2019.11.28

 その日、ボクはいつもみたいに軽い足取りで事務所に向かっていた。木枯らしが吹き抜けて、もみの木が揺れる。そろそろ電飾がつく頃かな、とマフラーを手繰り寄せながら。

 二年になって同じクラスになった白鶯はくおうは、せっかく一緒だってのにいつもボクを置いて行ってしまう。別にもう慣れっこだし、そんなことより大好きなみーくんが違う高校に進学しちゃったことのほうが寂しい。まあそれも、もう半年以上前のことだから、今更ぐちぐちは言わないけど。

 そういうわけだから、放課後に白鶯がいないこともさして気には留めてなかったし、いつも通り事務所に行って、いつも通り最高のパフォーマンスの練習をするだけ。そう思ってた。

「ヒナ、シキ見なかった?」

「どうしたの、みーくん。血相変えて……」

「見なかったかって聞いてるの」

 いつもは冷静で穏やかなみーくんの言葉が強かった。やけに焦っているみたいで、ボクまで焦燥感が募る。

「み、見てない…… っていうか、先に来てるもんだと──」

「っ、シキ……!」

 聞くやいなや、ボクには目もくれずみーくんは走って行ってしまった。理由もわからない。何も聞けないまま、みーくんの背中がどんどん遠くなる。

 いつだってボクはみーくんを一番に考えてる。誰よりもかっこよくて、優しくて、ボクのことを最初に可愛いって言ってくれたひと。だからこのときも、ボクを見てくれないみーくんに、みーくんの意識をかき集めている白鶯に、ちょっとしたヤキモチを抱いて。それでボクは終わらせてしまったんだ。

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