『クリエイターのための占星術 キャラクター、ストーリーと世界観の作り方』 イントロダクション

『クリエイターのための占星術 キャラクター、ストーリーと世界観の作り方』

コリーン・ケナー=著



 イントロダクション


 星空とストーリー


 神話が作られたのは3000年以上も前のことである。神や女神に見立てられたのは、当時、肉眼で見ることのできた星たちだ。英雄の戦いも冒険も、夜空の星座をモチーフにして語られた。


 宇宙とは何か、人間とは何か。それらの問いについて語るのに、古代ギリシャの人々は、神話を用いたわけである。現代ならば、科学によって多くが説明できる。それでも、まだ、人間の心や生き方を語るのは科学ではなく、物語だ。物語を創作するストーリーテラーが、その仕事を担っている。


 天体や星座には様々な意味が込められている。現代でも、星空はアイデアの宝庫だ。古代の神話を下敷きに、現代ならではのストーリーを生み出すこともできるだろう。星が空にあることは、昔も今も変わらない。何をどう語ろうかと思いをめぐらせる時、見上げればそこに星たちがいてくれる。


 ホロスコープは天空のドラマ


 天体からヒントを得てストーリーを作ることは、大昔からなされていた。人々は焚き火を囲んで夜空を見上げ、星をつないで星座とし、それにまつわる物語を生み出した。私たちも同じようにして、創作を豊かにできる。


 星座には、それぞれにまつわる神話や伝説がある。人間の特質を表す言葉の語源となったものも多い。神話や伝説のメッセージは私たちの「集合的記憶」として、社会の誰もが共有すると考えられている。


 星座を見る占星術師と、物語を作るストーリーテラーの共通点は多い。どちらも人間の本質を探り、考える。心の中に隠された動機や秘密、願望をつきとめようと熱中する。人の心を悩ませるものは何か、人は無意識にどう突き動かされるかに興味を抱く。それに、小説家や脚本家、その他ストーリーを作る人々は、生まれつき人間観察が好きである。占星術師も同じだ。


 また、占星術のボキャブラリーは、ドラマ作りの現場でもおなじみの言葉にぴたりと一致する。葛藤、解決、勇気、共感、人生の転機となる成長や発展といった言葉は占星術でも欠かせない。実際、ホロスコープ[天体の配置図]を「天空のドラマ」と呼ぶ占星術師も多い。天体が獣帯の12サイン[ 簡易参照ガイド371頁]を順にめぐっていく様子は、まるでストーリーの進行を見るようだからだ。


 私たちは登場人物とプロット、設定、テーマを絡め合わせてストーリーを作る。この、絡め合わせる作業というのも、占星術で行なうワークと似ているのだ。星から啓示を得るかどうかは別として、ひとたび占星術の知識を紐解けば、その実用性と即効性にびっくりするに違いない。


 占星術が目指すもの


 有史の時代から、人は天体の動きに注目していた。聖職者や哲学者は天体から何らかの予兆を読み取り、時の為政者や王に進言した。それが占星術の始まりであり、後に天文学へと発展した。


 だが、星に運命を左右する力はない。そのような力があると考える占星術師の方が、むしろ稀である。「星に強制力はない。ただ後押しする力があるだけだ」とよく言われる。シェイクスピアが書いたセリフに「運命を握るのは星でなく、我々だ」というのがあるが、多くの占星術師も同意するだろう。


 星は地上の出来事を映す鏡だとも言われる。天体の動きには規則性があり、人もまた、身についた習慣を繰り返す傾向がある。占星術はただの迷信ではなく、両者の関連を探ることに本質がある。自然界と人間との間に規則性の一致を見出し、過去から現在、未来の解釈や予測を試みる技法なのだ。


 もちろん、全てを予測することはできない。むしろ、その方がストーリーテラーにとって都合がいい。理屈では説明できない出来事や矛盾、欠点や弱点があるからこそ、人生はドラマチックになる。そこに着眼するのは、ストーリーテラーも占星術師も同じだ。


 占星術では、大昔から象徴的な表現が多用されてきた。シンボルを用いて人間の内面を表現しようと試みてきたわけだから、心理学の原始的な形とも言えるだろう。今日でも、大きな宇宙の視点から、私たちの存在を見直す糸口を与えてくれる。


 占星術とは、人間の性質を無限の時間軸の中で眺め、理解しようとする試みだ。ストーリーを作る時にも、大きな視野と深い洞察が得られるだろう。


 なぜ占星術を使うのか?


 占星術はストーリー創作の実践に役立つ。何から書けばいいのやらと迷う時、占星術は出発点を示唆してくれるのだ。天体に思いを馳せると、おのずと視野も広くなる。そうするうちに、意外なアイデアを得ることもあるだろう。


 占星術で使用する天体や星座が、私たちになじみが深いのも利点だ。星占いで「あなたの星座は?」と聞かれたら、自分の星座や友人、家族の星座も答えられる人は多い。しかも、占星術に出てくる天体の多くは、小学校の理科の授業に出てくるものだ。星座の由来になった神や女神の名前にも、聞き覚えのあるものが多いはずである。


 占星術もストーリー創作も、果てしない奥深さと魅力がある。本書で占星術の全てを語り尽くすことはできないが、実践に役立つ基本の知識は得て頂けるようになっている。


 本書の概要


 本書では、占星術で使われる要素をストーリーテリングに当てはめていく。占星術で見る天体は、ストーリーの登場人物(キャラクター)として考える。12サイン(宮)はプロットに、ホロスコープ上のハウス(室)は舞台設定に見立てて考えていく。


 太陽系の惑星が太陽を中心に回っている様子は主人公を脇役たちが取り巻くのと似ている。


 もう少し、占星術の3つの要素をどう生かすかを説明しよう。



 1 天体


 夜空に輝く天体は、天空というステージでドラマを演じる役者のようだ。占星術で使う天体を人間に見立て、キャラクター設定を考えていく。どんな夢を持ち、どんな不安を抱えているか、天体の特徴を参考に考えてみよう。登場人物それぞれの個性を描き分け、セリフを通して表現することも可能だ。中心人物とサブキャラクターの振り分けに迷っている時も、天体の個性を参考にしながら解決できるだろう。


 2 サイン(宮)


 天体は時間と共に、サインからサインへ移動する。本書では、これをキャラクターとプロット進行に当てはめる。キャラクターが困難に遭遇したり、何かと対立するさまを天体とサインになぞらえ、ストーリーの筋書きを考えていこう。構成やテーマ、象徴的な表現を考える際、12サインがどう利用

 できるか解説する。


 3 ハウス(室)


 占星術では、ホロスコープ・チャートを12の「ハウス(室)」に分割する。それぞれのハウスに象徴されるものをストーリーに当てはめ、背景や状況の設定を考える方法を学んでいこう。


 占星術をヒントにすれば、もうアイデア不足に悩むことはない。10天体と12サイン、12ハウスを掛け合わせれば、実に1440通りの組み合わせができる。小惑星や恒星、その他の星座を加えれば、選択肢はさらに広がる。


 本書の使い方


 本書は占星術とストーリーテリングとの基本的な関係性を紹介し、読者のイマジネーションを刺激することを目的としている。天体やサイン、ハウスといった基本コンセプトをフィクション創作に応用する方法を見つけて頂けたら幸いだ。


《 創作のガイド 》

 随所に実践の手引きとなる「創作のガイド」を掲載した。ガイドに従って文を書いたり、前の項で得た知識をもとに想像したり、考えたりできるようになっている。

「創作のガイド」は、読者の独創的な発想を促すためにある。内容のアレンジや応用複数のガイド項目の組み合わせは自由だ。占星術でも、そのようにして幾多の気づきを導き出そうとすることが多い。発想のツールとして、また創作の友として、キャラクター設定やセリフの執筆、シーンやストーリー構成に役立ててほしい。

 この本を占星術の入門書としてもよいだろう。ただ、本書の狙いはあくまでもフィクション創作を豊かにすることだから、真剣に占星術を勉強する必要はない。各項で紹介する要素やテクニックを好きなように使って頂けるよう、シンプルな解説に努めた。

 本書を読み終える頃には、あなた自身のニーズに合った占星術の利用法がマスターできているだろう。ベーシックな知識に独創的なひねりを加え、キャラクターやストーリー、シチュエーションの設定ができるようになるはずだ。


 本書を読みながら、自分の出生図( バース・チャート。あなたの誕生日のホロスコープ)と照らし合わせてもよいだろう。出生図の作成は、www.astro.comなどのウェブサイトで無料でできる。あるいは、初心者向けのホロスコープ作成ソフトを購入したり、有料で解説を付けてくれるチャート作成サービスを利用したりしてもよい。ストーリー創作の作業では、登場人物やストーリーの架空のホロスコープを考えながら進めていく。



(ぜひ本編も併せてお楽しみ下さい)

※掲載しているすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。


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▼物語やキャラクター創作に役立つ39冊

http://www.kaminotane.com/2020/01/08/3888/

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