第58話 仁義なきダンジョン攻略!陰陽師vs海兵隊!

 俺は一番近くにいたヤクザの持っていたライフルを蹴りで吹っ飛ばす。


「ぐぁ!!ぐぇええ!!」


 そしてそのままそいつの腕を極めて盾にしながら、そいつのタクティカルベストのホルスターに入っているハンドガンを抜き取って、近くのヤクザの腹に向かって5発ほど撃った。普通ならば銃で人を撃てば一発で死ぬ。だけど今のこいつらは俺の感知スキルの解析によると軍用の人体防護スキルを展開しているようだ。軍用の防護スキルは極めて高い防御力を人体に付与してくれる。銃弾が当たってもそれは打撃ダメージくらいまでは軽減してくれるから、撃たれても死にはしない。もっとも衝撃までは緩和できない。派手にダメージを与えても、殺さずに済むっていうのはありがたいことだ。


「ぐぼぅうう…」


 俺に撃たれたヤクザはその場に倒れ込んで、そのまま光の粒子になって消えた。なんていうのかなぁ。まるでゲームみたいな現象だ。さらに続けて、近くのヤクザたちも撃った。いずれもダメージを負って気絶すると、そのまま光の粒子になって散って消えてしまった。


「マリリンちゃん!なんでこいつら気絶すると、消えんの?ここってゲームの世界かなんかなの?」


 俺は気絶して消え去る前にヤクザからアサルトライフルを奪って、近くにいるヤクザ共にぶち込んでいく。俺は自己加速スキルを用いながら、ちょこちょこ動き回り、そのつどヤクザさんを関節技で極めて盾にしているから、ダメージはゼロだった。


「この異空間は言うならば、幻のようなもの。空間を制御するにしても、現実世界からの干渉を常に受け続けているから、術者が作り出した異空間っていうのはすごく不安定。だからこの異空間を人間が観測しているから・・・・・・・・・・・存在している・・・・・・という風に定義しなおすことで、現実世界に固定化するの。だからこの空間は人間の観測から見れば、一種の幻であると捉えられる。だから気絶すると当人にとって幻を見ているという観測が途切れて、ここから現実世界に吐き出されるのよ」


 背中の方からマリリンの解説が返って来た。


「ごめん!ぜんぜんわかんね!科学的に説明して!そんなふわっとした朝のニュースの占いみたいな説明はいらんのですよ!!ひゃはぁっーーーー!!」

 

 説明が謎過ぎてイライラしたので、周りにヤクザに弾をぶち込んで八つ当たりしてやった。本当にチンプンカンプンだった。ようは魔術師さんってやつらは、『これは存在しているって俺が信じているから、存在している!』って屁理屈を主張している変な人たちなわけだ。我思う故に我ありってアイディアは哲学だけで十分だよ。そして散々暴れまわってヤクザを全員倒して、マリリンの方を振り向いた。するとマリリンはヤクザに向かって光輝く防護バリアーを展開しているのが見えた。ヤクザたちはその盾に向かって激しく銃撃を繰り返していたが、一向に盾を貫ける気配がなかった。


「ねぇわかる?ハイヒールを履く女心って奴が…。ハイヒールは歩きづらくてその上痛いわ。でもねこれほど女性の足を綺麗に見せてくれる靴もないのよ。だから私は勝負の日にははこれを履くことにしたの。一番の自分を周りに見せたいからね」


マリリンはバックから念のために軍用ブーツを取りだして、ハイヒールからそれに履き替えているのが見えた。雰囲気だけで分かったのだ。マリリンはメッチャ怒ってる。


「そしてスカート。ミニのプリーツスカートなら戦える。ひらひらするからね。でもねタイトは無理。そう無理なのよ…。だからあなたたちを恨むわ…。スカートを自分の手で裂かねばならない、女の屈辱を味合わせてくれたあなたたちをね…!」


 マリリンはスカートの裾を摘まみ、スリットを作るように縦に引き裂いた。そしてヤクザたちの銃撃が止まった。弾切れだろう。ヤクザたちは慣れない手つきでベストからマガジンを取りだして、再装填しようとした。だが、それを見逃すようなマリリンではない。


「食らいなさい!!」


 マリリンはバリアーを解除して、近くのヤクザの腹に思い切り拳をぶち込む。


「ぐはぁ!!」


 そしてそのままそいつからライフルとハンドガンを奪い撮った後、思い切り別のヤクザに向かって蹴り飛ばした。そして巻き込まれて倒れ込んだヤクザたちに向かってライフルの弾をありったけぶち込む。


『『『ぐぼおおお!!』』』


 気絶するまで銃弾をぶち込まれたヤクザたちはそのまま光の粒になって消え去った。そして右手にアサルトライフル、左手にハンドガンを持ったマリリンは悠々とヤクザたちの中に飛び込んだ。


「憲法修正第二条!これが規律ある民兵の力よ!!」


 マリリンはヤクザの輪に囲まれ、一斉に撃たれた。だがそれらを軽やかなステップだけで躱して、クルクルとその場で回ったり、時にしゃがんだりしながら逆にヤクザ共を両手の銃で撃っていった。


『『『『ぎゃあああああああああああああああ!!』』』』


 ヤクザたちは皆マリリンに的確に撃たれて、気絶してしまった。そして彼女を取り囲んでいたヤクザたちは皆、光の粒子となって消え去ったのだ。これでホームには誰もいなくなった。


「マリリン。もしかして邪眼を使って回避したの?」


 俺はマリリンの傍に駆け寄った。スカートの切れ目から見える濃い目のストッキングに包まれた太ももが艶めかしい。


「そんなもの使わなくても、これくらい造作もないわ。経験と相手の視線と手の動きと気配だけで銃弾の来る場所を予測し避けながら反撃することなど海兵隊員ならば誰にでもできるのよ」


 ドヤってくるマリリンが可愛く見えるんだけど、この子はヤクザを一方的にボコってるんだよね。鬼嫁がここにおりますよ!


「すげぇな海兵隊…」


「ええそうよ。海兵隊員に不可能はないわ!イツキ二等兵!少佐のあたしのケツにぴったりついてきなさい!!」


「…ええ…。俺は二等兵じゃなくて社長のはずなのに…」


 マリリンはアサルトライフルを構えて、そのまま特殊部隊式の歩法で俺の先を走り始める。俺も奪ったライフルをマリリンの真似しながら構えて、その後ろに続く。


「イツキ。止まって」


「うん?なんかあるの?」


 俺たちはホームから上がって自動改札機の前までやって来た。そこでマリリンはハンドサインで俺に停止を指示してきたのだ。


「ちょっと見ててね」


 マリリンは懐からメモ用のペンを取りだして、それを改札機に向かって投げた。するとそのペンは改札機の上を通った時に、ふっと消え去ったのだ。そしてどこか遠くの方から、カツーンという音が微かに響いてきた。改札の柵越しに見えるホールのど真ん中にマリリンのペンが落ちて転がっているのが見えた。


「おいおい…もしかしてこれってテレポート?!」


 テレポートは天然の異能者の使用例は見つかっているが、異能スキルではまだ発見されていない異能の一つだ。これが発見されれば世界の流通は大きく変わるだろう言われ、経済システムが抜本から変わるだろうと予言されている。


「正確には違うわね。方違えって聞いたことある?」


「なにそれ?寝違えみたいなもの?」


「全然違うわね。方違えは平安時代の貴族などが目的地へ移動する際に縁起の悪い方角を避けて、何処かへ一端寄ったり泊まったりした一種の呪術ね。あの無栄とかいう陰陽術師はそれをあたしたちに強制してるのよ。大したもんだわ」


 どうやら日本文化の事らしい。そして外国人の嫁さんから日本文化についてレクチャーされる日本人夫が俺です!なんか情けない気持ちになってきた。


「…ええ…まじで朝の占いの世界じゃないか…ラッキープレイスは公園のベンチです!仕事をいっぱいサボりましょう!みたいな…。…くそ!こういうのがあっちこっちに張ってあるわけだな。ジグザグ走らせるために!」


「そういうことね。幸い方違えは対象に対して悪意を与える概念ではない。だから攻撃目的での使用はできない。方違えで別の場所に転送されても、そこにいきなり即死級のトラップとかは置けない。魔術っていうのはそういう概念に縛られるものよ。だけど!」


 マリリンの瞳が淡く光った。そして同時にあっちこっちに陽炎が見え始めた。どうやら俺の視界にマリリンが邪眼で情報を送ってきているようだ。マリリンは近くの陽炎の無い策を乗り越えて通路に躍り出た。俺もその背中に続く。互いに背中をカバーしながら通路を警戒しながら歩く。


「あたしの視界とリンクさせたわ。陽炎が方違えが発生している場所ね。行き先はあたしでも近づかないと捉えられない。一応この異空間構造の全貌はふわっとだけど、邪眼で捉えたわ。マッピングしながら進むわよ。こういう異空間は術の起点となる物や場所を破壊するか、術者を倒せば解除できるの。ふふふ。ちょっと楽しくなってきたわね。あたしは現役時代は散々拠点制圧をやってきたのよ。陰陽師ごときカビの生えた存在が世界最強の海兵隊員に及ばないことを証明してやるわ!」

 

 凄く獰猛な笑みを浮かべたマリリンが楽しそうに腕を振り上げる。やる気に満ちていて大変結構。


「海兵隊員vs陰陽師…。すげぇB級感溢れてるなぁ。そして…そこにダンジョン攻略。そして…ヤクザか…ふぅ…」


 また例によって俺たちの近くに陽炎が現れてヤクザたちが現れる。おかしいな…俺ってベンチャー企業のやり手若手社長キャラだよね?なんでこんなハリウッドでもやらないようなカオスな状況になってるんだろう?人生ってよくわからないそう思った。

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