第23話 はじめてのもぐら
「ふん! 相手にとって不足無し!」
それが、開戦の合図だった。
「残念だよ。最初の奴は、問答無用で、火を放った。だが、お前は話しかけてきた。だから、話し合いの余地が、あると思ったのに……残念だぁっ!」
まずは、脚の一本も、そう思い、奴の右前脚にグーパンを叩き込む。
「なんじゃ、こりゃぁ!」
「今更、昭和のテレビドラマですか……。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。
「フッ……驚くのも、無理からぬ事よ。何しろ、我の肉体は、土と砂で出来ておる。切られようが、刺されようが、殴られようが、全く痛痒など感じぬわぁっ。」
とりま、後方に、飛び退る(とびすさる)。
”ふむ、これでは、お主得意の、関節技も、投げ技も効かぬぞ。如何にする?”
【さっき、殴った感触からして、骨が無い事は、分かった。つまり、奴は『土行術』の達人で、自分の肉体すら、術で維持してるって訳だ。】
”ま、そんな所ぢゃろうて。して、如何にする。”
【漫画で読んだ事がある。
確か、魔王を退治する勇者ご一行の話だ。
『炎と氷、相反する上、無限に再生する肉体を持っていても、核を破壊されれば終わり。』
だったな。】
”道理ぢゃの、あ奴は、只の土砂を多量に『土行術』で、操っておる。であれば、『本体』とも言うべき『箇所』もあろう。して、それは何処(いずこ)ぞ?”
その時だった。咄嗟に、交差させた両腕の上から、『奴』の長大な尻尾が、横薙ぎに叩きつけられた。たまらず、後方に飛ばされる俺。
「この通り、『只の』土砂でない事は、明白だ。我の『土行術』は、達人の域を超えている。いわば、『超人』……『超龍』だ。『打』ァッ!」
今度は、右前足の蹴りだ。今度は、サッカーボールの様に、吹っ飛ばされる俺。
奥の壁面に叩きつけられる、
【漫画で読んだ事がある。
確か、柔道のスポコンだ。
『受け身とは、背中を打つ前に、両腕脚を叩きつける事で、衝撃を殺す事だ。』
何とか、上手くいったな。】
”! 次が、来るぞいぃっ!”
【『奴』は、痛みを感じねぇ。だから、攻撃が外れて、壁を叩く羽目になっても、痛くねぇ。が! 痛みを感じない事、そのデメリットなら、漫画で読んだ事が、あるぜぇっ!】
「トドメ!『打』ァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
盛大な轟音と、衝撃と、土埃を立てて、『奴』の尻尾が、壁に命中していた。
「……よし。これで、潰れただろう。……どれ、彼奴は……? いない!何処だ!」
壁から尻尾をどけた時、そこには誰もいなくなった。
「おひおひ……その言い方は、毎度お馴染みの『コンボ』を、使ったんだろう。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。
「知ってるぜ。『土行術』を薄く広く使えば、洞窟の入り口をピンポイントに、『探知可能』だってな。なら、今の俺の位置位、すぐに気付くだろう。」
「気付かれちゃ、駄目だろう。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。
「……『土行術』……………………! 何と、既に我の体内に、潜り込んでいたのかぁっ!」
「それが、『痛みを感じないデメリット』だ。ドリルの様に、身体を高速回転させて、体内に侵入されても、気付かないんだからなぁっ!」
尻尾から侵入した。現在、胴体までの距離、後2メートル……1……。
「ほざけ! その方、我の『土行術』を舐めすぎだ! ……『超密度』!」
途端、動きが鈍くな……いや、押さえ付けら……。
【どうやら、『奴』の『土行術』が、土砂で圧力をかけてるみたいだ。】
”なんとかせぬか! 潰されるぞよ!”
「大丈夫だ。未だ間に合う! …………どぉぉぉぉりゃぁぁぁっ!」
すんでの所で、身体を捻り、胴体の直前で、大気中に脱出!
「とりま、転がって避ける! ついでに間合いも取る。」
”ふむ、『奴』め。力こそ凄まじいが、動作は緩慢ぢゃのぉ。”
『奴』から十分な距離を取って、胡坐で座る……
”のぉ……部屋が、狭くなっておる様ぢゃが、わらわの気のせいかや。”
【それなら、とっくの昔に、気付いてた。多分、そっちに力を使った分、更に鈍重になってたんだろう。多少の不自然を、感じないでもないが。】
”なななななぁっ! 何ぢゃとぉっ!”
「ふむ、ようやく気付いたか、愚か者め。その方が、あまりにちょこまか動き回るので、少しづつ、部屋を縮小させておいた。もう、逃げ場は無いと思え。」
「お前が、そう言うのは分かっていた。だから。お前の『弱点』を、突かせてもらう。」
「弱点? ほぉ……。」
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