第28話 登記を出すのと結婚届を出すのって似てる。どっちも勢いが大事!

 結婚に必要な書類を揃えて、俺は本籍のある区役所にやってきた。


「結婚届を提出する前にはもちろん記念撮影をしましょう。そして出すときは2人で同時に出すのよ。あんたが右側、あたしが左側を持つから」


「こだわりすぎじゃないかな?あはは」


「何言ってるの?人生に一度しかないイベントなのよ!こだわるのはあたりまえでしょ!!」


 マリリンさんはぷんすかぷんすかと頬を膨らませてた。うーん。でもね、人生に一度だけって言葉がおじさんには重すぎるかなって…。これ偽装結婚だよね?もしかして違うのかな?はは…ははは…。


「樹。結婚は勢いだ。なに。案外何とかなるもんだよ」


「ははは。…でもこうなるってわかってたなら、父さんと母さんに言ってみたかったな…俺も結婚できたぞって。まあ死んだからこそ、こうなったんだけどね」


 今回書類の提出には文矩がついてきてくれた。不測の事態が発生することはたぶんないけど、一応俺らの結婚はバリバリの違法行為なので、いざって時の為の弁護士が欲しかったからだ。後いまだに微妙に尻込みしてる俺への応援も兼ねてる。事実上、文矩が俺たちの仲人なのだから。


「クエンティンさんはお前のご両親にも好かれてたし、お前のことを憎からず思ってる。なら別にこんな形でなくても、結婚してたかもよ。…いいじゃないか。出会いの形なんて、その間の出来事だって、今一緒にいることの方がずっとずっと大事だよ。結婚はいい。二人の別々の人間をずっと一緒に居られるようにしてくれる人類最大の発明だよ。お前がこれから先に発明するすごい技術や理論でさえ、結婚というアイディアには敵わないだろうね。まあ、がんばれ!あの子は大丈夫だよ!いい子だからさ!」


 文矩は俺の背中を男らしくバンバンと叩く。気合い入れてくてるっぽい。そしてマリリンが傍にやってきて。


「水無瀬さん。写真お願いします」


「よし、任せろ!」


 わざわざこのために高級デジカメをマリリンは俺にねだってきた。マリリンは俺の両親が死んだあの日以来、やたらと写真を撮りたがるようになった。マリリンは俺の両親と一緒に映った写真が一枚もないことを悔いていた。さらに言うと米軍での粛正から逃げるときに、兄弟たちと撮った思い出の写真も持ち出せなかったそうだ。だからこれから積み重ねたいのだという。そんなの断れるわけないよな。


「はい!ちーず!」


「「うぇーーい!!」」


 俺たちは結婚届を2人で手に取りながら、笑みを浮かべて写真を撮ってもらった。そしてそのまま窓口に行き、二人で一緒に結婚届を提出したのだった。


「はい。問題ありません。届は受理されました。ご結婚おめでとうございます」


 提出した関係書類の類は特に疑われることもなく無事に通過し、晴れて俺たちは法的には夫婦になったのだ。


「じゃあこのままあたしの苗字を神実に…」


「マリリンちゃーん!今日はこれから美味しい所にディナーに行こうよ!ね!そうしよう!!ね!」


「ん?そうね。確かに特別な日だもね。奮発してもいいでしょう。楽しみだわ。ふふふ」


 マリリンちゃんはご機嫌がよろしいようで俺のごまかしが通用してくれた。神実マリリンの爆誕はなんとか阻止できたのである。


「くくく…。お前がクエンティン樹になってもいいんだぜ…くくく」


 文矩くんが超ウザい煽りを入れてくるが、俺は大人なのでスルーする。夫婦になってしまった俺たちはそのままの足でディオニュソス社の登記も役所に提出した。なおこの時、マリリンはこう言った。


「会社はあんたのものよ。あたしは出しゃばらないから、一人で堂々と出して頂戴。あたしはそれを見届けさせてもらうから。妻として!」


 最後の一言は余計だが、マリリン的には会社のことに原則として口を挟む気はないようだ。勿論マリリンは社畜第一号としてこき使う予定だけど、よく世間の奥さんが旦那の仕事に口を挟むような真似はしないつもりらしい。…あれ?この子はもしかしたらすごくいい女なのでは?例によって文矩に写真を撮ってもらいながら、会社の登記を提出した。こうして俺の人生は新しいステージに突入することになったのだ。


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