第14話 タジーの相談

 一日では拳に魔力を集中させるくらいしか教えられなかった。


 だが、タルマルじいさんの元で修行してるからか、どいつも筋がいい。特に古株のミグジはあと一歩で魔法剣を展開できそうだ。


「あとは、日々修行だな。行き詰まったらオレのところにこい。教えてやるからよ」


「はい。そのときはお願いします」


 タルマルじいさんの弟子とは思えないくらい礼儀正しい男だよ。


 陽が暮れてきたのでオレらも帰ることにする。


「ハウシーさん。また借りにくるよ」


「ああ。でも、使いたいなら予約しろ。お前さんを含め、魔法使いは気ままなヤツばっかりなんだから」


「はいはい。そうするよ」


 気が向いたらな。


 大した汗もかいてないので、そのまま家うちへと帰宅した。


「いい匂いだ」


 誰かが家で料理を作って待っててくれる。あまりの幸せにちょっと泣けてくるぜ。いや、メビアーヌの前で泣いたりはしないけど。


「ただいま~」


「ただいまです」


 家に入ると、タジーがいた。


「お帰りなさい、先生。メビ」


「おう。嫁を放っておいていいのか?」


「嫁たちの母親がきたから逃げてきました。あの中にはいられませんからね」


 確かに。逃げたくなる気持ちはよくわかる。オレならそのまま旅に出て、二度と帰ってこないな。


「まあ、たまには女同士もいいだろう」


 十六歳ながら嫁三人を養えるだけの稼ぎをし、十五歳て大きな家──と言うかちょっとした屋敷だな。広さもあるから母親が泊まりにきても問題はないさ。


「タジーも母親に甘えたらいいさ」


「もうそんな年齢じゃないですよ。今年には父親になるんですから」


「アハハ。そうだな」


 戦争前は十六歳など子どもだったが、戦争後は価値観が狂い、十三、四で子どもを産むなんて珍しくもなかった。


 今は戦争の傷も少しは癒え、十五歳くらいで結婚するくらいになったが、早婚と言っていいだろうよ。


 夕食を食べていくと言うので、久しぶりに四人の食卓へとなった。


 タジーも十三歳まではここで食事をしており、勉強とかも教えたものだ。


 夕食も終わると、メビアーヌは座ったまま眠っていた。やれやれ、まだまだ子どもだな……。


「タジー。メビアーヌを寝台に運んでくれ」


「はいはい」


「四番目の嫁にしてもいいぞ」


 兄から夫になるのもまたいいだろう。


「三人でもヒーヒー言っているのに四人目なんてゴメンですよ」


「アハハ。モテるのも大変だな」


 オレはモテない男でつくづくよかったと思うよ。タジーみたいなことオレには絶対しなくないわ。


 メビアーヌをひょいと持ち上げ、寝室へと運んでいった。


「タジーのところ、大変なので?」


 母親たるリオ夫人に尋ねてみた。


「まあ、十五歳で結婚なんてしてしまいましたからね、いろいろあるようですよ」


 ん? はっきり言わないんだな。どうした?


「飲みにでも誘って、話を聞いてやってください」


「まあ、リオ夫人がそう言うなら……」


 今日は家で飲みたかったが、飲めるならどこにでもいくのがオレである。んじゃ、いってきまぁ~す。


 タジーを連れてミドミに向かった。


 町は軍のヤツらがいないからか、人の通りは少なく、飲み屋も静かなものだ。


 ミドミは町のヤツら──主に魔法使いの溜まり場となっているからいついっても静かなものだ。この静かさがミドミのいいところだろうな。


「いらっしゃい、先生。あら、今日はタジーも一緒なのね」


「ああ。男同士飲むのもいいかと思ってな。オレは麦酒。タジーには薄めて温めた葡萄酒をくれ」


 タジーはまだ酒に強くないので水で割ったものを出してもらう。


「はい。ツマミはカブの酢漬けでいいかしら?」


「ああ、構わんよ。夕食は済ませてきたからな」


 席に座り、とりあえず出してもらった麦酒と薄めた葡萄酒で乾杯をした。


「こうしてお前とサシで飲むの、初めてかもな」


 ミドミに連れてきたことはあるが、まだ酒がわかる年齢ではなかったし、家でも水みたいな麦酒を飲むくらいだった。


「はい。おれに父親がいないから嬉しいです」


「オレが父親? 柄じゃないよ」


 せめてお兄さんと言いなさい。


 しばらく酒を飲み合い、たわいもない話をする。


 父親とかは別にしてタジーは家族のようなもの。逞しくなってることがちょっと嬉しかった。


「先生。おれ、このままじゃダメだと思うんです」


 なにがとは問わず、目だけを向けた。


「嫁が三人もいて、子どもが三人も産まれる。このまま冒険者としてやってたらダメだと思うようになって、でも、どうしていいかわからず、先生に相談したかったんです」


「……そうだな。まだ若いから冒険者も勤まるが、それも三十歳くらいまでだろうな」


 四十歳になっても続けている者はいるが、それは組織だってやっている。単独でやるには三十歳が精々だろうな。相当の腕があれば別だがよ。


「おれ、どうしたらいいんでしょう……」


 今の年齢から手に職ってのも無理だし、店をやろうにも嫁たちを食わせるまで何年かかることか。それなら冒険者をやっているほうが稼げるだろう。


 さて。どうしたもんかね~。


 麦酒を飲みながら考えに入った。

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