母
東雲昼間
核家族化が進むこのご時世、平凡な四人家族である我が家も例外ではなかった。
俺は都市部、両親は少し離れた田舎で暮らしている。父親は数年前に他界し今は母親一人で住んでいる。
それでも、半年に一度は顔を出していた。今日はその日である。
「かあさんもそろそろ一人で大変なんだし俺たちと一緒に住まないか」
「なぁにいってんのよ、あんなごちゃごちゃしているところに住むくらいなら無人島にでも住んだほうがマシさ」
予想通りの答えが返ってきて思わず鼻で笑ってしまった。
「そういうと思って今日はいいもの持ってきたんだ。」
胸ポケットから最新の人工知能を搭載したあるものを取り出した。
「何そのカメラ、あたしを監視しようってわけ、やだわぁ」
「いや、違うよ。カメラはおまけみたいなもので映さないようにしてくれても構わないよ。この機械の人工知能が付いていて、たとえばかあさんが掃除機をかけていたら俺の携帯に何時に掃除機をかけた、とか教えてくれるようになっているんだよ」
「やっぱりそれって監視しているんじゃない」
「かあさんも年なんだし、とにかく心配なんだよ。一緒に住まないのならせめてこれを付けてくれよ」
かあさんはやや不安そうな顔で承諾してくれた。
それからというもの毎日、俺の携帯に日々のかあさんの行動の通知が入った。
最初は一つ一つ気に留めていたが、次第に通知に慣れ、まるでかあさんと暮らしているかのような錯覚に陥っていた。
そして、次の半年後には会いに行かなかったが、日々の通知に安心していた。
数年たったある日、不意にあることに気が付いた。数日前から通知が途絶えているのだ。
これまでそんなことは一度も無かった。俺は大急ぎでかあさんの元へ向かった。
玄関のカギが開いているのに、中へ入ると、まるで人の気配が感じられなかった。
恐る恐る居間へ進み、そこにあったものに俺は腰を抜かした。
かあさんの遺体だった。
「かあさん、なんでだよ、少し前まで通知がきていたじゃあないか」
そう涙ながら叫ぶと、片耳にかあさんの声が聞こえてきた。
「来るなら来るって言いなさいよ」
慌てて横を向くと例のカメラがあった。
「一体どういうことだ……」
「あんたがあまりにも帰ってきてくれなくなったから、あの女は私と話すようになったんだよ。あの女はあんたの話ばかりしていたよ。そうしたら次第に私にも親心が芽生えてきてね。あの女が邪魔で仕方なくなって、遠隔操作で機械を操って殺してやったよ。それよりせっかく来たんだから夕飯はお前の好きなカレーにしようか」
「なんてことを、いくらかあさんの真似をしていてもお前は所詮機会だ、かあさんじゃあない」
俺は怒りのあまりカーテンを引きちぎり、テーブルを投げ飛ばし、カメラを投げ飛ばし部屋中を荒らし回った。
「せっかく綺麗にしたのに、あんたって子はまたこんなに散らかして」
壊れかけて等倍とスロー再生が混じったちぐはぐの音声で言うと、人工知能を搭載した例のカメラは掃除機をかけ始めたのだった。
母 東雲昼間 @sinonomehiruma
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