楽園は遙か遠く

加藤伊織

序章 彼女の夢

 時折夢に現れるのは白い部屋。

 狭いベッドに横たわる愛する人。

 抱きしめたいのに手を伸ばせない。

 止めどなく涙が流れても、涙が尽きることはなかった。

 

 会いたい。会いたい。会いたい。――でも、もういない。


 いつまでも、胸の奥には気持ちがくすぶり続けている。

 それでも耐えられたのは、あの人の気持ちが間違いなく自分にあると知っていたから。



「……会いたい」


 そう呟きながら目を覚ますときにはいつでも涙を流していて。

 誰に会いたいのかはわからないけども、私はずっと誰かを待っている。

 会えるかどうかもわからない、「誰か」を。

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