1 デェト
忙しない人の流れを目で追いながら、
辺りは一面、電飾が瞬いており、道行く人々はカップルばかり。ひとりぽつねんと佇むのは自分だけだ。まったくどうして、自分の居場所はない。そうだというのに、そんなクリスマス商店街の中心で肩を撫でているのだ。
(どうして……どうして、こうなった……!)
ことは前回の始末書企画の直後にまで遡る。
「レッスンって、具体的には何をしたらいいのかしら」
企画の終幕時、
「待って、なんでぶんちゃまが鳴ちゃんにレッスンすることになってんの? ぶんちゃまだって、活動したてのエスノで忙しいでしょ」
「芧さんからのご指名なのよ」
「……それじゃあ仕方ないけど。で、みーくん。何か考えがあるの?」
日向も芧も
「ナルはね、自信がないだけなんだよ」
ブックカフェの店内は、多様な観葉植物で埋め尽くされており、高い木の上ではフクロウが首を傾げていた。
「俺やヒナが元々ユニットを組んでいたこと、クラがジュニアでレッスンを重ねていたこと。全部知っているからこそ、卑屈さが極まってる」
「あー、まあ、そんな片鱗はあるよね」
「なっくん、気にしすぎなところあるものね」
「だからね」
フクロウの柄があしらわれたカップを口に運び、芧は口角を上げる。
「日向さんにその殻を叩き割ってほしい」
「殻を割る……? つまり、どういうこと?」
「みーくんの話を最後まで聞く!」
「陽向さんは今のでわかったの?」
目を逸らし、陽向はブラックコーヒーを飲み干した。
「みーくんの言葉は、最後まで聞かなきゃわかんないの。最後まで聞いても、わからないこともあるけど。そこをどう汲み取るかはボクたち次第」
「難易度高いわね……」
「ふふ。つまり、ね──」
芧からの提案に、日向が思わずカップを取り落としそうになる。クリスマスまでに打ち破ってほしい、そう付け足した芧の言葉に、空いた口が塞がらなかった。
「なっくん、お待たせ」
メリークリスマスフェスティバル、通称クリフェスの開催は聖夜とクリスマス当日に行われる。残すところあと2週間を切った。各ユニットが忙しなく準備に追われる中、鳴はスヌードの下で冷や汗を絶え間なく流していた。
「い、いや、待ってはないっすけど」
「あら、デートの待ち合わせとしては満点の回答ね」
「ヴッ……そのデートっての、どうにかならないんすか」
トレンチコートの下、タートルネックに小顔を埋め、寒さで赤らんだ顔を弛めた。
「あら、今は友達同士のお出掛けもデートというのよ」
「友達っていうか、おれたちは先輩後輩って感じだと思うんすけど……」
「細かいことは気にしない。さ、こんなところにずっといても冷えるだけだわ。さくっと用を済ませましょう」
「う、ウッス」
道行く人々の熱に促され、鳴はぎこちなく頷く。今日は美術部の買い出しに来たのだ。ただそれだけだが、ムードもあってなかなか居心地が悪い。先を歩く先輩の背を見つめ、聞こえないようにため息を吐き出した。
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