第10話 メイナ姫
旨い酒を飲み、ホロ酔い気分で
うん、まあ、予想はしていたので黙って怒られる。もう、いつものことなので右から左に流し、終わったら寝台にいって朝までぐっすり。いい気分で目覚めた。ふわ~。よく寝た。
「水玉!」
ばしゃ! と水をかけられる。冷たっ!!
「……もっと師匠に優しくしろよ……」
お前、日に日に扱いが悪くなってるぞ。
「だったら立派な行動をしてください!」
「オレ、そんな立派な人物じゃないんだけど……」
昔は役職もついてたが、今はその日暮らしの魔法使い。立派な行動したってしょうがないだろうに……。
「もっとしっかりしてください! 師匠がだらしないと弟子のわたしが恥をかくんですからね!」
それ、逆じゃね? とは思うだけにしておく。この町の者は、メビアーヌの味方だから。
「はいはい、ごめんなさいね」
右から左に流してサウナへと向かった。
寝間着を脱いでサウナ室に入った──ら、真っ裸でゼン(瞑想の姿勢らしい)をしているレイナ姫がいた。
急いで回れ右してサウナ室から出た。
「メビアーヌ!」
「あ、メイナ姫が入ってますよ」
「それを先に言えや! 入ってから言うな!」
「メイナ姫がいないことで察してくださいよ。師匠、女性に対する配慮が足りなすぎるんです」
女性に対する配慮が足りないのは認める。王のように恋多き人生じゃなかったからな。だが、メイナ姫がいるなら姫のほうに配慮しろよ。一国の姫の体を見たなんて王に知られたら責任取らされるわ。
「と言うか、メイナ姫はサウナでなにしてんだ?」
サウナでゼンとか死にたいのか?
「修行とか言ってましたよ」
「なんのだよ!」
「わたしにわかるわけないじゃないですか。わたしは見習い魔法使いなんですよ。騎士の修行なんて教えられてませんし」
いや、騎士の修行にもサウナでゼンなんてねーよ! お前、そんなにバカだったか?
「……まるで王みたいな姫だよ……」
王もわけのわからないことをやったり言ったりしていた。王の血の成せる業か?
「メビアーヌ。メイナ姫を出してくれ。これじゃサウナに入れないよ」
「一緒に入ったらいいじゃないですか。いつもサウナは裸の社交場って言ってるんだから」
「それは一般人でやることで、王族相手にすることじゃないよ。あと、サウナは男の社交場な!」
オレ、お前に間違って一般常識を教えたか? 王族がなにか……教えてないな。ごめん。オレの落ち度だ……。
「王族はこの国の要。国を支え一人だ。高貴であり権限があり立場がある。庶民には畏れ多い方なんだよ」
「……まるで敬意がないどころか厄介な存在みたいな口振りですね……」
「当たらずとも遠からずだ。権力とは良くも悪くも厄介だからな」
それは王の近くで見てきた。側にいるだけなのに胃が何度も死にかけたよ。金も名誉も権力もいらない。心安らかに暮らせるなら弟子に怒鳴られる毎日のほうが幸せだわ。
「──ミドロック、帰ってきたか」
サウナからメイナ姫が出てきた。素っ裸で。って、オレも素っ裸だったわ!
「メビアーヌ、頼む」
オレは服を持って部屋へと戻った。
水と火を合わせた魔法でお湯を作り、それで体を洗い、風の魔法で乾かす。汚れたまま王族の前に立つなど不敬であるからだ。
……まだ染みついてんだな、配下としてのクセが……。
お湯を窓から捨てて、戸棚から一張羅を出して着替えた。
「これを着るのも久しぶりだな」
魔法使いとしての正装(誰が決めたかは知らん)になったのは、伯爵の夜会だったかな? まさかまた着るとは思わなかったぜ。
髪もボサボサだが、髪を切っている暇はないので諦め、居間へと戻った。
メイナ姫も着替えたようで、水をがぶ飲みしていた。
……豪快に育ったな……。
最後に会ったのはいつだっただろうか? 年月とは恐ろしいものだな。
「お久しぶりです、メイナ姫」
再会がアレすぎて挨拶もできなかったので、しっかり……ではないけど、恭しく挨拶をした。
「ああ、久しぶりだな。十年振りになるかな? あの頃と変わ……たな。萎びれてないか?」
「歳も取りましたし、戦いにも出てませんからな」
太ってないだけマシだと思う。まだ、腹だって出てないし。
「まあ、魔法使いとしては衰えていないようだな。メビアーヌから聞いたぞ。天軍を消滅させたようだな」
天軍とは飛蝗が群れになったときの名称だ。
「少なかったですし、纏まっていれば怖くありませんからな」
歴史上では天を覆うほど現れたことがあるらしいが、オレが燃やした天軍は万もいないくらい。風で集めて炎で燃やしてやれば終了だ。
「さすが魔法王だ」
「止めてください。そんな大それた異名で名乗られる力はありませんよ」
もうオレの下にいたヤツらが台頭している。過去の栄光など邪魔でしかないわ。
「し、師匠、魔法王なんて呼ばれていたんですか?」
「なんだ、知らないのか? ミドロックが使える魔法は千とも万とも言われていて、その一撃は魔導王の腕を吹き飛ばしたくらいだ」
本当に過去の話は止めて欲しい。オレは今を楽しく生きてるのだ、そんな過去に邪魔されたくないんだよ!
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