第一話
生前はまっていたゲーム『天下再生』とは
日本、中国、ヨーロッパに近い3つの国の文化がはちゃめちゃに混じり合っている、三洋大陸を舞台に仲間達と共に荒れ果てていた地域を平定して天下統一を目指す、シミュレーションゲーム。
主人公は武の才は持っていた平民の女の子。彼女は国の建て直しを図ろうとしていた第三皇子と出逢ったことで人生が一変。普段は持ち前の明るさと気立てのよさで仲間を支え、戦場では天賦の才を存分に発揮して、味方を導き勝利をもたらす。平定し、自分達の陣営の領地となった地域の発展もそつなくこなせる、万能型の将軍に成長していく。
その主人公に、仲間以外で力を貸してくれる存在が四大名家。この四家は数百年前の戦争で多大な功をあげ、皇帝から特別な地位と名誉を与えられている。四大名家にはそれぞれに得意な分野がある。
土野家は内政、外交。
火野家は様々な武具の扱いや調達。
水野家は知性と水を読む力。
風野家は感性と風を読む力。
加えて本家の者であればその力そのものを操ることもできる。
土野家は大地と木々、火野家は炎、水野家は水、風野家は風に。
彼らの持つ力は強大だからこそ、当時の皇帝は受け入れることを選んだ。四大名家も皇族に永遠の忠誠を誓い、国の発展に協力する。
もしいずれかの一家が反乱を企てた時は残りの三家がその力を持って反逆者を押さえ込むことになっている。そして家名は皇帝に返上され、将来的に再び賜るまでその名を名乗ることは赦されない。
四大名家は先祖古来の土地に居を構えている。その中でも王都に居を構えているのは土野家のみ。
…疲れた。ゲームの世界観を整理するのに時間がかかる上に疲労感がすごい…。
赤ちゃんってお腹空いたー、おしめ替えてーって叫んでいる以外はほとんど寝ているからちょっと楽かもって思っていたけど逆に未熟すぎて楽じゃない。自我がある分、羞恥心もすごいし…。特におしめ。あれはもう……羞恥心で死ねるレベルだよ、うん。
「眉間に皺が寄っているな。また嫌なことがあったのか?そんな時はな、笑うのが一番だ!ほら、いくぞ、せーの…はっはっは!!」
「だから、父上。明藍はまだわかんないですって。お乳はさっき母上がやっていたし、おしめかな?」
視界が鮮明だったら高笑いしているお父さんの顔がいっぱいに広がっているのだろうけれど、今はものすごくぼんやりとしか見えない。というか、ほぼ見えない。
お父さん、いい加減お母さん達のお話をちゃんと聞いてください。
高笑いするお父さんを放置してお兄ちゃんは私の全身を手で触ったり匂いを嗅いだりして確認する。
違うのですよ、お兄ちゃん!私はただ現状を把握したくて考えすぎて疲れただけで…わーん、そんなところの匂いを嗅がないでー!!…ああ、早く悟りの境地を開きたい…。無でやり過ごしたい…。
私が内心で羞恥心に悶えているとは露とも思っていない(本人は善意でしているから余計に)お兄ちゃんは「違うみたい」と首を傾げている。隣室でお仕事をしているお母さんを呼びに行きそうなお兄ちゃんを引き留めるため、私は抱っこを要求することにした。お兄ちゃんがいるだろう方向に向かって小さくて短い両腕を精一杯伸ばす。
「そうか、そうか!抱っこしてほしかったのか!ほーら、高い高―い」
「父上、もう少しそっと扱ってあげないと!勢いつけすぎです!」
「すまん、すまん。ほーら、たかいたかーい」
何故にお父さん!?
私を心配してくれたお兄ちゃんではなく、高笑いしていたお父さんが私を抱き上げ、そのまま持ち上げる。
高い高いはいいけれど、ぼやけた視界では流石に少し怖くなった。だって全然見えないし。
私の顔が強ばっていることに気づいたお兄ちゃんが声をかけるとお父さんの動きが少し緩やかになった。
さすがお兄ちゃん!うん、今ぐらいならちょっと楽しい!
「本当に明藍は可愛いなー。丈成もそう思うだろう」
「はい。とても可愛いです」
「ほら、お前の番だ。しっかり抱っこしてあげなさい」
「は、はい!あ、一昨日よりも少し重くなっている…」
「そうだろう?子どもの成長はお前が思っているよりもずっと早い。だからお前が守ってやる日もそう遠くないだろう。丈成、うかうかしている暇はないぞ。しっかり妹を守れるよう、努力し続けろ。それが兄の責務だ」
「は、はい!」
「いい返事だ」
お父さん…!ちゃらんぽらんな人だと思ったけど、意外にしっかりしていた!さすが、四大名家の現当主様!やるときはやる人!
お父さんに頭を撫でられているみたいで若干揺れるお兄ちゃんの腕の中で拍手には至らないけれど両手を精一杯伸ばして拍手しようと頑張る。
あ、ちょっと腕痛くなってきた。うう、未熟…。
するとノックの音が聞こえてきて入室の挨拶と共に誰かが入ってきた。
「失礼します。旦那様、奥様が帳簿の計算が合わないのですぐに来てほしいとのことです」
「……」
「旦那様、お早く」
「ではな、2人とも。仲良く遊ぶんだぞー」
「旦那様!どこへ行かれるのですか!旦那様!」
「…お前はああなっちゃ駄目だぞ、明藍」
なりませんよ、お兄ちゃん。はぁ、前言撤回しよう。やるときはやる人じゃなくて、時偶やる人だね、うん。
急ぐ足音と執事さんがお父さんを呼ぶ声が遠ざかっていき、代わりにお兄ちゃんの大きなため息が聞こえる中、私は静かに考えを改めた。
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