第八章「ツエツエ王国」

1.ツエツエの者たち

「ユ、ユータ君!!」


ユータは【もしもしでんわ】でリリアに呼ばれて勇者派遣本部にやって来た。



「何だよ、急ぎの用って」


ユータは眠そうな顔をして言う。リリアが答える。


「緊急依頼よ、緊急!!」


「緊急?」


「そうだぞ、ユータ!」



ユータがその声に気付いて振り向くと、髪の毛がイガグリの様に逆立った男がいた。


「お、お前は……」


ユータがその姿を見て言う。


「久しぶりだな、ユータ」


「誰だ?」


「……言うと思ったぞ」


少し笑ってからリリアが言う。



「ユータ君、同期のゴバック君でしょ? 忘れたの?」


「ゴバック?」


「ああ、そうだ。今回一緒に派遣されることになった」


ユータはどうしてもその男を思い出せなかったが、それよりも緊急依頼の方が気になってリリアに尋ねる。



「で、リリア。その緊急依頼ってのはなんだ?」


リリアが手にした資料をもって話す。



「うん、【ツエツエ王国】ってところなんだけど、大魔王デラ=ツエーの幹部である魔王コリャ=ツエーの襲来を受けて大変なことになってるの!」


「大魔王デラ=ツエー……、って誰だっけ?」


「おい!」


ゴバックが突っ込む。


「俺達勇者の最大にして最強の敵の魔王じゃねえか。あれだけ勇者基礎学で勉強したのに何で覚えてねえんだよ」


呆れた顔をするゴバック。ユータが言う。



「ああ、そうだった。で、そいつの手下が暴れてるんだな?」


「そうよ」


ユータが頷く。


「で、今回は二人での共同作戦。向こうも勇者を集めて対応しているそうなんで、協力して戦ってね」


そう言うとリリアは依頼指示書を渡す。そして言う。


「そうそう、ユータ君、おめでとう!」


リリアがニコッと笑って言う。



「何が、まあ昇級か?」


「そうだよ」


「まあ、今のよく覚えきれない名前をおさらばできるんで多少は嬉しいかな。で、次は何なんだ?」


「なんと、【中級勇者】だよ!!」


「えっ……」


唖然とするユータ。リリアが尋ねる。



「何? 嬉しくないの?」


「いや、嬉しい。いいのか、そんな普通で?」


「ユータ君の頑張りの成果だよ。もう少しで上級勇者、頑張れ。婿への道!!」


バキバキバキ!!

どこかで何かが激しく破壊される音が響いた。


「よ、良かったな、ユータ」


ゴバックも喜ぶ。ユータは返事をして喜ぶ。

そしてふたりは支度をしてから異世界へ飛び込んだ。






「これは……!?」


二人の勇者が【ツエツエ王国】に到着する。そして目の前に広がる街の様子を見て驚いた。


「酷いな……」


街の至る所が破壊されており、多くの店が閉じられている。歩く人々の表情も暗く活気もない。既に魔王軍の攻撃を受けている様であった。

ユータは道の端で泣いている少年を見つけて声を掛けた。



「どうしたんだ?」


少年は目を赤くして涙を流している。そして言う。


「父ちゃんが、父ちゃんが魔王城に行って帰ってこないだよ……」


「魔王城?」


「うん、父ちゃんは勇者なんだけど、魔王城に行ったきりずっと帰ってこないんだよ……」



少年は再び涙を流す。ユータが言う。


「大丈夫だ、少年よ。実は俺も勇者だ。オヤジさんはきっと帰ってくる。勇者は負けない。信じて待つんだ」


少年は涙を拭きながらユータの顔を見る。


「ほんと?」


「ああ、本当だ」


ユータはそう言って少年の頭を撫でると招集場所であるツエツエ城へ向かって歩き出した。




「よく集まってくれた、戦歴の勇者達よ」


王の間に通されたユータとゴバック。そこには数名の勇者らしき人物が並んでいる。王が話を続ける。


「周知の通り我が国は魔王コリャ=ツエーとその配下によって甚大な被害を受けておる。街や王城、そして罪のない民が犠牲となってしまった」


一同に緊張が走る。



「現在先遣隊として各地の勇者を集めて魔王城攻略に向かわせていたのじゃが、途中から通信も途絶えどうなったかは誰も分からぬ」


王の表情が暗くなる。


「そこで、今回最強の勇者を招集しようと皆に集まって貰った」


王が皆の顔を眺める。集められた勇者はユータ達を入れて五名。王が紹介を始める。



「まずケルファ、ミルファ姉妹! ケルファ殿はその細身にもかかわらず圧倒的な力で敵を薙ぎ倒し、ミルファ殿は強い魔法と共に回復もできる高位魔導士!!」


二人の美人姉妹。姉のケルファは妹のミルファを見るとフンという顔をして横を向いた。

ケルファは浅黒い肌が特徴的な女性。細身だが引き締まった全く無駄のない体。武器を持たず素手で戦うタイプようだ。

対照的に妹のミルファは絹のような真っ白い肌が美しい女性。しかし発せられる魔力は勇者と呼ばれるだけのことはある。



「……どうでもいいが、何で二人ともビキニなんだ?」


ぼそっと発したユータの言葉に一同静まり返る。慌ててゴバックが言う。


「いいじぇねえか、俺は大好きだぜ。ビキニ!!!」


王は軽く咳をついてから続ける。



「そして今回は我が国最強の男、勇者ソレナリ殿にも参戦頂いた」


「勇者それなり?」


ユータとゴバックは顔を見合わせる。ソレナリが言う。



「王からの緊急要請に応じ馳せ参じました。このソレナリが参ったからにはご安心を。そのふざけた名前の魔王を一刀両断にして見せましょう」


ソレナリは腰に付けた剣を掲げながら皆に言った。


(ふざけた名前ならお前も負けてないぞ……)



ユータは内心思った。王が言う。


「ソレナリ殿、参戦感謝する。今回は国の一大時。褒美は金でも名声でも女でも好きなだけ取らせる。よろしく頼むぞ」


「ご安心を。報酬は好きなだけ頂きましょう」


「ソレナリ様……」


それを聞いていた美人姉妹が目を輝かせて言いう。しかしユータ達は少々不安になって来る。王がついでに言う。



「あ、そうそう。今回は派遣の勇者にも来て貰っている。恐らくソレナリ殿の補助になると思うが、皆宜しくな」


「ほ、補助か? 俺達……」


ゴバックが情けない声で言った。ユータ達の紹介を手短に終えると王は今回の依頼内容を皆に話し始める。



「ごほん。では今回の仕事について話をしよう。一番は魔王コリャ=ツエーとその配下の討伐。そして魔王城の制圧に音信不通の勇者達の救助、並びに先日奪われた国宝『王者の剣』の奪還である」


説明を聞き頷く一同。そして王が続ける。



「では任務遂行の為にこれより『力測定』を行う」


「力測定?」


聞き慣れない言葉にユータ達が不思議な顔をする。それに気付いた王の側近が答える。


「我々【ツエツエ王国】は力こそ正義であり、強さこそ至高であります。そしてその強さを測る機械がこちらです」


そう言って配下の者が古い体重計のようなものを運んで来た。四角い台に背丈ほどの棒があり、その先には丸いメーターが付いている。

それを見たソレナリは来ていたコートを脱ぎだす。それより先にケルファが動く。



「じゃあ、俺からな!!! はあっ!!!!!」


ドン!!


ケルファはそう言うと思いきりその台を殴りつけた。ぐるぐると回る測定器。そして針は1万2千の数値を指して止まった。

驚く周りの人達。ユータ達はよく意味が分からない。続いて妹のミルファが台を殴る。



ドン!!


ミルファは持っていた杖を魔力で光らせて台を殴った。測定器は同じくぐるぐると回ると六千五百の数値を指す。それを見たケルファが大声で言う。


「けっ、クソ弱い。そんなで勇者何て笑わせるなよ!!」


「ね、姉さん……」


妹のミルファを馬鹿にする姉ケルファ。ミルファは暗い顔をする。それを見た勇者ソレナリが前に立つ。



「まあまあ、次は私の番かね」


そう言って剣を振りかざす。明らかに変わる姉妹の態度。そしてソレナリが剣で台を殴った。


「はあああ!!!」


ドン!!


計測器はぐるぐると回り、三万八千の数値を指した。驚きと共に歓喜の声が上がる。


「ソレナリ様ーーーっ!!!」

「凄い、これで勝利は確実!!!」


皆が騒ぎ出しもはや戦勝会の雰囲気ですらある。皆に手を上げその声援に応えるソレナリ。それを見ながらゴバックも台を殴った。



ドン!!


数値は一万三千。姉のケルファよりも少し高いぐらいである。周りはそれでも驚いたがゴバックは不満そうな顔をする。そして最後にユータがその台に前に立って殴った。



ドーーーン!!!!


これまでとは比べ物にならない程の音に振動が起きる。一瞬何が起きたか分からない一同。しかし計測器の針は微動たりもしなかった。それを見たソレナリが言う。



「何だ君は? それで勇者を名乗っているのか? 怪我しないうちにおうちへ帰ったらどうだい?」


ソレナリは見下した目でユータに言う。クスクスと周りから起こる冷笑。ゴバックは納得が行かなく震えている。その時ユータの【もしもしでんわ】が鳴った。


「あれ? 誰だ? ちょっと悪い……」


席を外すユータ。王が説明を続ける。



「ええっと、それから当然だが勇者の飲酒は厳禁なのでくれぐれも気を付けるように。現在は非常事態中。泥酔などもってのほかじゃぞ」


頷く一同。ユータが電話を終え帰ってくる。


「それでは解散。明日からよろしく頼む」


そう言って説明会は終わった。





ひとり城を出るユータ。ゴバックは疲れたと言って城内の寝室へ休みに行ってしまった。城を出ると先程の少年がいた。


「あ、勇者のお兄ちゃん!」


ユータを見つけて駆け寄ってくる少年。そして言う。


「お兄ちゃん、本当に勇者なんだね。お城に呼ばれるなんて凄い! 父ちゃんと同じだ!」



ユータが言う。


「なあ、お前の父ちゃんって何ていう名前だ?」


「マサルだよ。勇者マサル。片目の勇者」


「片目のマサル、ね。分かった」


「僕はイツキ。お兄ちゃん、絶対父ちゃん見つけてきてね!!」


そう言うとイツキは手を振って去って行った。ユータはイツキに手を振ると、いつも通りに夜の街へ向かった。

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