第16話 レイジ VS ボーラス①
エースリート学院とドルゼック学院の団体戦が始まった。
「闘う時が来たな……」
僕は気を引き締めた。
第一試合は、ケビン・ザークVSジェイニー・トリア。
男子、女子の対決は、
五分十五秒、ジェイニーの見事な中段回し蹴りが決まった。魔力が入った、鋭い威力の蹴りだった。ケビンのKO負け。
相手のドルゼック学院は、KO勝ちで、勝ち点三取得。
「ちくしょう! 修業が足りなかったぜ!」
ケビンはリングを降りて、悔しそうに叫んだ。
第二試合は、ベクター・ザイロスVSマーク・エルディン。
手数の多いベクターの判定勝ち。やはりベクターは蹴り技が良かった。
判定勝ちだから、僕らは勝ち点一取得。
「ふむ、まあまあの出来だったが、倒せなかったことは大いに反省だ」
控え室に戻ってきたベクターは、満足していないようだ。
そして第三試合……つまり最後の試合は僕とボーラスの試合だ。僕がボーラスにKO勝ちで勝たないと、僕らエースリート学院は負ける。勝ち点を見ると、三対一で負けているからだ。
僕は体育館の廊下で、アリサに
彼女はいつもの「おまじない」をグローブにかけてくれた。僕のグローブの拳の部分を、ぽんぽん、と叩く。
「レイジ、勝ち点のことは気にしないで」
「ええ?」
僕は困惑した。団体戦の大将として、とてもプレッシャーを感じている。
アリサはニコッと笑って、それでいて真剣に言った。
「勝ち負けは重要じゃないよ」
アリサの言葉に、僕は驚いていた。
アリサは僕の目を見て言った。
「レイジがボーラスと勇気を出して戦う。そのことが大事なんだよ」
アリサは僕がボーラスにいじめられていたことを知っている。殴られ、ボーラスたちドルゼックの英雄メンバーから追放され、ドルゼック学院を退学になったことを知っている。
「レイジ、君がボーラスとの試合にチャレンジするの、ちゃんと見てるから。あたし、リング下で君の闘いぶり、見てるからさ……」
アリサは言った。そうだったな。チャレンジすることが大事だった。
◇ ◇ ◇
ついに試合時間がきた。
僕はアリサと一緒に、歓声がわきおこっている試合場の花道を通った。
僕は一層強くなる歓声の中、試合用リングに上がった。すでにボーラスはリング上で待っていた。
相変わらずの巨体。威圧感がすごい。
痩せている僕との体重差は、二倍弱くらいあるだろう。
ボーラスは、ジェイニーとマークをセコンドにつけている。
「レイジ、お前、正気か? 本当にやる気なのかよ?」
ボーラスはリング上の僕を見て、半ば呆れたように笑って言った。しかし僕は胸を張った。弱音は吐かない。少なくとも、リング上では……。
「そうだ、ボーラス、君と闘う気だ」
「お前、本当にバカな野郎だな。俺に歯向かうとはよ。おい、リングから逃げ出すなら今のうちだぜ」
「僕は逃げないぞ」
「この野郎……お前に、一体何があったんだ? 不思議でしょうがねえよ。まあ、人間はそう簡単に変わらねえ。弱い野郎は、一生弱いんだからな!」
闘いの始まりを示すゴングが鳴った。
ボーラスは笑いながら、近づいてくる。
「地獄へ行けや!」
ボーラスはワンツー・パンチを放ってきた。速い! やはりボーラスはパンチの名手だ。僕は右手で二発を払った。
続けてボーラスの右フック。
彼は急所のこめかみを狙ってくる。僕は防御した。よし、問題はない。パンチは重いが……。
ん?
おかしいぞ。
この痛み!
腕がジンジン
へえ……なるほど、そういうことか。
僕はボーラスをにらみつけた。
ボーラスの
「まさかグローブに何か入れているのか? ボーラス」
僕はピンときて言った。するとボーラスはグヒヒッ、と笑った。
「はあ? 知らねえよ。何言ってんだ? おめえは」
まさか、これは
(まさか、そんな……。いや、ボーラスならやりかねない!)
もし、それをやっているなら、ボーラスの拳部分には、今現在、石が入っているのと同じことだ! しかし、証拠がない……。
「ボーラス、
僕が思わず聞くと、ボーラスは何も言わず、ただ黙ってニヤニヤ笑って構えているだけだ。
ん? リング下には、見覚えのあるドルゼック学院の下級生が二人いる。
「おらーっ! よそ見してんじゃねえーっ!」
ボーラスは叫ぶ。そして彼は素早く、右ジャブ、左ジャブ、そして左ストレート。さすがにパンチは素早い!
僕はそれを手で払う。
くっ、僕の手の平が不自然にジンジン痛む。手の平でボーラスのパンチを受けたからだ。ボーラスの体術グローブが異様に硬い。間違いない、ボーラスはやっている!
(そうか! あの時!)
ボーラスのヤツ、体育館ロビーで僕との試合が分かった時、ドルゼック学院の下級生に何か指示していたな。あの時、
ボーラス、恐ろしいことを……君はとんでもないインチキをしでかした!
「ようし、分かったよ、ボーラス」
僕はニヤリと笑ってつぶやいた。
「うっ……」
ボーラスは焦ったようにうなった。少し危険を感じたのか、一歩後ずさる。彼は冷や汗をかいていた。彼は僕が、ドルゼック学院にいた時の僕ではないと、感じ始めているのだろう。
僕はこの試合――必ず勝たなくてはならない! しかもKOでだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。