Re:派遣勇者 ~最凶魔王が新米勇者に転生し無双して異世界平和を守るのだが最後は何故か女の子に殴られるお話~
サイトウ純蒼
序章「最強勇者誕生!!」
1.「最強勇者ユータ」誕生!
「はああああ!!!!」
「グオオオオオオ!!!!」
世界最強と称えられた勇者。世界最凶と恐れられた魔王。その両者がお互いのプライドをかけてぶつかり合った。
「負けぬぞおおおお!!!」
「グオワアアアア!!!!」
そしてその死闘が始まりすでに数か月。
お互いの仲間もほぼ戦闘不能に陥り、実力拮抗であった最強勇者と最凶魔王の一騎打ちが永遠と続いていた。
命を賭けた激しい戦い。しかし勇者のある一言で終止符が打たれることとなる。
「なあ、魔王。もうこんな戦い止めないか」
「なに?」
驚く魔王に勇者が言う。
「お前が無暗に暴れないと約束するのならば、俺も手を引こう」
魔王が答える。
「ではお前達も、無暗に魔物を殺さないというならば考えてやる」
こうして最強勇者と最凶魔王との長き戦は終わった。
そして魔王は勇者と交わした『お互いで平和な世を作る』という約束を胸に、それからの長き人生を送ることとなる。
それから数百年もの間、この二人の約束のお陰もあり世の中は平和が守られてきた。皆が笑い合い、無暗な殺し合いがない世界。人々は平和を享受した。
しかし時が流れ最強勇者も天寿を全うしていなくなり、そしてたった一人平和の為に奮闘してきた最凶魔王もその命の灯が消えかかっていた。
「おじいちゃん!!」
魔王はたくさんの子供や孫達に囲まれて『平和』というものの尊さをこの数百年感じてきた。
しかしながら魔王が病の為に床に臥せたとの話が広まると、それを待っていたかのように魔王もどきの輩が次々と降って湧いて来た。
先がないと悟った最凶魔王は残った全魔力を使い転生し、生まれ変わることを決意する。
――平和を守り抜く
魔王は勇者との約束、そしてかけがえのない平和を守るため危険な転生の術に挑んだ。
術によって薄くなる意識。その中で最凶魔王の脳裏にあるひとつの名前が浮かんだ。
――勇者、ユータ……
「……んんっ、なんか変な夢見たなあ。最凶勇者だっけ? まあいいや、……あっ!! やっべえ、遅刻だよ。今日は卒園式じゃん!!!!」
ユータは目覚めるとすぐに支度をして、卒園式会場へと向かった。
「……で、あるからして、君ら新米勇者はこれから名を上げ、いずれは『大魔王デラ=ツエー』を倒して……」
「……なあ、どうしてこう学園長の話って長いんだろうな」
卒園式。学園長の長い話に退屈したユータはひとりつぶやいた。
「しっ! 聞こえるわよ」
隣に座るレナが口に指を当てユータをたしなめる。ユータは大きな
「……で、あるからして、今回、君ら新米勇者に学園から【ささやかな餞別】がある」
学園長はそう言うと手を二回叩いた。
舞台脇から職員が慌ただしくやって来る。その手には実に見事な装飾が施された剣と盾がある。
「君ら諸君にはこの【勇者の剣】と【勇者の盾】をプレゼントしよう。学園オリジナルだ」
「おおーーーー!!!」
皆から歓声が上がる。拍手が沸き起こる。
「学園長!! その武具の能力はどれぐらいでしょうか? 第一級装備品と考えて宜しいでしょうか」
一番前に座っていた真面目そうな生徒が質問する。学園長が答える。
「うむ、いい質問だ。これはな、おおよそ木の
「……えっ!?」
一同静寂に包まれる。
「まあ、この経営難の中、全員に渡すとすればこの辺りが限界。だから【ささやかな餞別】と言っただろ?」
会場からブーイングが起こる。
「あのタヌキ。やはり最後までタヌキだな」
ユータが腕組みをしながら言う。レナは笑顔でその光景を見ていた。
その時であった。
ドーーーーーン!!!
会場の外から突如大きな破壊音が聞こえてきた。
「何だ、何だっ!?」
一瞬にして騒がしくなる会場内。動揺する生徒達。そこへ外にいた若い教員が青い顔をして走って来た。そして大声で叫ぶ。
「み、みんな、すぐに避難を!! 捕えていた魔王ゴンザレスが逃げて暴れている!!!」
それを聞いた一同の顔が引きつる。
魔王ゴンザレスと言えば数ある魔王の中でも名の知れた大物。先日大勇者によってようやく捕獲されたばかりの魔王であった。
それを聞いた教員達が急ぎ生徒の避難を誘導し始める。レナが言う。
「ユ、ユータ、早く逃げましょ!!!」
ユータが答える。
「何でだ?」
「何でって、危ない魔王がいるんだよ、早く!!!」
ユータが言う。
「勇者が逃げてどうする? ちょっと見てくる」
「あ、ユータ!!」
ユータはレナにそう言い残すと、皆とは逆の方向へ向かって走って行った。
「ガハハハッ!! よくも俺様をあんな狭い所に閉じ込めたな、これから思い知れ!!」
ユータが外に出て爆発のあった場所まで走っていくと、そこにはユータの数倍もあるような大きな魔王が立って暴れていた。引き締まった筋肉に、他者を圧倒するような迫力。そして顔には怪しげなマスクをかぶっている。
「と、捕えろ!!!」
周りには駆け付けた数名の教員と、すでに異世界で活躍している先輩勇者が対峙している。そして魔王を前に震えながら、奇声を上げて教員達が持っていた剣で斬りかかった。
「キョ、キョエエエエ!!!!」
その突撃を見たユータは、何かのイベントかと思い始めた。
ドン!!
「ぐわあああ!!!」
案の定簡単に吹き飛ばされる教員。そしてそれを素早く助ける先輩勇者達。
そしてその中の数名の勇者が余裕の笑みを浮かべて魔王に言った。
「おい、ゴンザレス。痛い目に遭いたくなかったら大人しく捕まれ」
魔王ゴンザレスが答える。
「お前達、何も分かっていないようだな……」
「な、何をっ!!!」
その声と同時に大声を上げて斬りかかる先輩勇者達。魔王ゴンザレスは一瞬にっと笑った。
ドーーン!!!
「ぐわあああああ!!!!」
魔王の放った衝撃波で一瞬にして勇者達は吹き飛ばされた。
ある者は壁に叩きつけられ、ある者はその衝撃で全身の骨を砕かれ、そしてまたある者は叩きつけられた地面で失禁して気を失った。周りにいた一同の中から絶望の声が上がり始める。
「な、なんて強さだ、こんなの誰も敵わねえ!!」
「こんな時に限って、大勇者達はみな出払い中……」
魔王ゴンザレスが建物の壁をドンと思いきり叩いて大声で叫ぶ。
「この俺様を捕えようなど百年早いわ!! すべて壊して、お前ら皆殺しだ!!!!」
「ひ、ひええええ」
周りから絶望の悲鳴が上がる。
しかしユータは魔王ゴンザレスが初めて放った本気の殺意を感じ取り、これが卒園式のイベントではないとようやく理解した。
ユータが皆の前に歩く。それに気付いた教員が震えながら言う。
「き、君は誰だ? 危ないからこ、こっちに来なさい!!!」
ユータが答える。
「俺か? 俺は確か、第72期の卒園生だ」
「だ、第72期って、今卒園式やってる生徒じゃないか!!」
ユータは軽くそうだよ、と答えた魔王ゴンザレスに向き合った。魔王が言う。
「何だ、チビ。死にたいのか?」
ユータが尋ねる。
「お前、逃げて何をする?」
「逃げて? ふふっ、そうだな。まずお前みたいな生意気なガキをぶっ殺す。そしてすべて破壊だ。皆殺しだあああ!!!」
突如発せられる魔王からの強い威嚇。それを感じた周りの人達はあまりの恐ろしさゆえに皆が我先にと逃げ出した。ひとり残されたユータが言う。
「皆殺しだと? 分かった。じゃあ、手加減は要らないな」
「何だとっ!?」
魔王ゴンザレスはその言葉を聞いて一瞬、笑った。
しかし次の瞬間、その視界からユータの姿は消え、そして同時に腹部に強烈な鈍痛が走った。
ドン!
「ぐ、ふっ……」
痛覚より、その鈍い音が遅れて聞こえた。
魔王ゴンザレスはこれまでに経験したことのない激痛に、声も上げられずその場にうずくまる。隣にはユータが立つ。
ドン!
さらにユータはうずくまる魔王ゴンザレスの背中を、右手を手刀のようにして叩きつけた。
「ぐはっ!!!」
その勢いで完全に叩きつけられる魔王ゴンザレス。痛みと恐怖で全身が震え始める。そして恐る恐る顔を上げ、そこに立つユータに言う。
「お、お前は、誰……?」
ユータが答える。
「俺はユータだ。お前が無暗に平和を乱すのならば、俺がお前を容赦無く潰す。分かったか!!」
魔王ゴンザレスはユータの心臓を刺すような眼を見て心底震えた。体こそ大きくないが、そこから放たれる覇気は別次元のものであった。本能的に勝てないと感じた。
全身の震えを抑え、命乞いをするように弱々しく答えた。
「は、はい……、もう二度としません……」
そのまま魔王は気を失った。
ふうと息を吐くユータ。そして卒園式をやっていたことを思い出し、ひとり会場へ戻ることにした。
「あれ、誰もいないぞ」
ユータは避難して誰もいなくなった会場でひとり立ちつくした。静まり返る会場。倒れる椅子。避難当時の混乱ぶりがよくわかる。そして後ろからユータを呼ぶ声が聞こえた。
「ユ、ユータあああ!!!!」
振り返るとレナが泣きそうな顔をして走ってくる。ユータが笑顔で言う。
「ああ、レナ、よかっ……」
バーーン!!!!
「痛ってええええ!!!!」
レナはユータに走ってくると、思いきりその顔を殴りつけた。そして怒鳴って言う。
「あなた何やってるのよ!! 台風時の用水路と、暴れる魔王は見に行っちゃうダメでしょ!! 私、ずっと探してたんだから!! さ、避難するよ!!」
「え、えっ!?」
唖然とするユータをレナは強引に引っ張って会場を後にした。
ユータが倒した記念すべき魔王第一号。
そしてこの日が、『最強勇者ユータ誕生の日』として後世まで語り継がれていく日となるのであった。
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