教えてグーグル、私たちの明日のゆくえは?
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教えてグーグル、私たちの明日のゆくえは?(一話完結)
高校生になったら自動的に彼氏ができる…って考えたことないって言ったら嘘になるけど、少なくとも本気で信じてたわけじゃない。だって、ネットにはそういう言い回しがゴロゴロ転がっていて、そう考えることはおかしいことじゃないし、それが叶わなくてもおかしいことじゃないって私は知っていたからである。
世の中にある不思議なこと、しかも私が疑問に思うようなレベルのことは、大抵はググればわかる。学者の人が何十年もかけて研究してるけど未だにわかんないこと、っていうのも、私が考えてもしょうがないっていうのがわかる。学校の先生よりもグーグルに問いかけたほうが素早い回答が返ってくる。
生まれたときから世の中にインターネットが普及していた私たちは答えを得るのが簡単すぎて、一つの疑問についてじっくり自分の頭で考えるということを疎かにしている。と、思う。
だからか私は、この思いの行く末をググっても出てこないことに苛ついているのである。
「でも、ネットにはどうすれば恋が成就するのかは書いてあるじゃーん?モテテクとか掃いて捨てるほどあるし」
「そういうことじゃないの!っていうか気軽に恋って言わないでくれる?」
「いや、恋じゃん。確実に」
千佳ちゃんはスマホをいじりながら、つまんなそうにそう言う。
「もういい加減、認めなよ。あんまり強情だと恋も実らないよ?」
「本当にやめてください~~~それに恋じゃありません~」
「あっそ」
千佳ちゃんはスマホから目を離さない。おそらく、”いつきくん”のツイッターを見ているに違いない。彼女は最近、若手俳優の結城いつきくんに夢中だ。千佳ちゃんの好きななんとか、っていう漫画が舞台化されたときに、千佳ちゃんの推しキャラを演じたのがその人だったらしい。
最近はその人の話ばっかで、ツイッターに自撮りが上がれば報告してくるし、ブログに舞台に対する心構えなんかがアップされても報告してくる。漫画が好き過ぎるあまりに観に行きたくない、と言っていた舞台も、ついにチケットも取ったらしい。
「あーいつきくんほんとかわいい。存在が尊い。カナも見る?見るでしょ?はいっ!」
顔の前に差し出されたiPhoneのディスプレイには、舞台用に濃い化粧が施されたいつきくんが、ちょっと上からの角度でピースをしている写真が映し出されていた。
「うん、かわいいんじゃない。でもやっぱり素顔のほうがかわいいよね」
「あー!カナは舞台メイク好きじゃないもんね。でも、素顔も美しいもんね」
さっとiPhoneを自分の方に戻した千佳ちゃんは、もう一度「本当にかわいい」と言っていた。
正直、そのいつきくんとやらに一ミリも興味をそそられない。それでもなんとなく可愛いとか美しいとか言ってしまうのは、千佳と友達で居たいからだ。
千佳はそのいつきくんが出る舞台のチケットを取ってから、ツイッターで繋がった、同じく舞台を見に行く人とばかり交流をしている。ちょっと前ならいつきくんの情報は逐一私に説明していた。有り余る思いをどこに発散して良いのかわからず、とりあえず私にどこが可愛いのかを説明することで力を分散させていたように思う。
最初は千佳が俳優にハマったという珍しさから話を聞けていたけど、あまりに同じような話を毎日聞かされるもんだから、途中から面倒くさくなってしまった。
いつきくんの話をされそうになったらとっさに違う話を振る、を続けていたある日、千佳からぱったり彼の話を聞かなくなった。
「いや、実は最近ツイッターでいつきくんのことをつぶやく専用のアカウントを作ってさ。毎日毎日カナに話して悪かったよ」
その日から、千佳は私と話していてもiPhoneを見ていることが多くなった。きっと、画面越しにいる、私とは違って千佳の話を興味津々に聞いてくれている人と楽しく会話をしているんだろう。
その後、私は反省した。千佳とは名前の順が近かったからたまたま仲良くなっただけだけど、それでも今の私にとって一番の友達だ。少なくとも、私はそう思っている。千佳とマックでくだらない話を二時間もして、家に帰ったら何を話してたか全然思い出せないねなんて笑いながら電話をしたこともない人に千佳の一番の友達の座を取られたくない。
それからはもう、ググってググってググりまくった。友達の趣味の話を聞き流していたらツイッターでできた友だちに話すようになって私は放ってって置かれるようになったんですがどうすればいいですか?、って相談掲示板?みたいなのに書いたら誰か有益なアドバイスがもらえるかなって思ったら、それはしょうがない、あなただって友だちに同じことをされたら同じことをするんじゃない?っていうふう返信ばっかりが書かれて、なんかムカついた。私より数年生きてるくせに、若者にアドバイスもできまいくせに偉そうな顔してマウント取ってんじゃねえよ。ただその中に「そのお友達はあなたが興味のない話を延々として嫌われるのが嫌だったんだと思います」っていうのがあって、それはちょっと嬉しかった。そうだったらいいなあって思った。
それからはまあ、もうさり気なく千佳にいつきくんの話最近なにやってるの、とかそういうのを聞いて、「私にも言ってくれていいですよ」オーラを出し続けた。千佳は最初は私が特段興味はないけれど一応聞いてくれているというのを察して、「カナは優しいね~」なんて言ってはぐらかしてきたけど、何度も何度も根気強く聞き続けていたらそのうちポロポロと教えてくれるようになった。
今じゃもう、さっきみたいに自分からいつきくんの話題を振ってくる。
どう?わかった?ネット上の人。千佳の一番の友達は私なんだよ?って顔も名前も知らない人相手に誇らしい気持ちになってる。
千佳には本当は言ってないことがある。実は千佳がつけている制服のリボン、それ本当は私のなんだ。実はこの前の体育の時間に私一瞬トイレに行くっていって抜けたじゃん?そのときに取り替えました~。
バレたら「いつ気づくか試してた」って言おうと思ってたけど、意外とバレてなくて私は調子に乗ってます。
あと私が好きかもしれないのは、あなたです。
でも、この気持ちはきっと恋じゃないから。高校を卒業したらきっとあなたの印象は「若手俳優にめっちゃハマってた、高校時代一番の友達」になるはずだから、どうかそれまでは、このままで、恋じゃないままで、なんとか一緒に居させてください。
「あーいつきくんと街中でぶつかって恋が始まっちゃったりしないかな~」
「少女漫画かよ」
今の私の願いは、どうかいつきくんが私たちの行動範囲内で活動していないでくださいってことと、もしもいつきくんが私たちの行動範囲内で活動していたとしてもちゃんと前を見て歩いてくれていること。それだけである。
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