第12話 学園教師と模擬戦準備

 昼食を食べてから、しばらくして。


「ランベルト様、ヴォルゼフォリン様。いらっしゃいますでしょうか?」


 ランベルトがドアにある小窓を見て、確かめる。フレイアだ。


「はい、何でしょう」

「お休みのところ失礼します。お二方にお話がありますので、ご足労いただきたいのです」

「わかりました」

「入学に関する話か?」


 ヴォルゼフォリンが何の気なしに放った質問に、フレイアはこくりとうなずく。


「はい。教官の一人が『ランベルト君の実力を見たい』とのことですので」

「ならば見せつけてやるか。ランベルト、よろしく頼む」

「うん……! やってみせるよ、ヴォルゼフォリン!」


 話がまとまったところで、フレイアは教官のいる場所まで案内し始めた。


     ***


「着きました。少しお待ちを」


 フレイアは二人を待機させてから、扉をノックする。


「失礼します。お二人を連れてきました」

「入ってくれ」


 中にいる人物の許しを得てから、フレイアは扉を開ける。


「さあ、どうぞ」


 ランベルトはおそるおそる、先に入った。


「失礼します」

「よく来たな。きみがランベルトくんか」


 待っていたのは、いかにも武技に秀でているといった体躯の金髪の男だった。服を着ていてもわかるよく鍛えられた体を、見せつけるように立っている。


「さて、私がランベルトの保護者であるヴォルゼフォリンだ。話があると聞いて来たのだが」

「もちろんだとも、ヴォルゼフォリンさん。おっと、自己紹介がまだだった。私はアラン・マクブライド。ディーン・メルヴィス学園の実技教官を担当している。よろしく頼む」

「よろしくお願いします」

「こちらもだ。よろしく」


 簡単な挨拶を終えると、すぐさまアランは本題に入る。


「単刀直入に言おう。私はランベルト君との、一対一でのアントリーバーによる対決を望む。これは君への入学試験……とでも言おうか」


 アランはすでに、フレイアによって話を聞いていた。

 ランベルトは、当然の回答を出す。


「もちろんです。ただ……」

「ランベルトの乗る機体は、いささか特別でな。通常のアントリーバーでは、力不足かもしれんぞ」


 ヴォルゼフォリンがタイミングを見て、会話に割り込む。

 と、アランの目に闘志が宿ったのを、ヴォルゼフォリンは見逃さなかった。


「私が駆るアントリーバーでは力不足、か。面白い……なおのこと、戦ってみたくなったな」

「始めるか? アランとやら」

「ああ、今すぐにでも戦うとしようか」

「話が早いな」

「回りくどいことは嫌いな性格なものでな」

「面白い」


 こうして、正式に模擬戦を行うことが決定した。

 ランベルトとヴォルゼフォリンはフレイアの案内で、学園の格納庫まで向かう。アントリーバー戦用のスタジアムに直結していた。


「それなりに高いな。私でも問題なく歩けそうだ」

「ヴォルゼフォリン様、門の全高は20mメートルございます」

「ならばこの場でランベルトを乗せても、大丈夫そうだな」


 ヴォルゼフォリンの全高は、18.5mメートルだ。問題なくくぐり抜けられる。


「うん。けど、緊張してきたよ……ヴォルゼフォリン」


 模擬戦とはいえ戦いを前にして、ランベルトの腕が震えだす。

 ヴォルゼフォリンはランベルトを抱きしめると、耳元でささやいた。


「それは自然な反応だ。お前が朝起きて、男性特有の生理現象を起こすくらいにはな」

「ッ……こんなときに、また恥ずかしがらせないでよぉ」


 ランベルトは場違いと思えるヴォルゼフォリンの言葉に、顔を真っ赤にする。


「だから無理に抵抗するな。自然に起こることを無理に封じ込めようとするな。『緊張している』、そう思う自分自身を受け入れろ。その上でどう振る舞うか、それが私に乗っていた者たちのこなしていたことだ」

「う……うん!」


 ランベルトは言われた通り、イメージを浮かべる。


(僕は緊張してる……けど、それは悪いことじゃない。ヴォルゼフォリンの言う通り、それは自然なことなんだ。とっても緊張してるけど、それでも勝つんだ!)


 腕の震えはまだ止まらないものの、ランベルトの心から迷いが晴れだす。


「そうだ、その意気だ。心をあくまでも目標に向けて、進め」

「うん! ありがとう、ヴォルゼフォリン!」

「当然のことをしたまでだ。では、勝つぞ。乗れ。フレイア、離れていろ」

「は、はい」


 フレイアが少しずつ、ヴォルゼフォリンから距離を取る。

 十分に離れたタイミングで、ヴォルゼフォリンは人の姿から巨大人型兵器の姿へと変化した。


「これでよし。ランベルト、命令しろ」

「うん。乗せて、ヴォルゼフォリン」


 ランベルトがそう告げた、次の瞬間。光が体を包み、ヴォルゼフォリンの胸の中へ収められていく。


「よし、ここから先はお前の命令を受けよう。実際に戦うのは私だが、魔力と戦う意思を与えるのはお前の大事な役割だ、ランベルト。果たしてくれよ?」

「もちろん! ちゃんと向き合って、勝つよ!」

「その意気だ。では、行くぞ」


 ヴォルゼフォリンは足を前に進め、スタジアムに入る。

 中にはすでに、茶色い無骨な機体が待ち構えていた。


「その銀のアントリーバーが、ランベルト君の機体か」

「まさしく。そして名前を、ヴォルゼフォリンという」

「その声……まさか、ヴォルゼフォリンさんか!?」

「そうだ。私は意思を持ち、言葉を発することができる。見た目こそアントリーバーと似ているが、実際はだいぶ違うと思え」


 その言葉を聞いて、アランが闘志をさらに燃やす。


「つまり、ヴォルゼフォリンさん……あんたは、めちゃくちゃつえぇってワケだ」

「その通り」


 ヴォルゼフォリンが肯定すると、アランのアントリーバーが独特の武器を構える。ライフル銃に両刃の斧が取り付けられたような形状だ。


「なら……私とこの“シヴェヌス・ドゥオ”が、全力で戦わせてもらわねぇとな!」

「ああ、そうでなくては戦う甲斐かいもない。私も同様に、力を尽くそう」


 ヴォルゼフォリンもまた、両腰に装備した剣のつかを、自らの両手に取る。

 そして、光の刃を形成した。


「これで、お互い準備は整ったわけだ。だが、一つ気になることがある」

「何だ?」

「合図はどうする?」

「私が行いましょう」


 ランベルトが足元を見ると、フレイアが拡声器を構えていた。すぐに退避できるよう、格納庫近くで待っていたのだ。


「準備がいいな。では、任せるとしよう」

「好きな時に合図を出してくれ。それが済んだら、すぐ離れろ」

「はい。では……」


 濃密な時間が、ランベルト、ヴォルゼフォリン、そしてアランの三者の中で渦巻きだす。いつ解き放たれてもおかしくはない、飢えた猛獣の如き闘志を宿していた。

 わずか数秒の実時間が、しかし三人には何倍にも何十倍にも感じられる。


 そして、時は来た。


「始め!!」


 フレイアの合図で、三人の闘志は解放される。


「行くよ、ヴォルゼフォリン!」

「ああ!」




 ヴォルゼフォリンは猛然と、目の前にいる標的相手目掛けて駆け出したのであった。

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