第20話 修学旅行で、きれいな女の子に告白された!

 十一月のある日の朝。僕、レイジ・ターゼットと、エースリート学院の生徒たちは隣国カガミラにある「宮廷保養訓練施設」に旅立つことになった。グラントール王国の魔導体術養成学校では、十一月は修学旅行のシーズンだ。


 エースリート学院は千人もいるので、今回の修学旅行は、三グループに分けて旅行する。初回は僕ら4年B組を含めた、約三百人だ。


「おいっ、レイジ。修学旅行、楽しみだなー。最近、ずっと練習漬けだったからよぉ」


 ケビンは駅まで歩いていく最中、目を輝かせてつぶやいた。


 僕らエースリート学院の生徒たちは、ランダーリア駅から魔導汽車まどうきしゃを待つ。引率の先生は七名いる。ルイーズ学院長や担任の男性教諭、バクステン先生もいる。

 どうもルイーズ学院長はうかない顔だが……。


 僕たちは整列して魔導汽車まどうきしゃを待っていたが、その時、後ろから声がかかった。


「おい、あんたレイジってんだろ」


 振り向くと、制服のポケットに手を突っ込んだ少年が僕をにらみつけている。刈り込んだ金髪で、制服を着崩している。間違いなく不良だ。うわぁ……僕の超苦手なタイプ。彼の胸のバッジを見ると、「3」と書かれているので、三年生。下級生だ。


「この間の試合、勝ったんだって? オレ、観てねーんだわ。あんたが強いっての、とても信じられないんだけどよ」

「えーっと……」

「あ? 何、ボソボソ言ってんの? 俺に勝てんの?」


 彼は身構える。うわ、こいつ、駅のホームで闘う気まんまんだ! 冗談じゃない。


「おい、バーニー。よせよ。もう汽車がくるってよ」


 後ろから、彼の仲間が笑いながら彼に言う。ボーラスに勝ったのに、下級生にすごまれる僕。情けない……。


 僕らは魔導汽車まどうきしゃに乗り込んだ。二時間かけてカガミラ駅に到着。そこから徒歩十分、森の中を歩き、ついに宮廷保養訓練施設に辿り着いた。

 敷地面積は百ヘクタール。僕は数学は苦手だが、とんでもなく広いってのは分かる。


「うわぁ、すげえ」

「豪華~」

 

 生徒たちは歓声をあげる。

 全面ガラス張りの美しい玄関に入ると、中は豪華ホテルのようなロビーだった。


「最高だぜ、なあ」


 ケビンがつぶやく。


「大金持ちになったような気分だぜ」


 部屋は何と一人一部屋。ベランダ付きで、風呂とプールもついている。


 さっそく僕らは食堂に昼食を食べに行く。

 カガミラ若鶏の香草焼き、塩ドレッシングをかけた野菜サラダ、アンギラス(川魚)のスパイス焼き、粗びき小麦のパン、カガミラ牛のコンソメスープ、特製プリン。

 カロリーや脂肪分も計算に入れたメニューだ。しかも美味い。


「うむ、まろやかな味わいだ」


 ベクターが上品に口をぬぐった。


「しかも栄養価も高いし、カロリーも調整されている。言うこと無しだな」


 昼食を食べ終わると、若い女性係員に、訓練所を案内された。まずは訓練所の裏手に案内された。


「う、うわああー」


 生徒たち全員が声を上げた。目の前は海が広がっていたのだ。生徒たちは裸足になって、海に入ったりしている。皆、大はしゃぎだ。

 ケビンは、「ぬおおおー」と叫んで、砂浜ダッシュを始めた。


「ケビン、初日で疲れるって……」


 僕は苦笑いしてケビンに注意した。アリサは友達のミーナと砂遊びをしている。小学部の子みたいだなあ……。


 訓練所の練習施設も最新式の鍛錬器具でいっぱいだった。

 特にウエイトトレーニング機器は、魔導の知能が機器に入っており、その人に合った重量を自動で計算してくれる。


 シャワー、風呂も当然完備。百種類の石鹸、五十種類のバスソルトや三十種類の入浴剤が取り揃えてある。これは女子たちに大好評だった。


 さて、訓練所の奥には体術用試合リングがある。練習試合をやっているみたいだから、見せてもらおうかな。僕は練習試合なんか、誘われてもしたくないけど……。


「なあ、レイジ先輩」


 ん? 聞き覚えのある嫌な声がした。後ろを振り返ると、さっき駅のホームで絡んできたバーニーという下級生がいた。こいつかぁ……。

 こんな時にケビンやベクターがいない。土産物でも見てるのか?


「いっちょ、勝負しましょうや。リングに上がらなくてもいいっしょ。今、ここで。和やかな練習試合ってことでさ」


 バーニーは僕をにらみながら言った。何が和やかだ。


「や、やめとく」

「は? オレ、十五歳の部の大会、八位入賞だよ?」

「練習試合の気分じゃない」

「は? ナメてんの? やっぱ弱ぇんじゃねえの?」


 彼の取り巻きが、後ろのベンチの方でゲラゲラ笑っている。


「先輩、体術グローブ、つけてくれよ。ここ、新品を貸し出してるんで」

 

 バーニーは、僕に体術グローブを放った。やるつもりか……。僕は渋々、体術グローブを拳にはめた。バーニーといえば、もうすでに体術グローブをつけている。


「で、いつりますかねー」


 バーニーはなんて言いながら、いきなり殴りかかってきた。

 僕は彼のパンチの右手の平で押さえた。パンチにスピードが出る前に、彼の拳を受け止めた。


「なっ……」


 バーニーは驚いた様子で、右手を引っ込め、今度は左フックを打ち込んできた。

 ――ここだ!


 パンッ


 鋭い音が響いた。


「ゴベッ」


 バーニーはうめき、腹を押さえて床に倒れ込んだ。床は木の板でできているので硬い。僕は彼が頭を打たないように、素早く頭を手で支えてやった。


 うおおおっ……。


 周囲の野次馬は声を上げた。僕のカウンターの右ボディーブローが、バーニーの腹に、完全に決まった。


「なん……でそんなことが……できるんだ? 速ぇ……」


 バーニーは立ち上がろうとしたが、よやよたと腹を押さえてまた床にしゃがみ込んだ。


「フックは挙動が大きい」


 僕は説明してやった。


「ボディーブローの方が早く相手に届くってわけだ」

「そ、それにしたって……急所を……完全に……。人間……技じゃねえ……。あんた一体……?」

「大丈夫か? 医務室に行くか?」

「う、うるせえ、お、覚えてろ!」


 バーニーは再び立ち上り、腹を押さえてヨタヨタと通路の方に逃げていった。彼の仲間たちが、僕をにらんでいる。

 はあ、勝手にしてくれ。挑んできたのはそっちだろ。


「あ、あのー」


 こ、今度は何だ?

 右の方を見ると、そこにはスラリとして美しい女の子が立っていた。ん? 誰だ? 見たことのない女の子だ。


「レイジ君……ですね?」

「そ、そうだけど」


 僕は女の子を見やった。黒髪のロングヘアで前髪はおかっぱ。身長は165~167センチくらいだが、とてもスリムだ。僕と同じくらいの年齢、十六、七歳くらいか。美人なので、野次馬たちが皆、その子のことを見ている。

 でも、彼女が羽織っている魔導体術まどうたいじゅつローブは白い。エースリートのローブは青いから、エースリートの生徒じゃないな。どこの生徒だろう?


「好きです」

「は、はい?」

「レイジ君……好きです」


 い、いきなり告白ぅうう! 

 反対の左の方を見ると、アリサが腕組みをして、ふくれっ面で僕を見ている。しかも、さっきの騒ぎで、野次馬はまだ僕の周囲にたくさんいる。

 皆、僕と女の子を見て、色々、噂をし始めた。


「ほう」

「告白か」

「いいねえ」


 こ、これ、公開告白状態じゃないか!

 え、えらいことになった。

 この女の子、一体、誰なんだ? 女の子は恥ずかしいのか、顔が真っ赤だった……。

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