時津仇風
ぎんいろうさぎ
LOM
「……このバグ、まだ残ってるのか」
『LOM』――ここIDAスクール内限定のVRMMO、『ロード・オブ・マナ』にログイン中のセヴェンは、ぽつり呟く。
以前リアルでもそれなりに仲のいいフレンドがデバッグを請け負って来た際、セヴェンもバグ捜索を手伝ったことがある。依頼人と言う名の運営は、バグはすべて取り除けたと言ったそうだけれど。
ではここ、“廃村”フィールドの酒場に残る、この存在は一体。
「バグ……トレナイ……イヤダ……ミタクナイ……」
くすんだピンク色の鬣を持つ、犬のような馬のような四足獣。
話しかけてもこの通り、譫言のように繰り返すだけ。
ま、別にいいけど。
バグの前で何となくしゃがみ込んでいたセヴェンは、溜息混じりに立ち上がった。オレンジ色のグラデーションが混じる長い菫色の髪が、肩口からさらりと零れる。
そんな彼の背後から、呆れたような声が上がった。
「おい、何やってんだ」
振り向けば酒場の入口、声音そのものの呆れ顔を浮かべる銀髪の少年が。
今回臨時で組んだソーサラーは振り向いたセヴェンと目が合うと、今回のクエストにここは関係ないだろと言わんばかりに呆気なく背を向ける。
『LOM』のフレンドコードは現実世界でないと交換出来ない。臨時のフレンドとは言ったが、この銀髪のソーサラーことジェイドとは、つまりセヴェンもリアルでそれなりの付き合いがある。
(馴れ合いが苦手、ってのは俺もだけど、こいつの方がよっぽど頑なだよなぁ)
極めてどーでもいい感想を胸中で零し、セヴェンは「今行くよ」とジェイドの背中を追った。
尤も彼はセヴェンが反応すればそれでよしと判断したか、早々に「俺はもう戻るぞ。サキと約束がある」とログアウトしてしまったが。
さて、自分もそろそろ現実世界に戻ろうか――
「…………………………………………」
何か、聞こえた。
不思議に思い、ログアウトしようとした手を止めて周囲を見回す。だが声を、音を発しそうなのは、自分の他には件の獣しかいない。
気のせいだろうか。
セヴェンは首を捻りながらも、LOMから退出する――
🐾🐾🐾
人類が荒廃した地上を離れ、その上空に空中都市を築くようになって、幾星霜――
曙光都市エルジオンの下に広がる大地には、人類がまだ地上で暮らしていた頃、ミグランス王国と言う国が存在していた。
そしてミグランス王朝期、王国の片隅にはバルオキーと言う自然豊かな村があった。
生まれも育ちも空中都市と言う人間ばかりと言うここエルジオンでは今や信じがたい話だが、その信じがたい存在である地上育ちの人間が、一匹の黒猫と共にエルジオンのカーゴ・ステーションを歩いていた。
加えてその出で立ちは、かつてのミグランス王朝期の剣士のよう――と言うかまあぶっちゃけ、ひょんなことからこの時代にやって来た正真正銘ミグランス王朝期の剣士なのだが、周囲の人間は気合いの入ったコスプレイヤーとしか思っていない。
そんな周囲の視線も他所、彼と黒猫と同行者の少女はIDAスクール行きのカーゴ・バスに乗り込んだ。
「それで、マナ。もう一度説明して貰っていいか?」
周囲から見れば時代錯誤な衣装を纏う、黒髪の青年剣士――アルドに問われ、ピンク色の髪をおかっぱに切り揃えた少女が、こくり頷く。
彼に比べれば幼さの目立つ、マナと呼ばれた彼女は、自分の携帯端末を取り出して神妙な面持ちで口を開いた。
「セヴェンさんが行方不明なんだって。
スクールをサボることは、珍しくないそうなんだけど……でも、メッセージに既読も付かないから、さすがに変だって、フォランさんやマイティさんも心配してる」
星が導く不思議な
アルドのいる時代でも、火水風土と言った精霊の力はプリズマを介して行使するもの。だがセヴェンはそのようなものに頼ることなく風の力を操る、シャーマンと言う稀有な存在である。時空を超えたアルドの冒険の中で、セヴェンの風の魔法には何度も助けられたものだ。
そんな彼が行方知れずだなんて話を聞けば、アルドだって仲間のことが心配になって来る。……座席に座るが早いがアルドの膝の上に陣取った黒猫のヴァルヲは、割とどうでも良さそうに微睡んでいるが。
眉を寄せていたアルドは一旦眉間の力を緩め、息を吐き出した。
「そうか……マナ、詳しい話はスクールで、フォラン達からも聞かせて貰うよ。
でも本当、どうしたんだろうな? 何もなければいいんだけど……」
そんなことを話している間にも、彼等を乗せたカーゴ・バスは、IDAスクールの玄関口であるシティ・エントランスに到着した。
🐾🐾🐾
IDAシティ――エルジオンの数ある教育機関でもトップレベルとされる、IDAスクールを敷地内に擁した学園都市。エルジオンの浮遊プレートを丸ごと一つ使った広大な敷地には、校舎や学生寮は勿論、商業・娯楽施設も備わっている。
そのハイスクールに通う生徒達の中にも、時代を超えて出会ったアルドの仲間達がいる。例えば先程のマナの説明で、連絡の付かなくなったセヴェンを心配していた、マイティとフォランも。この時代の人間ではないアルドがIDAスクールの学生として籍を置くことになったのも、彼等との交流あったがためと言うべきか。
そして今回、彼等とは複合施設レゾナ・ポート内のカフェで、待ち合わせをしたのだが――
「アルド、こっちこっち!」
元気なメゾソプラノに呼ばれてアルドがそちらを見れば、藤色の長い髪を揺らして手を振るフォランの姿が見えた。すぐ傍のテーブルでも、ブルーグリーンの髪を持つ温和そうな少年・マイティがアルド達に手を振っていて、それに応じるようにアルドの足元でヴァルヲが一鳴き。
猫が苦手なフォランがさり気なくヴァルヲから目を逸らしたのは、見なかったことにして。
フォランとマイティのみならず、目つきの鋭い銀髪の少年や癖のない黒髪をショートボブにした少女、そしてフォランの藤色と同等の長さかつマイティのブルーグリーンをやや淡くした長髪を緩く束ねた青年も、同じテーブルに着いている。彼等もまた、アルドの冒険の仲間達だ。
尤も一学生としてスクールの制服に着替えたアルドがそこに加わっても、どこにでもいる少年少女のグループにしか見えないだろう。……入学する前は私服姿でうろうろしていたため、何かと目を付けられていたが。
「ジェイド、サキ、クロード――みんなも来ていたんだ」
「はい、アルドさん。私はあんまり交流はないんだけど、さすがに、心配で……」
「……ふん。俺は別に、サキがどうしてもと言わなければ……」
「事情はどうあれ、ジェイドもまたこうして友を案じて来たのだ」
「誰が友だ」
ぶっきらぼうに吐き捨て顔を背けたジェイドだが、ティーカップを悠然と傾けるクロードにさらりと言われて、不本意そうに振り返った。
どこから見ても顰めっ面ではあったが、そんなジェイドにもアルドは軽く微笑む。
しかし今は状況が状況である。注文したホットミルクに注がれるヴァルヲの視線をやり過ごしながらも表情を引き締め、改めて問うた。
「それで、セヴェンに一体何があったんだ?」
「あたし達もわからないよ。何日か前からいきなり連絡取れなくなっちゃったんだよね」
「スクールに来ないのは毎度のことだけど~……僕も授業中寝ちゃってるから、あんまり人のこと言えないけど……」
「マナからは、メッセージ? のキドク? がどうとか……」
「そうそう! あたし達、チャットグループ作っててさ。セヴェンもスクールには来てなくても、そっちには結構参加してたんだよね。なのに、いきなり……」
「ち、ちゃ、っと……?」
電子機器の存在しないミグランス王国民は、聞き慣れぬ単語に当惑する。隔たり甚だしいジェネレーションギャップに、サキが少し考えてから「相手がちゃんと読んだかが判る、すごく速い手紙みたいなもの……かな?」と説明した。
詳細はさておき、セヴェンの消息が不明と言うことは確かである。
「もう何日もそのやり取りに参加してなくて、連絡も付かない、のか……。
最後に何か、可怪しなことを言っていたりはしなかったのか? 手掛かりになりそうな……」
「全然。普段通りだったよね?」
「うん。ジェイドと一緒にLOMにログインするってだけかな~。それが最後」
「何か聞いてないの? 兄さん」
サキの疑問に同調するように、その場の全員がジェイドを見る。
見られてジェイドはいくらか居心地悪そうに顔を顰めたが、それでも記憶を辿るように、赤い視線を斜め上にずらして。
だが思案顔はほんの数秒、すぐに首を横に振った。
「特に心当たりはないな。少なくとも俺には、普段と変わらないように思えた。
クエストをこなして、すぐに別れた――その後のことは知らない」
つまり手掛かりはないようだ。
それにしても、スクール内ではどういう扱いになっているのだろうか。いくらセヴェンがサボりの常習犯と言っても、数日消息不明とあっては放置も出来ないのではなかろうか。
欠席せずとも授業そっちのけで寝てばかりで留年しかねなかったマイティだって、救済措置として追試が設けられたのだし。
それに何より、自分達だってセヴェンの身を案じているのだ、彼の家族なら尚更心配だろう。そちらが声を上げてはいないのだろうか。
「さすがにそこまでは聞いてないかな。
あ……でも寮生じゃないし、家庭の事情があって通学出来ないってこともあるかもね。だとしてもさっきも言った通り、既読も付かないってちょっとありえないんだけど」
「お家で何かあったのかな?」
「それでも、無事ならいいんですけどね……」
「よく考えてみたら、僕達もセヴェンの家には行ったことないんだよね。住所も知らないし」
「ではこの機会に、お宅訪問と行こうではないか。
なに、彼の住所なら私が調べておこう」
湿った雰囲気の会話に参加しつつも優雅に紅茶を飲んでいたクロードが、カップを置いた。長身を包む白い制服は、スクールの自治部隊であるIDEAに属する証である。
なるほど、スクール内の治安を守るため相応の権限と情報網を有する彼等なら、一生徒の住所も難なく調べられるだろう。
同じくIDEAのメンバーながら通常の紺のブレザー姿であるサキも、「手伝います」と立ち上がった。
サキの申し出に頷いたクロードは「では諸君、後程」と、緩く束ねた長い髪と白いマントとを揺らして悠然と去って行く――その堂々たる姿に「殿下だ。こんにちは」と周囲は声をかけ、亡国の王族は鷹揚に応じる。
紺ブレザーのサキは一見普通の生徒だが、彼女だってIDEAの一員だ。誰に何憚ることもなく、クロードの隣を歩いて。
出会った当初は諸々不安定に思えたサキも、今ではすっかり元気そうで何よりだ。クロードや他のIDEAメンバーとの仲も良好と聞くし、何よりも兄であるジェイドともちゃんと和解出来ているしで、アルドとしては微笑ましい気分である。
それはさておき。
「じゃあ、サキとクロードが調べている間、俺達は何をしようか。スクール内で誰かセヴェンのことを知ってる人は、いないかな?」
「一通りの聞き込みはあたし達もしたけどね。改めて――」
「フォラン。ここにいたの」
「げっ、ルイナ!!」
現れたその姿に、フォランが顔を引き攣らせた。
同席する彼等に比べて制服をきっちり真面目に着こなし、腰まで届く長い金髪を両耳の後ろで二つに括った女子生徒――その両耳が僅かに尖っていることからも察せられる通りのエルフであり、ここIDAスクールで長い間風紀委員を続けている、ルイナ。
彼女もまたアルドの仲間の一人であるが、表情に乏しいその白皙は今、やや怫然とした色を浮かべてフォランとそしてマイティを見据えている。
「マイティも。二人とも、追試があるのに」
「あれ~? そうだっけ?」
「そう」
いつか見たような呑気な表情でマイティは首を傾げ、ルイナは生真面目に頷いた。
確かマイティは、以前にも授業中寝過ぎていたせいで進級が危うくなっていたが――その時も追試を受けていたわけだが――
「マイティ……それに今回は、フォランもか……」
「いやぁ、テスト中にどうしても眠くなっちゃってさ~」
「あたしは単なる赤点……何あれ今回すっごい難し過ぎじゃない……?
まあセヴェンのことは心配だけど、あたしも単位の取得がかかってるからね……ごめんアルド、あとよろしく……」
追試組二人が不承不承立ち上がったところで、ルイナはようやくアルドに目を向けた。
「アルド。セヴェンがいなくなったことは、私も聞いてる。二人が彼を心配していることも。
でも、学生の本分は勉強。だから今は、ちゃんと追試を受けて貰う。
……二人が捜索に加わるのは、その後でも、いい?」
「あ、ああ……そうだな。ルイナの言うことも、尤もだよな。
セヴェンのことは俺達に任せて、二人は追試、頑張れよ」
「うん……じゃね、アルド……」
「何かまた寝ちゃいそうだなぁ」
「いや、寝るなよマイティ……」
その手の台詞が冗談に聞こえないのが、マイティである。
ルイナに連れられて行く彼等を見送ってから、アルドはふと、ジェイドを見た。
「ジェイドは追試……」
「あいつらと一緒にするな」
「うん、ごめん。
でもそれなら、ジェイドとは一緒に聞き込みが出来るな」
「何故俺がそこまで……」
「あれ? それとも、他に用事があったのか?」
「……特には、ない……が」
「じゃあ、いいじゃないか。それにスクール内のことなら、ジェイドの方が詳しいだろ? 手を貸してくれると、助かるんだけど」
アルドのみならずマナからも無垢な瞳を向けられ、ジェイドの眉間に皺が刻まれる。加えてアルドの膝の上、黒い被毛に映える金緑の瞳も、何を思ってかこちらを見つめていて。
だが妹や亡き親友との件でもアルドの手を煩わせた自覚があるジェイドにとって、彼の誘いは極めて断りづらい案件である――
(こうして面倒事に首を突っ込んで、俺みたいな奴を増やして行くんだよな、このお人好しの人誑しは)
自分と同様にあまり他人と馴れ合わないタイプのセヴェンが、アルドがいるだけで結構すんなり同行するのも、それゆえだろう。ジェイドも強引に入れられたグループチャットで結構楽しそうに発言をしている辺り、元々自分よりずっとフランクなのだろうけれど。
生憎ジェイドは、そこまで素直ではない。
それでも。
人の悪意も害意もそれなりに見て来た割には妙に済んだ、蒼い瞳に真っ直ぐ射られ――ジェイドは今回も白旗を上げた。
それに今はフォランもマイティもいないから、アルドにひっそりと打ち明けることも出来る。
「……一般の生徒には知らされていないんだが」
「?」
知っていながら恍けた挙句、アルドに伝える役割をさり気なくこちらに押し付けたクロードを恨めしく思いながら、ジェイドは軽く顔を顰めた。
「実はあいつの他にも、同じ日に二人、行方不明者が出ている」
「何だって!?」
「本当!?」
「声がでかい」
眉を寄せつつ咎めれば、アルドもマナも慌てた様子で自分の口に手を当てた。
ジェイドは素早く周囲の視線を確認――大声に驚いて振り向いたらしい者達もいたが、既にこちらへの興味を失っているようだ。もしアルドがあの時代錯誤な私服姿だったら、ここまですんなりスルーされなかっただろう。彼が入学するに至る経緯にはツッコミ所が満載だったが、それはそれである。
「……まったくの無関係ではないだろう。
だが生徒の総数から見ればほんの僅かだ、IDEAもあまり人員を割けないと聞いた」
「じゃあ、やっぱり俺達が調べないとな」
何が「じゃあ」で「やっぱり」なのかはさておいて、ジェイドは今は素直に頷いた。
🐾🐾🐾
とは言え。
「手がかりはなしか……」
スクール内で聞き込みをしてみたが、一般の生徒には知らされていないだけあってか、セヴェンの行方に関する有益な情報は得られなかった。
アルドは肩を落とし、マナも眉尻を下げるが、ジェイドにさほどの落胆は見られない。フォラン達が一通り調べた、あれ以上のことは出て来ないだろうと予想していたようだ。
「とすると、ここはセヴェンの家に行くしかないのか?」
「う~ん……
あ、ヒスメナさんだ」
「あら、マナじゃない。アルドも久し振りね」
考え込むアルド達の目に入ったのは、IDEAの白制服。裏地のロイヤルブルーも鮮やかなマントを翻して闊歩するのは、IDEAの一番槍と称されるヒスメナ。
早速ヴァルヲがマントにじゃれつこうとするが、マナが「駄目だよ」と抱き上げて止めた。
アルド達がマナと知り合った事件以来、マナはヒスメナを姉のように慕っている。それもあってだろうか、マナはセヴェンの一件についてヒスメナにも訊ねたが、彼女もまた首を捻るだけ。
「話には聞いているけれど、私もこの捜査には関わっていないから……。
あ、でも、関係ないかも知れないけど、セヴェンがいなくなったって言うその日にね、LOMにシステム障害があったの。それで今はログイン出来ない状態になっているわ」
諸々の事情で一応IDAスクールに在籍するアルド、LOMのアカウントも持っているが、そう頻繁にプレイしているわけでもない。
運営のお知らせにもまったくと言っていいほど目を通していないので、ログイン不可も初耳である。
「あまり大きな声では言えないんだけど、外部から侵入の形跡もあったみたい。その時にシステムの一部が壊されたとかで、フカヒレちゃんが必死になって作業してるわ……」
「あ、あんまり無理はしないようにって、伝えておいてくれ……」
開発者である少女の顔を思い浮かべながら、アルドは深く彼女に同情した。
具体的に何をどうするのかはさっぱり解らないが、遠い目になるヒスメナの様子からも、とんでもなく大変な状況のだろうなと言うことだけは察して。
「出来ればそっちも力になってやりたいんだけどな」
「それだったら、メンテナンス後のデバッグを手伝ってくれる人を募集していたわね。そもそも、メンテナンスがいつ終わるのかもはっきりとは言えないんだけど……さすがにそろそろ終わるんじゃないかしら」
「バグ探しなら、前にもやったな。
じゃあ、もしその時に手が空いていたら、俺も手伝うよ」
「伝えておくわね。それとセヴェンのことは、私も手が空いたら少し調べてみるわ。
それじゃ、私はこれで」
「ああ、助かるよ」
「ありがとう、ヒスメナさん! またね~」
そしてヒスメナと入れ替わりのように、先刻クロードと共にセヴェンの住所を調べに行ったサキが駆け寄って来た。
「お待たせしました。こちら、セヴェンさんの住所です」
「ありがとう、サキ。
ところで、クロードは?」
「それが……」
僅かに表情を曇らせたサキを見て、アルドも眉を寄せる。他者との関わりが薄いジェイドも、妹のこの表情には目を眇めて。
住所のデータを送ろうと自分の端末を取り出していたサキだが、すぐに送信せずに躊躇っていた、理由があると言う。
「この辺りは昔から、シャーマン一族が集まって住んでいるらしいんですけど……最近、喧嘩とかが不自然に多くて、治安が悪いそうなんです。
しかも数日の間で急に物騒になったから、何か可怪しいって、クロードさんが。もしかしたら、セヴェンさんがいなくなったことにも関係あるかも知れないので、詳しく調べてみるそうです。
私もそちらをお手伝いしようと思うんだけど、兄さんとアルドさんは……」
無論、現地入り一択である。
それが解るから、サキも治安が悪い一帯の場所を教えることに、不安があるのだろう。
しかしそれで怯むようなアルドではない。
「心配してくれたのか。でも、俺なら大丈夫だよ」
「まあ、こいつ一人で行くわけじゃあないしな」
「私も行くよ! 足手まといにはならないから」
渋々と言った面持ちだが、ジェイドも付き合ってくれるらしい。いい奴だ。
マナの回復や防御のスキルも、とても心強い。
ヴァルヲは……まあ、魔物や合成人間と遭遇するといつも素早く身を隠しているし、問題ないだろう。
彼等の決意を表情から見て取ったか、サキも頷いた。
「解りました。じゃあ、データを送りますね。気を付けて――」
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