。なにかあればオレの責任にされるんだからな。


 クソ。王に会ったら文句言ってやるからな!

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