第19話 店員さんに乱暴な口調で話す系社長
「なんでお前がここに…」
「何って?ハルトくぅううんが俺のところにお友達を遣わしてくれたんじゃないか!あれって招待状なんだと思ってたよ!お前も水臭い男だよね。クルル式アルゴリズム!俺だって同じ研究室仲間じゃないか!こんな素敵な技術を使ってるなら教えてくれてもいいじゃないか!」
「あわ…えっ…ああ…」
言外にお前のやってることは全部知ってるぞと匂わせるわけだが、肝心のハルト君ったら動揺し過ぎでアワアワしていやがる。奇襲作戦はうまく行ったみたいだな。俺はマリリンを連れて演台に向かって歩く。プレッシャーをかけながらだったから、火威は後ずさりしていく。だせぇな。これならあっさりケリがつくかも、そう思った時だ。
「やあ神実殿。昨日ぶりかな?」
「お前は…昨日のハゲ…」
火威を守るように、昨日俺たちを襲ったハゲの殺し屋が立ちはだかる。今日は白のオシャレで派手なスーツを纏っている。殺し屋のくせになんでこんなに派手なのか?まあそんなことはどうでもいい。そしてハゲは口を開いた。
「はーい!会場のみなさーん!さっきの
ほう。やるね。スキンヘッドの殺し屋さんは今の騒ぎをイベントってことにして誤魔化して見せた。会場の連中はそれで納得したようで、みんな笑顔で盛大な拍手を送り始めた。残念ながら誤魔化されてしまった。
「いやあ。火威社長のメンタルを見事に追い詰めたねぇ。ここで特許について問い詰めて自白させて炎上させるつもりだったんだね?」
スキンヘッドの殺し屋は、演台でまだ少し呆けている火威を見ながらニヤニヤと笑ってる。こいつあいつの部下ってわけでもないみたいだな。雇われてるだけの関係みたい。
「まあな。あんたの所為でおじゃんだけどな」
「流石は神実殿だね。まさかいきなり魔王城に乗り込んでくるとは思わなかったよ。僕がいなかったらここで特許の話が外に漏れて、株式上場は見送られる。さらには訴訟の嵐か何かになるんだろうね。あなたはそれで勝利をおさめるわけだ。だけど同時に悪手でもある」
「いい手だろ?俺みたいな貧乏人ならこういうテロまがいの奇襲が一番効果的だ」
「ううん。はっきり言って悪手だよ。神実殿は一つ思い違いをしてる。これだけの大企業を築いた男なら多少の器はあるって思ってるんじゃない?」
「俺から特許を盗んだのは間違いないが、会社を育て上げたのはそいつだろ?なら多少は才覚もあるんじゃない?」
「そこが思い違いだね。神実殿。この世界にはどうしようもないほど、恥知らずで器の狭い男がいるんだよ。…あれをご覧よ」
スキンヘッドの男は顎で火威を指した。火威は俺に対して、恐怖と同時に憎しみを込めた目でひどく冷たく睨んでいた。逆恨みの視線だな。ここらで一つ〆ておく必要があるな。俺は火威に近づき、まるで友達の様に肩を組む。
「やあ、はるとくぅうん!お互いいい芝居が出来たな!だからこれから打ち上げ行こうぜ!!最上階にここのテナントの社員しか入れない会員制のレストランがあるんだろ?案内してよ」
「お前は何を言ってるんだ…!あんなことをしておいて!」
「しー!みんながまだ見てるぞ。いいのかな?ここでまた騒いだっていいんだ。今の時代はすぐにSNSに情報が拡散するぞ。実はさきから俺たちはお前の映像を取ってるんだ。さて?これを外に漏らしたとしてだ、世間様は果たして特許についてどうジャッジするかな?ん?どう?」
ボディカメラで動画は確かに撮影しているが、この脅しの半分ははったりだ。世間が特許について疑念を持つかどうかははっきり言って確信が持てない。むしろ俺が頭のおかしい人扱いされて終わりかも知れない。だけどこの場でこいつがその可能性にビビってくれるならそれでいい。
「…っち!…いいだろう。お前じゃ一生入れないような場所だ。せめてもの思い出をくれてやろうじゃないか…」
「もちろんお前の奢りな!当たり前だよね?特許の御蔭でお金持ちだもんね?」
「くそ!お前は昔からいつも…!!」
俺相手にイキってみても無駄だよ。これでも口喧嘩には強いって自覚があるんだからな。俺はそのまま火威と肩を組んだまま社員食堂を出て、エレベーターホールに向かう。そしてついたエレベーターに火威を突き飛ばして、俺も中に入る。そしてマリリンとハゲの殺し屋も俺に続いて入ってきた。
「いやあ。マリリンちゃん。また会えてうれしいよ。夢で見る君も素敵だけど、やっぱり本物は愛らしい」
ハゲの殺し屋はマリリンにヘラヘラした調子で声をかけてきた。まじで緊張感がない。俺も火威も黙りこくってるのに、楽し気なままだ。
「あなたはマジで気持ち悪いわね。ここにいるってことは殺し屋だけじゃなくて護衛もやるの?」
「まあね。護衛の仕事はいいよ。待ってるだけ強い奴が襲ってきてくれるからね。腕を磨くには最高の環境だよ」
「戦闘狂ね。まったく理解できないわ…」
ニヤニヤと笑うハゲの殺し屋は、スーツの懐に手を入れた。マリリンはそれに機敏に反応した。そして俺を守るために、ハゲと俺との間に立ちはだかった。
「大丈夫大丈夫。依頼主に危険が及ぶところでバトルするほど馬鹿ではないよ。これを渡したくてね」
そう言って、スキンヘッドの殺し屋は、マリリンに向かって名刺を差し出した。それには『護衛屋兼殺し屋
「なんのつもり?」
「今回の仕事だけでなく、今後末長いお付き合いになると思うんだ。だから渡しておくよ。僕の名前は匕口魁だ。今後ともぜひよろしく」
本当に緊張感がない。だけどここでこいつ相手に騒ぎを起こしても意味がない。マリリンもそれはよくわかってる。だから彼女はその名刺を受け取った。そしてエレベーターは最上階についた。そして俺たちは噂のレストランの前に着いた。すごく品の良い門構えのテナントだ。そして店の中に入ると品の良いスーツを着た、コンシェルジュが俺たちを出迎えた。
「火威さま。ようこそおいでくださいました。いつものお席なのですが、ただ今の時間、他のお客様がご利用中です。他のお席でしたら、すぐにご案内できますが」
店先から見える客席には多くの人がいた。会員制の店らしくお客さんはみんな金持ちそうな感じ。
「いいや、いつもの席だ!これから大事な話をする。それと今店にいる他の客を全員今すぐに帰らせろ」
いきなり無茶なわがままを言い始めた。まるで子供みたいだな。マリリンはドン引きしてるし、匕口は苦笑いしてる。
「ですが火威さま!そんなことはいくらなんでも出来ません!他のお客様はお食事を楽しんでおいでなのです!」
「いいからやるんだ。おれはラタトスクの社長だぞ!こんな店くらい、いつでも吹き飛ばせるぞ?…できるよな?」
「…ぐ…かしこまりました。少々お待ちくださいませ…」
コンシェルジュは悔し気に顔を歪ませて一礼して、店内の各席のお客さんたちに頭を下げていく。お客さんたちは火威の方を見て、嫌悪感と同時に恐れのような目を向けていた。そして全てのお客さんが俺たちの横を通って店の外へと出て行った。
「…火威さま。席が空きました。どうぞこちらへ」
「うむ。ご苦労」
火威は俺に得意げな顔を向けた。自分にはこれだけ権力があるんだと見せつけたいわけだ。まるで王様気取りだな。本当に馬鹿馬鹿しいと思った。
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