第11話 名門校のませたガキ


 今日は痴漢を必ず突き止めると決めて電車に乗った。


 怖い反面はんめん随分ずいぶんと興奮しているのは事実だ。昨日きのう、パミュが言った言葉を思い出す。


「ちゃんとませて、痴漢が安心した時に、その手をつかまなんとたい」

 

 パミュの言葉を何度も繰り返しながら、時が過ぎるのを待った。


 そろそろ痴漢が出没する場所に近づいてくる。


 なんだか目に付く中年おやじは、みんな痴漢のように見えてくる。


「あのおっさんも、あのおっさんも、私のお尻をねらっていそうな顔している」


 見れば見る程、疑い始めると、もう日本中全部の中年オヤジから狙われているような錯覚さっかくおちいってくる。


 そんな非現実的ひげんじつてきな事を考えていた時に、ソフトなタッチで、

 「じわっ」とした感覚がお尻にしみてくる。


「あっ、来た」


 琴音は心の中でさけぶ。


 釣竿つりざおが一度「ピクッ」と引くのを思い浮かべた。


「まだまだ」とささやいて深呼吸をする。


 一度手は尻から離れる。


「おっ、今日はえさが気に入らんかった?」


 少し尻をあらわに突き出してみた。


 またジワジワとさわり始める。


「やっぱり引っかかってきた」


 変なうれしさがこみあげてくる。


「後は待つだけだ」


 言うのも変だが痴漢との駆け引きを楽しんでいる。


「確かにパミュの言った事はいち有りかも」と思いながら、小さい時に父さんと魚釣りに行った時の、釣りの楽しさがよみがえって来た。


「琴音、そこで引いたら、いつまで経っても魚は釣れんぞ。

 ピクピクするのは、ただえさをつついとるだけやけんね。

 もうちょっと待っとったら、グッと引き始めるけん、

 一度じゃなくて、二度か三度ググッと来た時に、ちから一杯いっぱい引かんと」

 

 父さんの言葉が、昨日きのうのように思い出された。


「もうすぐしたら、また『ピクッ』と竿さおがしなるぞ」と思っていると、やはり痴漢の手の圧力が少しだけだが強くなった。


「昨日はここで振り向いたから逃げられたんだ。

 今日はゆっくりと構えておこう。

 ちょっと、お尻をってみたら、向こうもさそわれてくるかも?」

 と思って、ゆっくりと左右にってみる。


 おっさんの手は自信を持ったように動き始める。


「こいつ、大胆になってきたぞ。あと少し、あと少しで釣れるぞ!」

 

 尻に全神経を集中させる。


「後はみ始めるのを待つだけだ」と思いながら時を待つ。


 慣れ始めた手は、これがわなとは知らずに、少しずつ尻をみ始める。


「待ってました」と言わんばかりの笑顔がれ始めた。


「こんなの楽しんで、もしかして、わたし変態?」


 自分自身をせせら笑った時、チャンスは来た。


 おっさんの手が、「ガツッ」と尻をつかんだ。


「今だ!」

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