『キャラクターからつくる物語創作再入門』1章:ポジティブなアーク
『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
K.M.ワイランド=著
1 人物が信じ込んでいる「噓」
人は変化を嫌います。人生を変えたいと思っていても、いざとなると心が揺れる。そして結局、「このままでいる方が楽だ」と思う自分に気づきます。
それはストーリーの登場人物も同じで、変化に対してかたくなに抵抗します。むしろ、ストーリーにとってはその方が好都合。なぜなら、抵抗はコンフリクト(葛藤、対立)を生むからです。そして、コンフリクトからはプロットが生まれます。このことだけを見てもキャラクターアークとプロットが関連しているのがわかりますね。その関連性がはっきり見えない場合でも、プロットは人物の内面の変化を映し出しているはずです。
プロットは主人公の七転び八起きの軌跡と呼べるでしょう。ほしいものが手に入らず、何度も挑戦する人間の姿を映し出します。
ポジティブなアークは優先順位の変化の軌跡でもあります。プロットが進むにつれて、ほしいものがなぜ手に入らないのかに気づいて変わるのです。何度も失敗する原因は、次の二つのどちらかです。
a それをほしがること自体が間違いだから。
b 自分の考え方や方法がことごとく間違っているから。
『Dramatica: A New Theory of Story(ドラマティカ 物語の新しいセオリー:未邦訳)』の著者メラニー・アン・フィリップスとクリス・ハントリーはこう述べています。
ストーリーと関係のない問題を主人公に与えて失敗する作家はたくさんいます。それは、彼らがストーリーと人物の内面を別々に考えたからというより、おそらく、ストーリーを作った後で人物の掘り下げが足りないと気づいたことが原因です。
▼人物が信じ込んでいる「噓」
アークは「人物が信じ込んでいる噓」をめぐって展開します。今の生活がどうであれ、どんな人物も自分に「噓」をついています。
何かが欠けていて、変化を必要とする状態。それがポジティブなアークの始まりです。人物にどこか不完全なところがあるのは、生まれた境遇や住む環境のせいではありません。強制収容所にいるから心を病むとは限りませんし、豪邸に住んでいるから幸せとも限りません。逆に、裕福な暮らしの人物が、希望もなくみじめな思いをしているかもしれません。
人物の不完全さとは「内面」の未熟さを指します。自分や世界に対して間違った思い込みがある状態です。次節で詳しく説明しますが、この未熟さが人物を悩ませる障害となってプロットが展開します。最初は心のよりどころにしていたものが、ストーリーが進むにつれて決定的な弱点に変わっていく、という流れです。
第一幕で人物はそれを気にしておらず、自覚もほとんどしていません。インサイティング・イベント(全体の12パーセント経過地点)やプロットポイント1(全体の25パーセント経過地点)で状況が揺らぐまで、自分の欠点に無頓着で、間違った「噓」に固執さえしています。第一幕では主人公の「普通の世界」(詳細は第5節)を描き、主人公の内面がいかに「噓」で固められているかを提示します。
▼「噓」とは何か
人物の「噓」にはさまざまな形があります。映画や小説の例を挙げましょう。
『マイティ・ソー』…強い者が正しい。
『ジェーン・エア』…相手に服従しなければ愛してもらえない。
『ジュラシック・パーク』…子供は面倒で手がかかる。
『ウォルター少年と、夏の休日』…大好きな人たちは噓をつく。
『トイ・ストーリー』…気に入られなければ価値がない。
『スリー・キングス』…人間よりも富が大切だ。
『フーリガン』…弱者は強者のいいなりである。
『おつむて・ん・て・ん・クリニック』…注目してもらうには変人でいなくてはならない。
「噓」とは、ある特定の考え方で、一つの文で表せます。ジェーン・エアのように条件を示す場合もあります。「自分には愛される価値がない」という意識が根底にあり、「自分を犠牲にすれば愛してもらえるはずだ」と信じ込んでいます。
▼「噓」が引き起こす症状
人物の「噓」を見つけましょう。プロットの中で、人物どうしの意見の相違や摩擦、葛藤に「噓」が表れているかもしれません(次節で「WANT」と「NEED」の違いを取り上げ、さらに詳しく述べます)。また、人物のアクションとリアクションから「噓」が感じ取れるかもしれません。特に、次のようなリアクションは大きなヒントになります。
〇恐怖
〇深く傷つく
〇許せない
〇罪悪感
〇ひどい隠し事
〇過去の行為や、つらかった出来事を恥じる
これらの反応は「噓」から生まれることがよくあります。自分の「噓」に気づいていない人物でも、これらの「症状」は自分で意識しているはずです。不愉快で消したい症状なのに、同じことでくり返し悩んでしまう。それは人物が思い込んでいる「噓」が消えていないからです。
中世を舞台にした私の小説『Behold the Dawn(暁を見よ)』の主人公マーカス・アナンが信じている「噓」は「世の中には絶対に許されないほど重い罪がある」。彼の「噓」は罪悪感や後悔、隠し事、破滅的な生き方といった症状を引き起こします。本当は自分の罪を許して幸せになりたいのですが、「噓」を払拭できすにいます。
アンジェラ・アッカーマンとベッカ・バグリッシ著『性格類語辞典 ネガティブ編』(滝本杏奈訳、フィルムアート社)には「噓」がもたらす症状の例がたくさん載っています(キャラクターアークにも触れています)。いい症状や「噓」が思いつかない時は参考にして下さい。
▼人物が信じ込んでいる「噓」の例
『クリスマス・キャロル』(チャールズ・ディケンズ作)…「人の値打ちは稼ぎの額で決まる」と信じるエベネーザ・スクルージはクリスマスイブに恐ろしい目に遭う。
『カーズ』(ジョン・ラセター監督)…ピクサーの映画の中で私が個人的に一番好きな作品。レースカーのライトニング・マックィーンは自己中心的で、「人生はワンマンショー」と信じ込んでいる。
▼クエスチョン
1 主人公は自分や世界に対してどんな誤解をしているか?
2 その誤解のせいで思考や感情、精神に何が欠けているか?
3 内面の「噓」はどんなふうに周囲に表れているか?
4 冒頭で人物は「噓」のせいで困ったり悩んだりしているか? どのように?
5 冒頭で人物が特に困っていなければ、インサイティング・イベントやプロットポイント1で「噓」の影響が見え始めるか?
6 人物の「噓」をもっと具体的にするために、他の物事や人物の同意や裏づけが必要か?
7 人物の「噓」が引き起こす症状は?
人物が信じ込んでいる「噓」はキャラクターアークの基礎であり、主人公の世界が抱える問題点でもあります。これがうまく設定できたら、次はそれをどう正していくかを考えます。
(このつづきは、本編でお楽しみ下さい)
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