3.救援要請
「はあ、はあ……、何て強さだ……」
大勇者スライスは心からそう思った。
大魔王デラ=ツエーに関する依頼を受けやって来た異世界。結果として今、こうしてその大魔王に対峙している。
(勝たなくては、勝たなくては! 散って行った仲間の為にも!!)
スライスはこれまでずっと一緒に居た仲間を思い出した。
でもその仲間はもういない。
大魔王デラ=ツエーに辿り着くまでに一人またひとりと倒れ、仲間が紡いでくれたこの道の上に今自分が立っている。
スライスは剣を大魔王デラ=ツエーに突き付けて叫ぶ。
「この聖剣スライサーで、お前に印籠を渡す!!!」
大魔王デラ=ツエーはふっと笑って答える。
「聖剣? その程度で我に挑むとは笑止!」
スライスが技の詠唱に入る。
「48剣技がひとつ・1の
スライスは剣を水平に構えて一気に大魔王に斬りかかった。光速で剣を振りかざし突入するスライス。大魔王デラ=ツエーは右手を握って空中をドンと叩いた。
「デラ波紋!!」
ドオオオオオオオン!!!
大魔王に叩かれた空間がまるで波紋を打ったかのように激しく波立つ。体内に響くような重低音とともに、その無色透明の波紋が辺りに波及する。
ドン!!
「ぐあああ!!!!」
スライスはその見えない攻撃の前にあっけなく吹き飛ばされた。
「な、何だ、今のは? 響く重低音、そしてこの体を引きちぎるような衝撃」
スライスは体勢を立て直すと再び斬りかかった。大魔王デラ=ツエーも再び空間を叩く。
ドンドン!!!
「ぐあああ!!!!」
まったく同じであった。
空間を叩く大魔王。するとたったそれだけで近寄ることもできずに攻撃を受ける。スライスは全身が震えるのを感じた。続けて大魔王は拳を握り、今度は空間を殴って衝撃波をスライスに向けて撃って来た。
ドンドンドン!!!
「ぐわああ!!!!」
放たれる連続の衝撃波。
スライスはかわすこともできずそのすべてを全身に受けた。
気持ちで負けた。
最初の技を打った時点でその圧倒的な力差に気付いてしまった。自身がそれなりに強かっただけに。
「ぐはっ!」
吐血するスライス。対照的に余裕の表情の大魔王。スライスが尋ねる。
「お、お前は、何を求める?」
大魔王デラ=ツエーが答える。
「絶対的力による支配。全ての者が我に従い服従する世界」
「力による支配?」
デラ=ツエーが答える。
「その通り。絶対的な力。誰にも負けぬ力。我がその象徴になる。象徴として、いわば神として君臨する。……そこに争いはない」
「あ、争いがない世界……」
スライスは思った。
大勇者である自分が、全く歯が立たない大魔王。
今後彼を討てる勇者など現れるのだろうか。
ならば無駄な争いで命を落とすより、絶対的力に、その象徴に寄り添った方が結果として命を救うことになるのではないか。
スライスの身体は自然とその姿勢になっていた。
「この我を、スライスをあなたの配下に加えて下さい」
スライスは地面に頭を付けて大魔王デラ=ツエーに言った。
「い、いや、やめて……」
魔族に捕まり、そして服を剥ぎ取られそうになるイロカ。彼女の周りにはヨダレを垂らした魔族が集まっている。
「ぎゃはははっ、たまらんわ、こりゃ!!」
ドン!!!
「ぐはっ!!」
入口の方から急に大きな音がしたかと思うと、イロカを囲んだ魔族のひとりが急にその場に倒れた。よく見ると頭に扉がぶつかって失神している。
「だ、誰だ!?」
皆が入口の方を見る。入り口にはひとりの少年が立っていた。その少年が部屋に入って来て口を開く。
「へえ、中々色っぽいじゃん。イロカ」
「ユ、ユー君? どうして!?」
「勇技の覇気を感じた」
驚くイロカ。自分が発した勇技。ここからユータのいた場所まではかなりの距離があるはず。突如現れた少年に周りの魔族が怒り出す。
「な、何だお前は!!」
ユータが答える。
「俺か? 勇者だ」
そう言うとユータの姿が消える。驚く一同。すると今度はイロカが叫んだ。
「ちょ、ちょっと!!!」
皆が気付くと、いつの間にかユータはイロカの元までやってきており、そして肩に腹を当ててイロカをひょいと担ぎ出す。慌ててイロカが言う。
「ちょ、ちょっとお、パンツ見えちゃうでしょ!!!!」
ユータの肩に担がれたイロカが必死に破れた短いスカートを隠そうとする。しかし次の瞬間、ユータから伝わって来る計り知れぬ覇気を感じて体が縮こまった。
「48剣技がひとつ・25の
ユータはイロカを担いだまま持っていた木の剣を地面に叩きつけた。
ドーーーーーン!!!!
「ぐわあああああああ!!!!!!」
一瞬。
本当に一瞬の出来事。周囲に勇技を放ったユータの攻撃で、周りにいた魔族達が洞窟の壁に次々と飛ばされ叩きつけられた。
「ぐっ、ぐはっ!!」
「な、なんて威力……」
そしてそのすべての魔物が血を吐き、気を失って倒れた。魔物が動かなくなったことを確認するとユータがゆっくりとイロカを下ろす。
「あ、ありがとう……」
イロカは頬を赤くしてユータに言った。ユータが答える。
「いい顔だ。今のお前は魅力的だぞ!」
そう言って笑うユータに、イロカは自分の服がボロボロになっていることに気付き急いで隠そうとする。ユータは来ていたコートを脱いでイロカに投げる。そして言う。
「さあ、魔物も倒したし帰るか」
「ユ、ユー君……」
ユータの言葉を聞いてイロカが何か言おうとした時、【もしもしでんわ】が鳴った。電話を取り出すユータ。その発信者を見て顔つきが変わる。
「もしもし……」
ユータが電話を受ける。それは一番聞き慣れた声で、一番聞きたくない事態を告げるものであった。
「ユ、ユータ……、勇者本部が、襲われて……、ごめん、みんな、倒れちゃって……、もう動けなくて……、助けて、ユータ…………」
「レ、レナああああああああああ!!!!!!!」
イロカはいつだって、敵に囲まれても余裕の表情だったユータが、初めて見せたその本気の顔に背筋が凍るような気迫を感じた。
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