第12話 訓練場
オレは魔法使いだ。
今さら? と突っ込まれそうだが、魔法使いはなにをもって魔法使いと見なされるかわかるか?
国に使えたり、冒険者となって魔法を使ったりと、魔法使いによって違うが、オレは弟子をとって魔法使いを証明している。
「メビアーヌ。修行にいくぞ」
サウナから出て冷たい水を飲んで身を引き締める。これからは師匠としての仕事だ。
「師匠って、魔法には真剣ですよね」
「魔法使いだからな」
王の元から去ったとは言え、魔法使いを辞めたつもりはない。あの日から魔法使いとして生きてきた矜持はそう簡単には捨てられない。捨てたらただの無職になってしまうからな。
「リオ夫人。夜までには帰ってきますんで、夕食お願いしますね」
帰ってきたら温かい料理がある幸せ。守りたい、この毎日、である。
「はい。たくさん作っておきますね」
リオ夫人に見送られて練習場へと出かけた。
「メビアーヌ。訓練場にいくまで指先に指先に火を灯せ」
王にせがまれて習得した
町中で火を使うなよとミレアナに怒られるが、ちゃんと制御できてこその魔法である。不始末で火事など魔法使いの恥と思え、だ。
「わかりました」
教え教わるときは師匠と弟子。オレも魔法には真摯に向き合います。
訓練場は魔法使いが共同で金を出し合って建てた建物で、魔法吸収を施してあるものだ。
町中には造れないので訓練場は町の外にあり、引退した魔法使いの老夫婦が管理している。
「ハウシーさん。訓練場借りられるかい?」
ガイハの町には四十八人の魔法使いがいる。軍に所属している魔法使いも混ぜたら二百人くらいになるが、ここは四十八人の財布から出して建てたもの。オレら以外が借りるときは銀貨三枚出して借りなくちゃならない。
オレは維持管理費として銅貨五枚は払うようにしているよ。
「ああ、空いてるよ。明日からタルマルが使うがね」
「タルマルじいさんも元気だな。また新しく弟子をとったんだって?」
若い頃は冒険者として活躍し、魔導王との戦いではガイハの町を守ったガリガリの武闘派だ。教える魔法も攻撃系ばかり。冒険に憧れる少年には大人気の魔法使いだ。
「どこかの町から流れてきた者を弟子にしたそうだ。名前だけならお前さんより広まってるからな」
「有名人なんて面倒なだけだよ」
あれをやれ、これをやれ、弟子にしろとうるさいばかり。弟子は一人で充分だ。
「望めば地位も名誉も手に入れられるのにのぉ」
「
あそこではなぜかオレの位は低い。オレが主なのに……。
「アハハ。愛されてるな」
愛してくれるなら酒を飲むことを許して欲しいよ。
鼻を鳴らして訓練場へと入った。
訓練場は魔法戦をすることもあるので広めに造ってあり、魔法射出室もあるくらい本格的なところだ。
「メビアーヌ。五指爆炎矢をオレに放て」
「はい!」
五本の指に集まる炎をオレに向けて放った。
五つの爆炎矢を
相変わらず魔力操作は上手いが、殺傷力はそんなにないのが欠点だがな。
「まあまあだな。薬指がちょっと弱かったぞ」
まず均等にしなくちゃ五指爆炎矢とは言えない。威力分けはそれからだ。
「今度は左でやってみろ」
利き手では滑らかにできたが、反対の手では魔力の流れが悪い。
「ちゃんと左手も使っていたか?」
「……あまり使ってませんでした」
はぁ~。やはり両利きになるのは難しいのかな~。両手で魔法が使えるって便利なんだがな~。
左手の指に四割り落ちの五指爆炎矢ができる。
オレもメビアーヌの威力に合わせて五指獄冷矢を生み出し、先ほどと同じく相殺した。
「まあ、四割り落ちるが、並み以上はできている。練習あるのみだな」
「はい!」
普段は小姑なメビアーヌだが、魔法を習うときは可愛い弟子になる。生活と訓練をきっちり分けるヤツである。
「瞑想」
魔法使いにとって魔力切れは恥どころか失格である。戦い終わるときまで魔力は持ち続けなければならない。そのために瞑想と言う魔力回復させる技術を身につけなくてはならない。
一朝一夕では無理だが、回復魔法に長けたメビアーヌは飛び抜けており、五指爆炎矢分の魔力なら二十秒くらいて回復できた。
「よし。利き手でもう一回だ」
魔力も体力と同じで使えば使うほど量は増え、強靭になる。反復練習が習得の近道である。
左右四回も続けると息切れしてきて、魔力の流れも落ちてくる。
「休憩だ」
ハウシーさんの奥さんが用意してくれた水を飲み、蜂蜜と塩を舐める。
「今日は杖術をやっておくか」
魔法使いは魔力を鍛えるのも大切だが、体力もなければやってられない。タルマルじいさんの言葉を借りるなら、魔力、体力、根性だ。
「はい、わかりました」
訓練場にある練習杖をつかい、打ち合いを開始した。
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