サブエピソード《コンドルとスケルトン》

2019.10.1

「このプランで、良いですね」

 顔を顰めて頷く男は、ようやく書面にサインを施した。ここまで食い下がるクライアントは珍しい。それほどの秘蔵子だろうかと経歴書を見直しても、やはりそれ以外の魅力はわからなかった。

「あくまで、僕のプランは指針です。それを生かすも殺すも、あなたたちの自由だ」

 そう、《あくまでも》《ただの》プランナーでしかない。念押ししてやれば、男は何度目かの息を吐き出す。

「あなたの理想に反しますか? それならば、これは白紙にすればいい。僕如きに振り回されたくもないのでしょう」

 こちらも息を吐き出し、紙を引き寄せようとすれば阻まれた。

「──いいや、驚いただけだ」

「驚いた、といいますと?」

「天才プランナーとも呼ばれるきみが、私と同じプランを描いてくるとは。とね」

「は──」

《あくまでも》《ただの》プランナー。男の口がそう動いた。口角が吊り上がる。ああなんだ、この男はクライアントなどではない。そうだ、脳筋の老害だ。

「失礼。言葉が過ぎた」

 ああくそ、腹が立つ。結局大人とかいう生き物は。あの子の願いも叶えられないくせに。

「あっ、せんせーこんにちは!」

「ああ、今日も元気だね」

「うん!げんき!プランきまった?」

 どうせこの子も大人の願いに蝕まれるんだろうに。

「決まったよ。明日から頑張ってね」

「クラ、がんばる!」

 ご愁傷さま。

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