第18話 結界発生装置テスト

 人型のハティは、鱗と同じ赤い色の髪を持ち、頭部には角が二本生えていた。

 尻尾は太くて長く、とても立派だった。


 そして、幼竜なのに、ハティは出るとこが出ている。

 その大きめの胸を押しつける形で、気持ちよさそうに眠っていた。


「…………ベッドに入るなら小さな竜形態がいいと言ったはずなんだが」

「もにゅもにゅ」


 ハティは俺の服の胸の辺りをちゅぱちゅぱ吸っていた。

 甘えた猫がそうするように、両手は俺の胸あたりをもみもみしている。


 猫がもみもみするのは、子猫の頃、母猫の乳を揉んでいた時の名残と聞いたことがある。


「……竜って卵生だよな。いや違うのか?」


 卵生ならば母竜の乳で育つわけではない。

 もみもみする理由がないのだ。


「まあいいか。竜、特に古竜の生態に、俺も詳しいわけでもなし」


 俺が知らないだけで、実は母乳で育つのかも知れない。

 そもそも、竜の生態は謎が多く、専門家も知らないことが多いと聞いたことがある。

 数が少なく、特に強力な古竜なら特にそうだろう。


「お腹でも空いているのかもしれないな」


 おかげで、俺の胸元はベトベトだ。


「ハティ、朝だぞ。起きなさい」

 俺はハティの肩を揺すった。


「……うみゅ?」

 ハティは眠そうに目を開ける。


「朝ご飯を食べるから起きるよ」

「……ぐるるぅぅ!」


 ハティは大きく口を開けてあくびをしながら伸びをする。

 猫のようにお尻を上にあげ、両腕を前にぐうっと伸ばしている。


 それはいいのだが、全裸でしかも俺の上で伸びをされるととても困る。

 ちょうどハティの胸が俺の顔に押しつけられる形になった。


「ハティ。大事な話がある」

「ふわあぁぁぁぁ。主さま。どうしたのじゃ?」

「人の姿の時は色々と自重しなさい」

「?」


 ハティは全裸のまま、ぺたんと割座をして、きょとんと首をかしげる。


「そもそもだ。ベッドの中に入るなら竜の姿にしろと言っただろう?」

「はっ! そうだったのじゃ!」

「ベッドの中に入ってもいいが、絶対竜の姿にしなさい」

「わかったのじゃ!」


 ハティがわかってくれたようで良かった。

 人と竜、種族が違うので常識も当然違う。

 共同生活を行なうには、価値観のすりあわせが大切だ。


「それに人族の姿になるなら、全裸はだめだ」

「なぜなのじゃ?」

「竜族は全裸が基本なんだろうが、人族は服を着るのが普通なんだ。人族の姿になるなら服は大切だ」

「なるほどなのじゃー」


 そういいながら、ハティはするすると小さな竜形態へと戻った。


「朝ご飯を食べよう」

「乾燥パンがいいのじゃ!」

「……本当にハティは乾燥パンが好きなんだな」



 乾燥パンと水で、朝ご飯を済ませると、新型魔導具、つまり結界発生装置の実験に入る。

 拠点の外に出て、結界を展開させて、その中で鉱山用爆弾を爆発させるのだ。


「こういうときは荒野が便利だな」

「爆発かー。あのロッテが使ってた奴かや? みたいのじゃー」


 ハティはロッテを襲ったときに爆弾型魔導具を投げつけられて直撃したらしい。

 楽しそうに尻尾をふっているハティに見守られながら、俺は設置を終える。


「……よし。いくぞ」

「たのしみ――」


 ――ゴオオオオオオオオオアアァァァァン!


「――なのじゃ」


 凄まじい音が響く。

 ハティは驚きすぎて、プルプルし始めた。


 俺は結界発生装置の様子を確認する。

 全く壊れていない。この様子ならば連続で爆発させても大丈夫だろう。 


「ひとまずは成功だが……、外に漏れる音がまだ大きすぎるか」

「な、なんという爆発の威力なのじゃ!」

「まあ、そういうものだ」

「人族とは恐ろしいのじゃー」


 それから五回ほど連続耐爆試験をする。


「ハティ。手伝ってくれ」

「任せるのじゃ!」

「結界の中に入ってくれないか」

「…………ハ、ハティごと爆破するつもりなのかや。さすがのハティでも、あんなの食らえば無傷ではすまないのじゃ!」


 ハティは怯えた様子でこちらを見てくる。


「そんなひどいことするわけないだろう。今は爆弾の威力テストじゃなく、結界の耐久性テストの途中なんだ」

「ふむふむ?」

「ハティには結界の中に入って、外に向かって全力で攻撃してくれ。ハティの攻撃に耐えられるなら大概の攻撃に耐えられるだろう?」

「そういうことかや! 任せるのじゃ!」


 ハティは喜んで結界の内側へと入る。

 それを確認して俺は結界を発動させた。


「いいぞ。思い切りやってくれ」

「わかったのじゃ! GOAAAAAAAAA!」


 ハティは巨体に戻ると、強烈なブレスを吐き、尻尾を結界に力一杯叩きつけた。


「すごい、壊れないのじゃ」


 楽しそうにハティは暴れまくる。

 それでも結界は壊れない。音は外に漏れてくるが、ブレスの熱気も振動も伝わってこない。


「ハティ。次は俺が中に入るから、外から攻撃してみてくれ」

「わかったのじゃ!」


 ハティは外から結界に全力で攻撃する。

 全くもって、びくともしない。だが、騒音はかなりひどい。


「……強度は充分かもな」


 だが、騒音問題は未解決だ。

 荒野ではなく王都に研究室を作るなら、騒音対策は必須である。


 俺は暴れるハティを眺めながら、頭の中で結界発生装置の設計図を改良していった。

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