四大元素を司る神の一人の加護を受ける神子に転生した私は愛する者達の死亡エンドを回避したい

翠宝玉

赤ん坊からやり直しです。ゲームの記憶を覚え続けることを筆頭にできないことは多いけど、今の私でもできることを頑張ります!

プロローグ

ごく普通の社会人として日々を暮らしていた私は明日で26歳の誕生日を迎える。そして誕生日前日の今日、会社を退職――いいや、クビになるといういらないプレゼントをもらった。私を嫌っていた上司があの手この手を尽くしたせいで退職せざるをえなかった。


(あんな人の下で働くなんて願い下げだったからちょうどいいけど、誕生日前日に職を失うって気分は落ち込むなぁ…。まあ、いいけど)


結局どっちだよ。と自分自身でツッコミをいれながら帰宅の途につく。


(明日はとりあえずクリア間近のゲームを終わらせよう。ラスボス倒してエンディングが見たい)


ゲーム大好きっ子の私が最近はまっているのは『天下再生』。とある大陸で繰り広げられている戦乱を終わらせるため、天性の武の才を持つ主人公が仲間と共に荒れ果てた国を平定するゲームだ。導入されているリアルタイム合戦は知恵の絞りがいがあって楽しいし、最初は難しかった平定した地域の発展も慣れてみるとできるようになり、地域ごとに特色があるのも面白くて興味が尽きない。

なにより登場人物がとても魅力的なところがのめり込んだ要因でもあり、特に私のお気に入りなのが白翠蓮(はくすいれん)と周玲安(しゅうれいあん)の義姉妹。亡くなってしまっている登場人物ではありながら彼女達が主人公の仲間に与えた影響が大きいため度々回想に登場するのだが、彼女達の過去に何度枕を濡らしたことか。

美人薄命という言葉がこれほど当てはまる美女はいない!…と何度友達に声高に語ったかは正直覚えていない。話しすぎたせいで最近は話しても流されちゃうけど。でもそれぐらい、彼女達は美人で可憐だった。


(思い出したら、振り返りたくなっちゃった。帰ったらすぐに彼女達のイベントを見直して、それで明日にエンディングを見ることにしよう)


数ヶ月かけて辿り着いた結末を見届けられることにわくわくしながら青信号を渡った瞬間、甲高いブレーキ音と共にとんでもない衝撃が体を襲い、宙に浮いたとわかる前に地面に叩きつけられた。そこかしこで悲鳴が上がり、「救急車!」「大丈夫ですか?!」と声が聞こえてくるけれど、自分の声が出ない。ぼんやりと見つめる先にトラックが見えるからあれに撥ねられたのかとなんとなく思うけど、それ以上はよくわからなかった。段々と薄れていく意識の中で先程まで考えていた姉妹の顔が浮かぶ。


(できることなら幸せにしてあげたかったなぁ…)


ゲームをしながらもずっと心で感じていた想いを思い出しながら、私の意識は闇に沈んでいった。

こうして私の人生は26歳を目前に幕を下ろしたはずだった。それなのに何故、ぼんやりとしたほぼ真っ白な世界が視界に広がっているの?え、死んだから?


どうにかして体を動かそうとするけれど、全然体の自由が利かない。


(益々、意味がわからない。)


すると首裏と背中に温かい何かが差し入れられ、そのまま温かいものに包まれる。すごくぼんやりとした視界は何も捉えてくれなくて若干の不安を覚えていると、頭の中?からか赤ちゃんが泣き出す前のようなぐずる声が聞こえてくる。


「よしよし。どうしたの?怖い夢でも見たのかな?大丈夫、大丈夫よ」


「夢見が悪い時は忘れるのが一番だ。よし、俺が笑わせて忘れさせてやろう。…面白い顔だ!」


「父上、その距離では見えませんよ。もう少し近づいてあげないと」


「そうなのか?気合いでも?」


「気合いでなんとかなるものではありません。一昨日も同じ事をして母上に諭されていたじゃないですか」


「うーむ…」


「お父様は覚えていらっしゃらないみたいよ」


「…父上、あなたという人は」


て、適当だ。適当すぎる、駄目だよ、この男の人。…あれ、ちょっと待って。今の会話って私の周りで聞こえてきたよね?え、ということはまさか、赤ちゃんって私のこと!?え、私、今、赤ちゃんなの?

確かめたくて試しに声を出してみたら、先日出産した友人が腕に抱いていた子どもが上げていた声と同じ声だった。


ああ、確定だ…。私、赤ちゃんになっている…。ということは、今私の周りにいる人たちが家族ってこと?えー、こんな適当そうなお父さん嫌だー。お母さんはとても優しそうだけど、お兄ちゃん(でいいのかな?)はちょっと苦労人っぽい?


私の機嫌の悪さを感じ取ったのか、お母さんらしき女性が繰り返し優しく声をかけてくれる。


「あなた、もっと近くで先程の顔を見せてあげてください。少しでも楽しい雰囲気が伝わるように」


「よし、わかった!任せてくれ!ほーら、明藍(めいらん)。今から面白い顔をするからな。よし、いくぞー」


……明藍?今、明藍って言った?


「ほら、丈成(じょうせい)も!」


「え、俺も?」


「当たり前だろう、お前は明藍の兄。つまり、妹を喜ばせるのはお前の役目だ」


「父上、めちゃくちゃです…」


兄が丈成。妹が明藍。ということは、ここは風野家?四大名家の一角の?…なんてこった!!ここは私が生前、エンディング間近までプレイしていたゲーム『天下再生』の世界じゃないか!

翠蓮ちゃんと玲安ちゃんを幸せにしてあげたかったなぁ、とは言った!言いました!けど、けど、まさか、自分がトリップするとは…。しかも、トリップ先が没落予定でその原因は自分…しかもそれはすべての始まりで…ああ、もう駄目…。


そこまで考えたところで急速な眠気に襲われた。思い出した多くの情報を受け止めるには赤ちゃんの体は未熟すぎたみたい。赤ちゃんの未熟な体で襲い来る睡魔に抗えるはずもなく、私の意識は闇に落ちていったのだ。

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