『記憶に残るキャラクターの作り方』第5章 キャラクターの人間関係を作る
『記憶に残るキャラクターの作り方 観客と読者を感情移入させる基本テクニック』
リンダ・シーガー=著
キャラクターは人間関係の中におり、単独で存在することは稀です。一人芝居(サミュエル・ベケットの戯曲『クラップの最後のテープ』や登場人物が少ないスティーヴン・スピルバーグの1971年放映作『激突!』など)は別として、ほとんどのストーリーは人と人とのやりとりを描いています。多くの映画やテレビドラマシリーズでは相関関係が人物単体のクオリティと同じくらい重要です。
小説家レオナルド・ターニーは20世紀に見られた変化をこう指摘しています。「小説や映画でカップルの物語が重視されるようになり、パートナーを描いた作品も増えました。2人組の刑事や夫婦などの間で化学反応のようなものが起きて新しい自己を見出したり、何かを作り出したりするストーリーです。人でも物でも、二者を一緒にすれば新しいものができます。自分では気づかないかもしれませんが、人はカップルで過ごす時にふるまい方が変わるものです」
大ヒットしたテレビドラマ『チアーズ』や『Kate & Allie(未)』、『こちらブルームーン探偵社』、『モーク&ミンディ』、『刑事スタスキー&ハッチ』、『女刑事キャグニー&レイシー』、『探偵レミントン・スティール』などでは2人のスターが共演していました。映画では『アダム氏とマダム』(1949年)や『アフリカの女王』(1951年)、『明日に向って撃て!』(1969年)、『48時間』、『リーサル・ウェポン』、『レインマン』などが二者の関係を濃密に描いています。
人間関係のストーリーには人物どうしの相性が強く出ます。それを視野に入れて、個々のキャラクターを設定しましょう。最も効果的な組み合わせは次の通りです。
1. 互いに共通の何かがあり、ずっと一緒にいる。キャラクターどうしが引き寄せ合う
2. 互いを引き離すような葛藤と対立があり、ドラマが生まれる。コメディの要素が生まれる時もある
3. 互いの性質にコントラストがある。2人の対照的な性質が葛藤と対立を生み、キャラクター性を強く打ち出す
4. 互いに相手を変容させる可能性を持っている。さらに良い方向へ、あるいは悪い方向へ
引き寄せと、葛藤と対立とのバランスをとる
葛藤と対立はフィクションに不可欠です。それによって緊迫感や面白さやドラマ性が生まれるからです。しかし、多くのストーリーはラブストーリーでもあります──つまり、引き寄せ合う人々を描きます。葛藤、対立と引き寄せ合いのバランスは、映画や小説では比較的簡単に見出せます。最初の対立が結末で解決し、多くはハッピーエンドで終わります。
一方、テレビドラマには独特の難しさがあります。シリーズが5年、10年と続く場合は解決させないままで継続させなくてはなりません。引き寄せ合って葛藤と対立が消えてしまえば面白味がなくなります。逆に、引き寄せ合いが乏しく、葛藤と対立ばかりなら、好感度が下がって視聴者離れを招きます。人物たちが惹かれ合うドラマであれば、ずっと引き離しておくのも不自然でしょう。このバランスをどうするかはプロデューサーや脚本家にとって難しい課題です。
『チアーズ』のクリエイターであるジェームズ・バロウズは番組の初期の頃にこう考えました。「このドラマは発展する。外部の意見では、ダイアンとサムの関係は発展しなくていいと言われていたけれどね。でも、からかい合うレベルで止めておくと、サムの人物像と合わないんだ。彼は女好きだから絶対にダイアンを口説くはずだし、そうでなきゃ色男として失格だろう。2人がくっつくのはキャラクターにとってプラスだったし、新しい展開もできた。くっつけて、また別れさせるというのもいいアイデアだよ」
『Who’s the Boss? (未)』や『こちらブルームーン探偵社』、『チアーズ』といったテレビドラマは恋心や友情をリアルに感じさせました。人物たちはいろいろな面でピュアな好意を示しています。『Who’s the Boss?』のクリエイター、マーティン・コーハンとブレイク・ハンターは登場人物アンジェラとトニーの共通点をこう語っています。
「2人とも保守的なんだ。すごく普通で──家族と家が大事。出かけるよりも、家でポップコーンを食べながらテレビを見る方が好き。また、お互いに助け合っている」
『こちらブルームーン探偵社』のマディとデヴィッドの会話や想いをみれば、2人がストレートに気持ちを伝えられていないことが窺えます。「素晴らしき哉、人生」と題されたエピソード(脚本、カール・ソーターとデブラ・フランク)では、幽霊になったマディの前にアルバートと名乗る守護天使が現れ、マディが2年前のクリスマスに事務所を閉めていたらどうなっていたかを見せます。デヴィッドはモデルのシェリルと結婚間近ですが、マディのことが忘れられません。彼には幽霊となったマディの声が聞こえず、姿も見えません。マディは彼の言葉に反応します。
デヴィッド そういえば……マディ・ヘイズ……久しぶりに聞く名前だな。よくビンタされたっけ……彼女はなんというか……上品で強かった。すごい人だったよ。
マディ 本当?
デヴィッド やさしくて、あったかい感じがしたんだけど。素敵な女性だったんだろうな。
マディ あら、デヴィッド、だった、ってどういう意味?
デヴィッド 俺と相性がよかったかも。
マディ 相性はよかったでしょ……忘れたの? DJにピアニスト、あのバカな私の似顔絵。あなたが私を追ってブエノスアイレスに……私はあなたを追ってニューヨークに。忘れたの? ガレージでキスもしたじゃない。
アルバート してないよ、マディ。
マディ え?
アルバート 今きみが言ったことは全部、実現していない。
マディ え?
アルバート 君が事務所を閉めたからさ。失われた2年間だ。
デヴィッド 俺はバカだな。知らない女性とシェリルとを比べるなんて。
この2人が結婚して家庭をもつという古風な展開もあり得ますが、連続ドラマシリーズでは何らかの障害を設けて2人を引き離し続けます。よくあるのは職業上の立場の問題です。2人が仕事のパートナー(『こちらブルームーン探偵社』)や雇用主と従業員(『チアーズ』『Who’s the Boss?』)といった設定にすると、障害としてうまく機能します。少なくともどちらか1人が「仕事に私情を入れてはいけない」と気づきます。
ここで難しいのは、2人がある程度は親しくできて、かつ、少なくともどちらか1人が踏みとどまろうとする程度にハードルを設けることです。『Who’s the Boss?』では同じ価値観の男女が惹かれ合いますが、一つ屋根の下に子どもと同居している限り、2人はベッドを共にできません。『チアーズ』ではダイアン(後にレベッカ)が、女好きのサムには屈しないと固く決心します。
これらのシリーズでは2人の間の障害が笑いの種にもなりました。やり過ぎると逆効果ですが、ひょいと障害を飛び越える場面があると、よい刺激になります。たまにはそうしないと、接近しない2人が不自然に見えてしまいます。
『こちらブルームーン探偵社』と『チアーズ』の2人は徐々に境界線を越えます。デヴィッドとマディ、ダイアンとサムは交際を始めます。
『Who’s the Boss?』では、1985年に放映2年目で、2人が次のようなシーンで接近し、お互いの関係について語っています。
アンジェラ 何もしない。私たち大人だし、それに……。
トニー それに、こうしてうまくやってきた。
アンジェラ そうね。こうじゃない方がよかったかもしれないけど。
トニー こうじゃない方がいいかもね、アンジェラ。
アンジェラ ええ、そうね。
トニー でも、今までとは変わってしまうだろ。今の状態を失いたくない。
アンジェラ 同感。
キャラクターの性格も、2人を引き離す障害として働きます。節度を重んじるアンジェラはトニーとの関係を積極的には進めないでしょう。知的でスノッブなダイアンはサムのような軽い男を相手にしたくないはずです。恋愛が苦手なマディはデヴィッドの誘いになかなか乗れません。
***
続きは、『記憶に残るキャラクターの作り方 観客と読者を感情移入させる基本テクニック』にてお読みください。第5章では、この他に「2人の間にコントラストを作る」「葛藤と対立の見つけ方」「キャラクターはお互いをどう変えるか」「4つの要素を使ってキャラクターを創作する」「三角関係を作るコツ」などの項目が用意されています。キャラクター創作において、より実践的な知識を得られるはずです。
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